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第六十六話 迷宮装備の力2

 いつもの優しい姿からは想像もつかないような、少し奇妙な笑みを浮かべた川田さんは、自分がモンスターになれると言った。


 それを聞いた俺は思わず素っ頓狂な返事を返してしまう。


 そして驚きのあまり少し思考が停止する。


「ん、言って大丈夫なのか?っても、その方が話が早いか。やっぱり似てるよなアンタのアレに。昨日、倒れてるこいつを見つけた時に感じた感覚はやっぱ間違いなかったか」


「そうですねぇ、赤いモノが見えたというのは恐らく赤霧現象だと思いますねぇ。となると、魔石による変異の一つ手前まで行ったことになります」


「じゃあやっぱり、チューヤちゃんの迷宮装備にそんな効果があったって事かしら?」


「その可能性は大いにありますねぇ、迷宮装備はまだ未知のアイテムですから。それにしてもーー」


 そうして困惑している俺をよそに話がどんどん進みそうになったところで、ようやく思考停止状態から回復した俺は口を開いた。


「ちょっ、ちょっと待ってください。川田さんがモンスターになれる?というか魔石ってなんなんですか……!」



「あぁ、すいません古森くん。昔の癖でつい話が弾んでしまって」


「ああ悪い。ついな」


「悪い癖ね」


 俺が口を挟むと、3人は議論をやめてそう言った。


「一つずつ、説明していきますとですね」


 そして川田さんはそう言うと、丁寧に、そしてわかりやすく全てを説明してくれた。


 その話を要約するとこうだ。


 まず、3人は元々国の迷宮調査員で、迷宮が出現した9年前から共に調査していた顔馴染みなのだと言う。


 ちなみに川田さんは研究員で、仁平さんとティーノさんは元自衛隊の護衛員だったそうだ。


 そして、川田さんの研究分野は主に迷宮石や魔力についてであり、その時の実験の副産物が魔石なのだという。


 その魔石は、使用者に一時的に莫大な魔力を与えて、その姿までを変えてしまい、場合によっては命の危険もあるもので使用は禁止、というか誰も使わなくなった。


 そんな魔石を唯一身体にほとんど支障なく使いこなせるのが川田さんであり、その魔石を使った状態の川田さんはとんでもない強さなのだそうだ。


「す、すいません。ちょっと頭の整理を……」


 そこまで話を聞いて、俺はそう言って少し頭の中を整理した。


 川田さんが国の研究員だったというのは、2ヶ月ぐらい前に初めて会ったときに聞いた覚えがある。


 そして、そんな川田さんが作った魔石は人を一時的にモンスターに変えるほどすごい力を持っているのは分かった。


 でも、その突拍子もない話しが本当なら……。


「俺、モ、モンスターになっちゃうんですか…?」


 今の話からするに、そういう事だろう。


 俺は、自分がモンスターになった姿を想像して、ビビりながら質問する。


 やっとこれから中級冒険者になるべく頑張ろうというのに……、なんてこった……。


 ミイラ取りがミイラになるどころじゃない。


「んん〜〜、そうですねぇ……」


 俺がそう質問すると、川田さんは難しい顔をする。


「まず、赤い霧のようなものが見えたと言うのは赤霧現象と言って、余りにも膨大な魔力が集まると起こる現象なのです。そこからさらに膨大な魔力が集まってそれを体内に取り込むと身体に異変が生じてしまうのですが、赤霧現象から更にそこまで行くにはかなりの魔力量を要します」


 そして難しい顔をしながらそう言った。


「じゃ、じゃあ、それはつまり……?」


 それを聞いて俺は少し希望まじりに再び尋ねると、


「そこまで行かなければモンスターにはならない……と、言いたいんですが……。そもそも人が魔石無しで赤霧が見えるまで魔力を貯めたという話を聞いたことがありません……。もしも古森くんの迷宮装備が魔石と同じ効果を持っているものだとしたら……」


