第七十八話 再戦、女王蜘蛛
あれから五日。なんとか動けるようになった俺は、甲賀と二人で迷宮一層の奥地にある城を目指していた。
「足はどう?戦えそう?」
横を歩いている甲賀にそう言われ、俺は軽くジャンプしてみる。
「迷宮の中に入ると、ずいぶんマシになったよ。っても前みたいな無茶は流石に無理そうだ」
「当たり前よ、あんなのまさしく諸刃の剣。確かにめちゃくちゃ速かったけど、もう2度とやらない方がいいわね」
甲賀はそう言いながら、少し怒った顔をする。
もちろんやるつもりは無い、というか怖くてできない。
「なんかさ、俺迷宮に入ると怪我ばっかりしてる気がする。なんでなんだろうな」
「バカだからよ、アンタが」
「ぐっ……」
ぐうの音も出ない、とはこのことか。
そう思いながら甲賀と会話を繰り返し迷宮の中を歩く。
明日は中級冒険者試験の応募締め切りだ。
つまり今日、Dランク以上の迷宮石5個かBランク以上の迷宮石を納品しないと、俺はまた来年まで低級冒険者のままということになる。
「いい?女王蜘蛛と闘うって言っても、足を一本切り落とせば良いんだからね。そうすればBランクの迷宮石を絶対に落とすから」
「あぁ……、足だよなうん。足、足。8本だっけ?10本だっけ?とにかくいっぱいあるんだから一本ぐらい落とせるよな、うん。それにコレもあるし」
そう言って、俺は左腕のプロテクターをポンとたたく。
希少な迷宮装備であり、俺をここまで成長させてくれた相棒とも言える青いプロテクター。
二層で人工変異体と戦った時に謎の赤い魔力を放出し、俺に凄まじい力を与えたこの装備は、もしかすると危険なものかもしれないという事で川田さんに預けていた。
それを昨日、引き取ってきたのだ。
その時に聞いたのだが、この装備にはある条件下で使用者、つまり俺の魔力を本来とは性質の違う魔力に変換する機能があるのではないか、という事らしい。
あの赤い魔力はモンスターになる一歩手前の赤霧?現象だとかいうのではないので、コレを使い続ける事で俺がモンスターになってしまうことはないらしいのだが、
その変換された魔力というのがまだ詳しく分からない以上は無理に使わない方がいいという事だった。
「川田のおっさんも言ってたけど、ソレってアンタが死にそうになったら厄介な効果が現れるんでしょ?もしもヤバそうなら直ぐに止めるからね」
その条件下、とは俺が瀕死になった時。
前に発動した時がそんな状況だったからそう仮説を立てたのだ。
「うん。死ぬってなったら助けてって叫ぶからよろしくお願いします」
「ていうかホントに一人でやるの?別に私と一緒に女王蜘蛛と闘って迷宮石を手に入れてもルール違反じゃ無いのに」
「確かにそうだけど、まぁ変なプライドなんだよな。ずっとスライムばっか倒してたやつが運良く迷宮装備手に入れて、それで強くなって甲賀たちのようなすごい冒険者と出会って」
「それで特訓までしてもらったってだけで充分すぎるほど恵まれてるのに、コレで試験の応募資格を満たすのも手伝ってもらいました、なんてなんだかずるいだろ?だからせめてここは俺一人でやりたいと思ってさ。それに、足を一本切り落とすぐらいなら今の俺でもやれない事はないんだろ?」
「まぁ、そうだけど……。何が起こるか分からないのが迷宮だから」
「まっ、もしもヤバそうになったら本当に全力でタスケテーー!って叫ぶ。だからその時は頼むぜ」
「扉開けて中の様子は見てるから速攻で助けてあげるわよ」
そんなこんなで、俺たちは城に到着した。
そして中に入り、階層主のいる部屋の扉の前に着く。
「現在、階層主が復活しております!討伐予定は明日!三日後に行われる中級冒険者試験の前には討伐される予定です!」
扉の前には警備員のような人がいて、そう言った。
「少し中に入ります」
俺がそう言うと、装備を見て大丈夫かこいつ、と言う顔をする。
「はい、コレ私の冒険者ライセンス」
すると、隣で甲賀がその男の人にライセンスを渡した。
「こっ……、これは、まさか……、薔薇十字団の紅一点っ……!」
ライセンスを見せられた男の人はそう言うと甲賀の顔をマジマジと見る。
「なんて……、可愛いんだぁ……」
そしてそんな事を呟いた。
「とにかく、今からこいつが一人で女王蜘蛛と戦うの。どうしてもBランクの迷宮石が必要でね。まぁやばくなったらすぐ私が入るからそれなら大丈夫でしょ?」
甲賀は男の言葉なんて別になんとも思ってないかのようにそう返す。
「は、勿論でございます。どうぞ、お気をつけて」
そして俺は部屋に入った。
「ギェアアアアアアアアッ」
それと同時に、女王蜘蛛が叫び、上から落ちてくる。
来た……。心拍数が跳ね上がる。
俺はゆっくりと剣を鞘から抜いて、深呼吸。
そして小声で呟いた。
「バリアー……」
左腕で青いバリアーが発動する。
「行くぜ……、相棒」
自分の気持ちを昂らせるためにそう言って、俺は女王蜘蛛を軸に円を描くように走り出した。




