第六十七話 いつもと違う戦い
「ふがっ」
そんな不安が、俺の心を支配する。
なんてキザなことを思いながらベッドで横になっていたら、どうやら寝てしまったらしい。
そんな寝落ちから目覚めた俺は、川田さんとの約束があるから慌てて腕時計を確認する。
「11時40分か、良かった。まだ大丈夫だな」
時間を確認した俺は遅刻にならずに済みそうだと思い、またベッドに横になった。
が、このままでは確実に二度寝するだろうと思いたったので無理くり立ち上がる。
「風呂でも行くか……」
眠気覚ましにそう考えた俺は、着替えを持って部屋を出た。
大浴場はこの前に比べて随分と人が少なかった。
ほとんど人のいない浴場はまるで別物で、俺はかなりリラックスして湯に浸かる。
そして、またこれからのことについて考えてみた。
中級冒険者になるために二層にやって来たのに厄介な事件に巻き込まれ、そして俺の力の要である迷宮装備をもう2度と使えないかもしれないという危機に今陥っている。
はっきり言ってかなりまずい。
緊急事態だ。
湯船に浸かって良い湯だぜ、と思っている場合じゃない。
「一番問題なのは、迷宮装備無しでどれだけ魔力を感じられるか……、だよな」
周りに誰もいないので、俺はそう独り言を呟く。
そしてそんな一抹の不安を抱きながらも、ゆっくりと湯船に浸かり、そして部屋に戻った。
部屋に戻って時計を見ると、時刻は12時15分。
割とギリギリだ。
俺は少し焦りながら荷物をまとめて装備をつけた。
そしていつもの癖で迷宮装備も付けようとして、もう川田さんに預けていたことを思い出す。
「そうか……、もう……、いないんだなアイツ……」
部屋で一人、そんなバカなことをかっこつけながら呟く。
が、内心では少し動揺していた。
もしも、二層のモンスターどころか、一層のモンスターも倒せなくなっていたらどうしよう。
再びそんな不安を感じながら、俺は何も忘れ物をしていないことを確認して部屋を出る。
宿のロビーでは、すでに川田さんが待っていた。
「すいません!遅れました!」
「いやいや、時間ぴったしですよ。忘れ物とか大丈夫ですか?」
川田さんは相変わらず優しくそう言った。
それから俺と川田さんは外の世界に戻るため迷宮扉を目指し歩いた。
「そうですねぇ、迷宮装備の副作用で魔力を強く感じられていたのだとしたら、いつもよりも動きづらさを感じるはずです」
それは一層に通ずる階段を目指して二層の草原を歩いている時だ。
俺がずっと抱えている不安を打ち明けると、川田さんがそう言った。
「確かに……、なんで気づかなかったんだろう。そうですよね、戦闘だけじゃなくて普通に動いてるだけでもおかしいと感じるはずですよね」
「えぇ、例えば疲れやすいとかそう言ったことはありませんか?」
そう言われて、俺はいつもと比べてどうかを考える。
だいたい3時間ぐらい歩いただろうか、
外の世界ではそろそろ疲れてくる頃合いだが、まだ全く疲れは感じない。
という事は、少なくとも魔力を感じる力は残っているのだろうか?
「試しに何かと戦ってみますか、そろそろワースピグが見える頃ですし、そのあたりのレベルのモンスターなら何かあってもフォローできます」
そんな事を話すと、川田さんがそんな提案をしてくれた。
そして少し歩くと、ワースピグが姿を見せる。
「じゃあ、やってみます」
左腕に寂しさを感じつつ、また、バリアーを発動できないと言うことを念頭においてそう言った俺は
ゆっくりと剣を鞘から抜いた。
「へい!ワースピグ!」
こちらに気付いていないワースピグを敢えて挑発する。
不意打ちで勝てたところでなんの検証にもならないからだ。
まぁこれで魔力を戦闘に活かせなくなっていて倒されればただのバカだが、川田さんもいるし大丈夫だろう。
そんな事を考えていると、俺の声を聞いたワースピグはぐいっとこちらを向いて牙を見せる。
「ギピィイイ!」
そしてそのまま俺目掛けて突進してきた。
多分昨日までの俺ならば、バリアーで受けるか思いっきり飛び上がって避けるだろう攻撃だ。
だがバリアーはまず使えない、となると飛び上がっての回避だがいけるか……。
ワースピグが突進して俺に到達するほんの数秒で俺はそう考えて、そしてある結論が生まれた。
ジャンプするなら、別に戦いで試す必要なんてなかったな、ということだ。
俺は何故そんなことに気が付かなかったのだろうと思いつつ、もう目の前まで来ていたワースピグを避けるために思いっきりジャンプした。
「うぉお……、あぶねえ……」
突進して俺の股のギリギリを通過し、そしてその突進の勢いを抑えるのに苦戦しているワースピグを見ながらそう呟く。
いつもなら、昨日までなら5メートルは飛べていたであろう俺のジャンプ力はワースピグの頭身3メートル弱をギリギリかわせるレベルまで落ちていた。
「……」
そして、俺に攻撃をかわされたワースピグはもう一度突進を繰り返してきたので、今度は反射神経を試すために右に避け、それから剣を突き刺した。
これもまた昨日までならそれなりに余裕を持てていただろうけど、ギリギリだ。
「どうでしたか?」
倒したワースピグから剣を抜き、やはり魔力が落ちていたことに考えを巡らせていると川田さんがそう声をかけてきてくれた。
「やっぱりだいぶ落ちてました……。でも、思っていたよりは酷くなかったので、まだ良かったです……」
「そうですねぇ、古森くんがあれからどれだけ強くなったのか分かりませんが、低級冒険者としては十分すぎるレベルだと思いますよ」
「でもやっぱり迷宮装備がある時より全然ダメでした。俺はずっとバリアーに頼った戦い方をしていたし、またしばらく一層にいた方がいいかも知れないです……」
「そうですねぇ……」
そんな話をして、そして再び歩き出す。
そして、一層に通ずる階段を登って城を抜け、そろそろ迷宮の外に着くかなと言う頃だった。
ちなみに金曜日の昼に出発したのに、時刻は深夜の2時。
途中で休憩を挟んだのでかなり遅くなった。
そんなかなり疲れ切った時に不意に川田さんが言った。
「もしも、古森くんさえ良ければですが、良い特訓場を知っているのでどうです?一層で一人で力をつけるよりずっと強くなれるはずです。迷宮装備の調査もさせてもらいますし、向こうには私から話をつけておきますよ」




