第八話 迷宮商人
「コングラッチュレーション!いい戦いだったぜアンちゃん」
バットピグを倒し終わり、俺がうおおおっと雄叫びと言ってもそこまで大きくない声で喜びを表現していると、後ろから声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには身長190はあるんじゃないかってぐらいの背丈で、しかも筋肉隆々なザ・大男が立っていた。
おまけに髪型はモヒカンで決めていて、どこかのRPGから出てきたキャラクターかというぐらいキャラが立っている。アニメだったら世紀末でヒャッハーと言ってそうな雰囲気だ。
「あ、え、ああ、どうも、ありがとうございやす。はは」
いきなり戦いを称賛された俺は、持ち前のコミュ障具合を存分に発揮し返事をした。
ていうか、いきなり話しかけてきたが、何の用なんだこの男。自分で言うのもなんだが超低級モンスター、バットピグを倒しただけだ。それをわざわざ見ていて、しかも声までかけてきた…。
なんか怖い。
ふと、嫌な予感が頭をよぎる。
もしや…冒険者狩り…!?
迷宮という場所は、現代の監視カメラだらけの日本と違ってそう言った防犯設備が一切ない、一応は身分をしっかり明かし、試験を合格したものしか入れない所だが、それでも迷宮内で犯罪行為を行うものは存在する。もちろん捕まれば冒険者ライセンスは剥奪の上、速攻で刑事罰を受けるが、何処にでもヤバいやつってのは存在するもんだ。
そして、冒険者狩りとはその代表ともいえる犯罪行為のひとつだ。
自分よりも弱そうな冒険者を狙い、金品や武器防具、迷宮石なんかを奪っていく。まぁいわゆるカツアゲ、この迷宮のイメージに沿って言うと盗賊的な行為。
俺が冒険者になる前は、一人で迷宮に入ってはいけないというほど冒険者狩りは横行していた聞く。
しかし、一年ぐらい前、俺がまだ大学生だった頃に、迷宮を拠点として犯罪を繰り返す組織のリーダーが逮捕された。そのお陰で、かなり冒険者狩りも減ったらしいし、現に俺も半年間、一人で迷宮に潜り続けた。
まさか、スライム以外のモンスターを倒した記念すべき日にこんな目に会うとはな…。
俺はほんの少し、男に気づかれない程度後退りする。
もちろん逃げる準備だ、勝てるわけがないからな。
そんな俺の警戒心マックスの雰囲気を感じ取ったのだろう。
男はにこやかに笑い
「いやいや、そんな怖い顔しなくても大丈夫だ、いき
なり声をかけて悪かったな!俺はこういうもんだ」
と懐に手を入れた、一瞬武器でも出されるんじゃないかと身構えたが出てきたのは一枚の名刺だった。
俺はそれを受け取り、
「迷宮商人…、右田甚五郎…」
名刺に書いてあることをそのまま呟く。
下の方にはメールアドレスと、なにかのURLも書いてあった。
「そう!名刺に書いてるとおり、俺は迷宮で物売りを生業にしてる右田ってもんだ。だからまぁ冒険者狩りとかじゃないから心配すんな。ちなみに下のURLは俺のホームページ!」
迷宮商人…、聞いたことがある気がする。確か武器とか防具、素材なんかを売り歩く冒険者だ、よく見てみると男の背中には、男が背負ってもなお大きく感じるほどのリュックが背負われている。
「いやー、今日ちょうどこの第五迷宮に到着してな!とりあえずどういう迷宮なのか探索しようとしてたら、あんちゃんの声が聞こえたってわけよ!」
男は続けてそう話した。
「な、なるほどお…、俺このとおり超初心者冒険者なんで…、武器とか買うお金はないですよ」
この男が冒険者狩りじゃあなくて安心したが、武器や防具を買わされるのも困る。なんたって金がないからな、薬草の一つでも慎重に吟味して買うレベルに。
「はは!まぁそうだろうな、委員会支給の服に初心者御用達の鉄の胸当てに鉄の剣、今日から冒険者はじめましたーって言われても疑わない格好だ」
にこやかに言っているが、地味に傷つく。まあ本当のことだが。
「はは、お恥ずかしい…」
なんて適当に相槌を返して、俺は客になりそうにないと分かっただろうし早くどっか行ってくれないかなぁと心の中で思っていると、にこやかだった男が突然真顔になった。
「でも、アンタが初心者じゃないってのは分かる。」
さっきまでのお調子者って感じとは違って、真剣味を帯びた声色で男は続けた。
「アンタの左腕のそれ…、そりゃあ迷宮装備だろ?」
ブックマーク、評価ありがとうございます。
マイペースですが、楽しく書いていこうと思います。
最新話読んでくださりありがとうございました。