「モンスターになっちまうな」


「ですねぇ……」


 と、川田さんと仁平さんの言葉に俺のそんな希望はいとも簡単に崩れ去る。


「あぁ……あぁあ……」


 俺はモンスターになってしまうのか……。


 モンスターになった自分を改めて想像し、中級冒険者になったら三つのクラスの何になろうかなとワクワクしていた一昨日までの俺はあっという間に消え失せて、声にならない声を出す。


 そんな俺に、ティーノさんが救いの言葉をかけてくれた。


「でも、解決策がないわけでもないのよね?平ちゃん」


 それを聞いた俺は、若干口を開けて天を仰いでいた状態から立ち直り、川田さんの方へ身を乗り出す。


「あ、ある、あるんですか!?解決策!」


 そして、再び湧いた希望を胸に俺は川田さんに尋ねる。


「え、ええ。あります、あります。例えばですねぇ……、使わなければ良いのです迷宮装備を」


「迷宮装備を使わない……」


 だが俺の希望は、川田さんの返答を聞いてまたしても若干消え失せる。


 確かに、俺の迷宮装備にそんな効果があるかもしれないのなら、使わなければ良い話だ。


 だが、だけどそれは……。


 迷宮装備無しの俺なんて、スライムの狩場で燻っていた頃と何か変わっているのだろうか……。


「それか他には……、赤霧現象が発生する条件を見つけ出す事ですかねぇ」


 俺が少し困惑していると、川田さんはそれを察してか違う案を提案してくれた。


「条件……」


 もう一つのその案は、確かに先程のものよりも希望を感じるものだった。


 だが、突然あんな事になったわけだから、当然条件もわからない。


 そうして、俺を含めてみんながどうするかを頭をひねって考える。


 そんな時、食後のデザートであろうパフェらしきものを食べていた外国人風美少女のナナリーちゃんが突然、声を出した。


「とりあえず、川田に預ければ良い。研究、してもらえばいい」


 そんな突然のナナリーちゃんの発言にみんなが少し驚いた表情を見せる。


「あら、それ盲点だったわね」


 そして、その言葉を受けてはじめに口を開いたのはティーノさんだった。


「おっちゃんの作った魔石と同じ効果かもしれねーなら、確かに調べてもらうのが1番確実かもな」


 それに続いて、仁平さんもそう言った。


 確かに、調べてもらうことで発生条件なんかが分かれば解決だ。


 もしも発生条件が分かったなら、その条件を満たさなければ、俺はこれからも迷宮装備をバリアーとして、そして魔力を感じやすくするための装備として使い続けられる。


「あの、お願いできますか?川田さん」


 俺はその案に託すしか無いと思い、川田さんに尋ねる。


「そうですねぇ……、迷宮装備の研究は殆どした事が無いのでなんとも言えませんが……、出来るだけのことはやってみましょう。個人的にも、少し興味もありますし、ええ」


「あ、ありがとうございます……!」


 そうして、川田さんが了承してくれる事になり、俺は迷宮装備を預ける事になった。


 それから少し雑談のような話をした後に、俺は川田さんと一緒に食堂を後にした。


 仁平さん達やティーノさんはまだ二層で色々やる事があるらしく、まだその話をするそうだ。


 そして食堂を出た後、川田さんと一緒に外の世界に帰る約束をして、12時半に宿のロビーで待ち合わせという事になり、とりあえず俺は自分の泊まっている部屋に戻った。


「はぁ……」


 おれは部屋に戻った途端にベッドにダイブする。


 とりあえずは、迷宮装備を調べてもらえる事にはなったが、それでもまだ不安は残っている。


「俺、魔力どうなってんだろうか」


 寝転びながら呟く。


 そう、俺が低級冒険者なのにここまで魔力を感じられるのは恐らく、いやほぼ確実に迷宮装備の効果なのだ。


 それが使えなくなった今、俺はどうなっているのだろうか。


 そんな不安が、俺の心を支配する。

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