第七十二話 甲賀の妹
「へぇ、甲賀に妹がいたなんてなぁ」
箸でご飯を口に運びつつ俺はそう言った。
「聞いてなかったんだ、まぁヒナねえってあんまりそういう事言うタイプじゃないか」
俺の前に座ってる甲賀の妹、甲賀由那はそう言いつつ
「ねぇ、それより、これ食べてみてよ。今日初めて作ったんだけど結構美味しいよ」
と、美味しそうなおかずの入った皿を俺に差し出す。
「あぁ、ありがとう」
差し出された俺はそれをすぐに口に頬張る。
うーん、美味すぎる。
甲賀の妹が俺の分も作ってくれていた夕飯は、あまりにも美味すぎて正直感動を覚えるレベルだ。
「本当に天才的な美味さだな」
「そうでしょー。まぁヒナねぇが全く料理できないからねー。美味しいの食べたいと思ったら自分で作るしかないもん。ね、ヒナねぇ」
「……」
妹の隣でご飯を食べている甲賀はさっきからずっとむすっとしている。
俺は今、なんだかんだで夕飯をご馳走になっているんだが、甲賀はずっとこんな調子だ。
さっきこの部屋に来た時も、なんだか気まずそうにしていたし、俺が気絶していた事を謝っても
う、うん。
という歯切りの悪い返事だった。
どうかしたのだろうか。
そんな事を思っていると
「そろそろ言ったらー?」
甲賀の妹がそう言った。
「なにをよ」
甲賀はむすっと答える。
「もー、謝りたいんでしょ?」
「……」
「………」
「…………」
「謝るって、何をだ?」
あまりにも続く沈黙に、俺が口を挟む。
「ヒナねぇ、今朝の事ずっと気に病んでんのよ。ほら、アンタに思いっきりパンチして気絶させた事」
甲賀の妹はもう完璧に俺の呼び方をアンタに決めたらしい。
まぁ、そんなことは置いといて、もしかして甲賀がずっとむすっとしてるのはそのせいなのか。
「い、いや、あれは俺が貧弱すぎたと言うかさ。別に甲賀のせいってわけじゃないよ」
「でも殴り倒しちゃったのは事実だし、一応うちの道場の久しぶりの生徒なのに初日からこんな事になっちゃったからね」
甲賀の妹はご飯を食べつつそう話す。
どうやら俺は甲賀の道場の生徒という扱いのようだ。
にしても、そんなに気に病む事だろうか、
甲賀の箸はさっきから止まったままだ。
「ほら、ヒナねぇ早く謝りなよ」
「……めん」
「え?」
甲賀が微かに何かを呟いた。
「殴って気絶させちゃって、ごめんなさい……」
俺が聞き返すと、今度は小さな声だがしっかり聞き取れる大きさでそう呟く。
女の子にそんな謝り方をされるなんて、なんだかこっちが情けなくなるし、謝る必要なんて全くないと思うが俺はしっかりと答える。
「いや、全然大丈夫だ。それよりさ、明日からもまた修行頼むよ。俺、近々中級冒険者試験受けようと思ってるからさ」
「うん……、川田さんからそれは聞いてる」
「そ、そうか。それなら明日もまたよろしくな」
「うん……」
何となく気まずい空気。
「さてと!じゃあ私お風呂入ってこよー。あ、アンタは別館のお風呂ね!同じお風呂とか絶対嫌だから」
そんな空気を、甲賀の妹が立ち上がりながら払拭した。
「ふ、風呂?いや流石にそれは……、ていうかそろそろ帰るよ」
それに感謝しつつも、地味に傷つく事を言われたのは悲しかったが、俺はそう返す。
「え、アンタ川田さんから聞いてないの?」
すると今度は甲賀が俺にそう言った。
二人とも声が似てるし、口調も同じだから何だか変な感じだ。
「なにを?」
そう思いつつも聞くと
「中級冒険者試験までの1ヶ月、アンタここに泊まり込みだよ?」




