第八十二話 一次試験終了
「ついた……」
「ですな……」
リザードマンを連続で相手にするのはかなり疲れた。
それに、途中で離脱して引き返していく人達はみんな匂い袋を持ちながら帰る事を許可されているので、リザードマンはほとんどが二層に向かう俺たちに襲いかかってくる。
受験者の人数の減少に比例して、俺たちに向かってくるリザードマンの数は増える。
正直、結構疲れた。
それでも何とか二層にたどり着いたのは全受験者の3割ほどだろうか。
「ほー。今年は結構すげえなぁ。去年なんてここで残り1割ぐらいだったのになー。まぁ、何はともあれおめっとさん。一次試験合格だ。今から宿まで向かう道中は匂い袋の使用を許可する。それで随分、寄ってくるモンスターも減るだろう」
試験官のその一言で、俺たちはみんな臭い袋を鞄から取り出す。
すごく臭い集団の完成だ。
鼻を刺激する匂いに耐えつつ、俺たちは宿へ向かった。
「古森殿、古森殿……」
宿へ向かう道中、キミヒコがそう俺を呼んだ。
「ん?」
「凄いと思わないでするか?あの試験官」
「試験官……?」
「うむ、拙者達と同様にリザードマンに襲われていたはずなのに、傷のひとつもないどころか息の一つも乱れてないでありまするよ……」
そう言われてみれば、自分のことで精一杯だったが、あの人もリザードマンに襲われていたはずだ。
しかも先頭だから、誰よりも多くのリザードマンに。
それなのに傷もなければ息も乱れてないのは確かに凄い。
「上級冒険者なんじゃないか?」
となるとやはり、そう言う事だろうと予想して俺は答えた。
政府直轄の薔薇十字団の他にも数人、この第五迷宮を拠点にしている上級冒険者はいると聞いている。
甲賀曰く、今日からしばらくは上級冒険者全員が第一迷宮に呼び出されているらしいが、この人は試験官だから特例なのかもしれない。
「うむ、やはりそうなのでしょうな……。いやはや恐ろしい……。同じ人間だとは思えないほどの強さ……。もしやニュータイプか……」
「何だお前ら、さっきからベラベラと余裕じゃねえか」
「はぅっ!いや申し訳ないっ……」
「別に喋るななんて言ってねえよ。逆にこんな試験、しゃべってやれるぐらいじゃねえと中級冒険者になる資格はねえと俺は思ってすらいる。その点じゃお前らは有望だな」
「は、はぁ……」
「有望、良い響きですな……」
そうこうしているうちに、俺たちは宿に到着。
二層の宿、前に一度来た時はティーノさん達の謎のバトル?を見たりした思い出の宿だ。
「古森殿〜、あとで飯でも一緒に食わぬかー?」
「ああ、いいよ。先に風呂に入るからその後でも大丈夫?」
「うむ、ではまた準備ができたら拙者の部屋を訪れてくれますよう」
そうして俺は風呂に入り汗を流した。
そして、その夜はキミヒコと共にアニメ談義で盛り上がり、眠りについた。
明日の二次試験頑張ろうなんて思っていた俺は、その時に起こっている事に気付いてさえいなかった。




