第七十四話 修行の日々
「「え、クリスマスイブ…?」」
思わず、甲賀と言葉が重なった。
甲賀流激痛マッサージを終えて食卓に向かうと、やけに豪華な食事が机に並べられていた。
それに2人して驚いていると、甲賀の妹が言ったのだ。
クリスマスイブ、そういえば今日は12月24日だ。
冒険者になってから曜日や日の感覚なんてほとんどなかった。
冬だから寒い程度にしか季節を意識はしていない、これは多分冒険者あるあるだと思う。
「それにしても、凄い豪華な料理だなぁ」
俺は思ったことをそのまま口にして席についた。
料理はどれもめちゃくちゃ美味しくて、特訓で疲れた身体に染み渡る。
「1週間が終わったわけだけど、どう慣れた?」
俺が甲賀の妹と、この料理はなんなのか、とか美味しい美味しいとか言い合っていると
甲賀が口を開いた。
「慣れた……、とは言えないけど初日よりは動けてると思う、、多分」
甘いソースのかかったチキンを食べながら俺はそう答える。
「うん、私もそれは思う。やっぱ迷宮装備をずっとつけてたおかげなのか知らないけど、魔力の吸収率がすごいのよアンタ」
「今は迷宮装備は付けてないのに、なんなんだろうな。さっきのマッサージで言ってた神孔?が迷宮装備の力で開かれたとか?」
「うーん、なんだろね。わかんない」
甲賀も料理を食べながら答える。
「あ、話割り込んじゃうんだけど」
そうやって2人で色々と話していると、今度は甲賀の妹がそう言った。
「パパとママ、また一年ぐらい香港行くって」
「ええ!?またー?」
「うん、ごめんねーってさっき電話で言ってた。なんでも香港で仕事の話が突然でてきたんだって」
「ふーん、まぁ良いけどさ。絶対旅行よ旅行。あの2人いつまでも恋人気分なんだもん」
甲賀の家にはいつも夜に電話がかかってきている。
誰からなんだろう、と思っていたがどうやら両親からのようだ。
話を聞いている限り、甲賀の両親は海外を飛び回っているのか。
甲賀たちの口ぶりからして、滅多に家に帰ってこないのだろう。
世間一般だと、子供を家に置いて帰らないのはどうなのかなんてのもあるかもしれないが
甲賀たちはさほど気にしていないようで、2人して愚痴を言いつつ笑っている。
というか結構頻繁にかかってくる電話を若干めんどくさそうに思っているあたり、思春期の女の子らしい。
俺が高校生の頃なら、親がいなければ餓死しているだろうな。
そんなこんなで食事を終えて、後片付け担当の俺と甲賀は食器を洗っている。
「残り3週間もこんな感じの特訓?」
皿を洗いつつ、俺は甲賀に聞いた。
「ううん、再来週までこんな感じ。最後の1週間は迷宮に行く予定かな」
「なるほど、それが終わったらすぐ中級冒険者試験って感じか。そう考えると、今から緊張するな」
「迷宮装備付けて行くなら多分余裕で合格すると思うけど、アレは付けない方がいいかもだしね。でも、間に合うと思うよ。中級冒険者って言ってもピンキリだし」
そう言って、甲賀は最後の一枚の皿を洗い終える。
「ま、残り3週間リタイアしなきゃ絶対大丈夫よ、私が保証してあげるわ」
そして俺の方を見てそう言った。
「お、おう!絶対やり遂げてみせるょ……」
俺も全て洗い終えて、手を拭きながら答える。
語尾が少し弱々しいのは、気にしてはいけないところである。
そうして、俺は残り3週間のうちの2週間を、
たまに涙を流し、
お腹の中のものをぶち撒け、
もう無理だと夜中に弱音を吐き、
ちょっと今日はお腹が痛いと仮病を使って休もうとして怒られたりしながらも、なんとか耐えた。
すごく更新が遅れてすいません!
完結は絶対にするつもりなのでこれからもお暇な時によろしくです!




