第八十話 中級冒険者試験スタート
「じゃっ、頑張ってね」
中級冒険者試験当日、試験会場である第五迷宮の前で甲賀にそう励まされ
「おう!」
と威勢よく言葉を返す。
「甲賀は、これから第一迷宮まで?」
そして続けてそう質問する。
「うん、突然なんだもん。第一迷宮最深部の階層主を見つけたから討伐するって、万全に万全を期すために上級冒険者は全員駆り出されるらしいわ」
第一迷宮、1番初めに出現した迷宮で今最も攻略が進んでいる迷宮だ。
最深部といっても、あくまで今攻略が進んでいる所という意味だろうけど、階層主を倒してさらに下に進めばこの迷宮の正体にまた一つ近付く。
それにしても上級冒険者全員をってのはいささかやりすぎな気もするが、それだけ国はこの迷宮に力を注いでいるんだろう。
「昨日電話かかってきてたもんな。じゃあ、そっちも気をつけて。俺の方は例年通りなら2日ほどで終わるんだっけ?もしも心配だったらユナちゃんの様子とか見にいこうか。甲賀はしばらく帰れそうにないんだろ?」
第一迷宮がここからかなり離れた地域にあるし、そもそも最深部まで行くのにも数日はかかる。
中学生の妹が家でずっと1人ってのも不安だろうと俺はそう聞いてみる。
「まぁ、あの子は慣れてるけどね。でもせっかくだしお願いしようかな。喜ぶだろうし。その前にアンタがきっちり試験に合格するのが1番大切だけどね!」
「だな……。でも不思議と緊張はしてないから、なんだか行ける気がするよ」
「まぁ低級冒険者であそこまで修羅場潜ってるのもアンタぐらいだろうからさ。正直実力的に考えても絶対大丈夫だと私も思う!でも」
「油断大敵、だろ?」
「そゆこと!まっ、頑張んなさいよ。私もそろそろ行かないと」
「おう、そっちも頑張れよ!」
そうして甲賀と別れて、俺は迷宮扉の前まで向かった。
あたりにはそれらしき冒険者がちょっとした集まりになっている。
一層でよく見るような冒険者とは明らかに雰囲気も身に纏っている防具も違った。
甲賀にああ言ったが、それを見て少し緊張が走る。
「おうふ!見てましたよ!見てましたよ!いわゆる一つのツンデレ要素!2000年代初期のアニメーションヒロインを感じさせるあの口調!そしてあの端正な顔立ち!んんー!まさしくツンデレヒロインでしたなぁ!」
そんな俺の緊張をぶち壊すように、ふいに後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこにはかなり恰幅の良い小柄な男性。
歳は、、分からない。
俺と同じぐらいに見えるし、めちゃくちゃ年上にも見える。
そんな男が笑顔で立っていた。
「……へ?」
男の言った言葉が理解できなかった俺は、そんな素っ頓狂な返事をする。
「ですから!さっき貴殿が話していた少女でありまするよ!!あの少女、まさしく拙者が理想とするツンデレヒロイン!っといいましても、あくまでツンデレヒロインの理想であって、拙者個人の推しは妹系ヒロインでありますからそこはお間違いなきよう」
「……」
聞き返しても何を言っているかわからない。
妹系ヒロインが好きというのはかなり同意出来たが、いったい何と返答すれば良いのかそれが分からなかった。
男のかなりの圧に俺が困惑していると
「よし!これから第五回中級冒険者試験を開始する!」
という声が前から聞こえた。
見ると、試験官だろうか。
かなり体格の良い冒険者らしき男が立っていた。
「おうふ!始まってしもうた!せっかく良きコミュニケーションを貴殿と取れると思っておったのにー!まっ、貴殿も中級冒険者試験を受けるとお見受けするが?一緒に頑張ろうぞ!」
「あ、ああ、が、頑張ろう」
そうして、よく分からない男に声をかけられつつ
俺の中級冒険者試験はスタートした。




