第八十一話 一次試験
「で、ですからですなぁ!妹系ヒロインとは言っても僕妹の桐乃は拙者はどうも苦手でございまして……はぁはぁ」
「それはっ……はぁ、わかってないなっ!はぁはぁ……、桐乃こそ妹属性にツンデレを兼ね備えたキャラクターの完成系だっていうのにっ……はぁはぁっ……」
「ちがーう!拙者はっ!妹にツンデレを求めてない!求めちゃいけないんだ!そんなもの!はぁはぁ……」
「まぁっ……、そこはもう個人の価値観っ……!危ないっ!」
喋りつつも辺りを警戒していた俺は、キミヒコの横から走ってきたトリコを剣で切り倒した。
キミヒコとは、さっき話しかけてきた謎の男だ。
なんだかんだで自己紹介し、なんだかんだで仲良くなった。
ちなみにキミヒコ、としか教えてくれなかったからそう呼んでいるだけで下の名前で呼ぶほど仲良くなったというわけではない。
「はぁはぁ……、かたじけないっ!それにしても古森氏はかなりやりますなぁ……。ずっと走っているのに常に辺りを警戒していますし、何より拙者のオタ話にここまでついてこれるなんて……」
「一応二層までは行った事あるからなっ……、ていうかそろそろリザードマンが出てくる辺りだしっ……、喋るのも控えないとだぞ……」
「御意っ……、ずっと走りっぱなしだとっ……、迷宮の力を身体エネルギーに還元していても辛いですからなっ……」
そう、さっきからはあはぁ言っているのは俺たちがずっと走り続けているからだ。
というのも、一次試験の内容が先頭を走る試験官の後について二層まで行くこと。
キミヒコがとにかくめちゃくちゃ口数の多いやつで、なんだかんだで話し込んでしまったけど正直ずっと走るというのは結構きつい。
ただ走るだけなら魔力もあるから余裕かもしれないが、四方八方から迫り来るモンスターを意識しながらとなるとこれが一気に辛くなる。
それでも正直、まだ余裕はあった。
リザードマンの生息地、つまりは一層の奥地に行くまでに受験者のおよそ3割は脱落していったが
これまでの経験と甲賀との修行で魔力の使い方をかなりマスターしていた俺にはまだまだ余力が余っている。
にしても、キミヒコも凄いな。
隣で走っている彼を見てそう思う。
さっきからずっと楽しそうにアニメの話をしつつも、的確にモンスターの気配を察知して排除している。
それに少し息は乱れているものの、まだ顔には余裕が見えた。
それでももうそろそろモンスターも強くなってくるから油断は禁物だ。
そう考えていると、試験官が今日初めて立ち止まった。
「今年は結構残ってんな。まぁいいか。どうせ次で一気に減るんだし。よーし!今から10分休憩してからこの森を抜けて二層に行く。今のうちにしょんべんでもやっとけー」
そしてそう言うと、試験官はそそくさと茂みの方に行った。
そして受験者も用を足しに行くもの、疲れて座り込むもの、様々だ。
俺も少し息を整えるためにその場に座り込んだ。
「そろそろもう一度、気を引き締めなおさないとな。この辺りからは万が一がある」
そして隣に座っているキミヒコにそう声をかける。
「ですな、流石にオタ話も一旦お預けですぞ。また二層の宿に行ってからじっくりと」
「キミヒコも二層に行った事があるのか?」
「ん、まぁ一度だけですけどな。ちょっと強いパーティーに連れて行ってもらいまして」
やはり、キミヒコは低級冒険者ではかなりの実力者なんだろう。
低級冒険者で二層まで到達する割合はかなり少ないと、前に甲賀が言っていた。
「それにしても、古森殿は低級冒険者とは思えないですな。拙者こう見えても低級の中ではそれなりにやれる方だと思っていたのですが、いやはや古森殿は今まで見た冒険者の中でもかなりの強者ですぞ」
「いや……、そんなことないよ。ただまぁ、色々あって修羅場はそれなりに潜ってる、というか経験してるかな」
「ほほう、お互い合格できると良いですなぁ」
「だな」
少しお喋りなところがあるが、キミヒコはかなり良いやつだ。
万年ぼっちであまりコミュニケーションが得意な方じゃない俺が短期間でこんなに仲良く話せるほど、親しみやすいと言うか、不思議な雰囲気を持っている。
「よし、再開だー!もう一度言うが、一次試験は二層まで俺についてくること!ここから先はモンスターも強くなる。自己責任で各自判断しろよー」
そう考えていると、10分が経過して試験官がそう俺たちに声をかけ再び走り出した。
キミヒコも流石にこの辺りからは本気になっていて口数は減っている。
俺も辺りを警戒しつつ走って倒すことに専念し、試験官の後を追いかけた。




