第七十六話 邪神龍撃迅雷剣
「常に全身で魔力を意識する……、そして踏み込みの瞬間は足に集中させ……、切り込むときには剣にも魔力を伝える感じ……か……」
「そ、この3週間でとにかく基礎をやりまくったからね。残りの1週間、リザードマンと戦う時は常にそれを意識して。これからはなによりもこの魔力のコントロールが大事になるからね」
中級冒険者資格を満たすために久しぶりに迷宮に入った俺たちは、リザードマンの出る森を目指して歩きながら、そんな会話をしていた。
「とにかくリザードマンみたいな弱くもないけど強くもないモンスターって一番油断しやすいのよ、頑張れば低級冒険者でも勝てちゃうけど、油断すると中級冒険者でも死にかねない」
短剣をブンブンと振り回しながら歩く甲賀は、一見ただの女子高生だが、
モンスターが全くよってこないという事は、奴らからはかなりの強者に見えているのだろう。
「まああの爪はやばいよな、生身で食らったら」
俺は頭の中でそんな事を思いながら、そう返した。
「うん、だから中級冒険者以上は常に全身を魔力で覆ってる。魔力で覆った体とそうじゃない体じゃ防御力が段違いだからね」
甲賀は身振り手振りでそう話しながら
「だからこれからは絶対意識すること!あ、あと!あれも!」
隣でこちらを見ながら続けて少し大きな声で言った。
「この前言ったアレ!アレもチャンスがあれば常に狙って行ってもいいんじゃない?」
「ああ、あれな!任せてくれ!!アレに関しては自信がある!」
甲賀のその問いかけに対して、俺ははっきりとそう答えた。
アレ。
アレとはつまりアレなのだ。
アレがなければ、俺はこの地獄のような3週間を耐えられなかっただろう。
そう、アレの準備はバッチリだ。
いつだってやれるし、なんなら今からでもやれる。
「結局、どんな感じにしたの?」
少しニヤニヤしながらそう思っていると甲賀が尋ねてきた。
「……」
だが、俺はあえて沈黙。
なぜなら、それは今から見せることになるからだ。
そう思いながら、何も言わず向こうを指さす。
「あ、もうリザードマンいるじゃん」
甲賀があっけらかんと答える。
そう、もう目の前にリザードマンがいるのだ。
そして、俺は今日初っ端からアレをやるって決めていたのさ。
「はぁーーーーーーーーーー!!!」
隣でボケっとしている甲賀を横目に、いきなり俺は声を出した。
そして剣を抜いて、全身で魔力を増幅させ、足に集中させる。
「空よ!大地よ!天空よ!神に追放されし混沌の力ー!!邪神!!龍撃〜〜!!!」
そこまで言ったあたりでリザードマンがこちらに気づき雄叫びをあげる。
だが、俺は負ける気がしなかった。
「迅!!雷!!剣っ!!!」
そう叫ぶと、足に集中させた魔力を一気に放出し横に高速移動した。
そしてリザードマンが攻撃を仕掛ける隙を一切与えず、絶妙なタイミングで剣を振り、胴体を切り落とす。
そしてそのままリザードマンを通り越して、俺の身体は静止した。
「へぇ〜!結構凄いじゃん!空と天空とかわけわかんないけど、うん!良いと思う!私が言った魔力コントロールの基本をかなり高レベルに仕上げた技って感じね」
俺のアレ、つまりは必殺技を見た甲賀はそう言いながら近づいてくる。
この3週間、必殺技を作った方がいいと言われたあの日から、俺は毎日この【邪神龍撃迅雷剣】の特訓をしていたのさ。
想像以上に上手くいったことに驚いてはいるが、甲賀が褒めるのも無理はないだろう。
俺のこの技は簡単に説明するとめちゃくちゃ早く移動して斬るというものだが、
迷宮の外だと2.3メートルだった超高速移動が、
多分5.6メートルに伸びている。
やっぱり迷宮の魔力の濃さは段違いだし、リザードマンを一撃で仕留めるなんて我ながら凄すぎて驚きを隠せない。
「どうだ甲賀!びっくりしただろ?単純に魔力を足に溜めまくって放出するだけだけど、敵に斬り込むタイミングとかはかなり特訓したんだぜ!って痛っっ!!」
そう言って剣を直して甲賀に近寄ろうとした瞬間、足に激痛が走る。
びっくりして足元を見てみると、血塗れになった足がそこにはあった。




