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第六十四話 人工変異体2

ネット小説大賞、一次選考通過してました!


 食堂は、俺が通っていた大学にあるものと同じぐらい広くて、中ではそれなりの人数の冒険者達がご飯を食べていた。


 冒険者の中には、ビールジョッキのようなものを持って盛り上がっている団体もいる。


 食堂ってよりは、居酒屋って感じだ。


 朝から元気だな……。


 そう思いながら、ティーノさんの後をついていると、見たことのある顔ぶれが座っている席で足を止めた。


 その席は賑わっている他の席と随分離れていて、ポツンと置かれている席だった。


「来たか」


 その席に座っている男性が俺とティーノさんを見てそう口にする。


「おはよ、ニヒちゃん。それに可愛い乙女達」


 それに答える形でティーノさんがそう言った。


 俺は隣で軽く会釈。


 俺は目の前の3人をみた事があった。


 そうだったのか、この人が、このアニメのキャラ顔負けのハーレムを形成しているイケメン冒険者が俺を助けてくれたのか。


 俺の目の前にいるのは、二層の宿が分からず困っていたところを通り過ぎたイケメン、そして美女と外国人風の美少女だ。


 俺が二日前、宿まで勝手に道案内してもらった人たちである。


 ニヒちゃんと言うのはこの男性のことだったのか。


 そう言えば、宿の女性に仁平と呼ばれていたな。


 ニヒラだから、ニヒちゃんってわけか。


「まぁ、座れよ」


 俺が頭の中で合点していると、ニヒちゃん事、仁平さんがワイルドなイケメン顔をこちらに向けてそう言った。


 六つある椅子の三つを既に3人が座っていて、俺はティーノさんの隣に座る。


「チューヤちゃん、昨日アナタを助けてくれたのはこのイケメン、ニヒちゃんとその乙女たちなの」


「仁平だ、助けたっつっても通り掛かっただけだけどな。んで、俺の隣のこいつがナナリー、そしてその隣が由紀だ」


 椅子へ座ると、ティーノさんがそう言って仁平さん達を紹介してくれた。


 端に座っている由紀という女性は笑顔で俺を見ていて、少しだけ椎名さんに似ていた。


 ナナリーという女の子はこちらを見る事なくご飯を食べ続けている。


「あの、本当に助けてもらって、助かりました。えっと、古森です」


「これ、メニュー」


 俺がそうしてお礼を言って自己紹介していると、仁平さんの隣で座っているナナリーちゃんがご飯を食べながらそう言った。


「あ、ありがとう」


 俺はそれを受け取ると、ティーノさんとの間に広げる。


「魔力酔いはどうだ?」


「あ、もうだいぶ良くなりました」


「ご注文をお伺いしますー」


 俺がそう言った瞬間、にょきっと横からウエイトレスが現れる。


「あっ」


 メニューを全く見ていなかった俺は、少し戸惑う。


「私はスクランブルエッグにトーストをお願い、それにコーヒーを頂こうかしら」


 ティーノさんはあまりメニューを見ていなかったのに、さらっとそう口にした。


 いつものお決まりのようなものがあるんだろうか。


「あぁ、じゃあ俺もそれでお願いします。あ、コーヒーはミルクで」


 とりあえずティーノさんを真似してそう注文を告げると、ウエイトレスの女性は、はいーと言いながらそそくさと去っていった。


 忙しい時間なのだろう。


「さてと、とにかくチューヤちゃんが無事でなによりだけど……」


 ウエイトレスさんが去ってメニューを端にやると、ティーノさんがそう言った。


「実はチューヤちゃんに言わなきゃならないことがあるの」


 そして少し辺りを見渡してから言うと、見たこともないような真剣な顔になる。


「俺に、ですか……?」


「ええ、昨日チューヤちゃんが遭遇したモンスターについてよ。それともう一つ、チューヤちゃんの左腕の装備について」


「昨日、俺が遭遇したのはただのヨークじゃない……んですよね?寝ている時にうっすらとそんな会話が聞こえてきました」


 仁平さんが人工変異体がどうと言っていたのを覚えている。


「あぁ、聞こえてたのか。そう、普通のヨークはあんなにデカくないし強くもない。あれはかなりイレギュラーな存在だ」


 俺がそう言うと、前で仁平さんが答える。


「ヒナちゃんと依頼探索に行った時に襲ってきたモンスターのこと覚えてるかしら?」


 続けてティーノさんが俺に質問。


 もちろん覚えている。あの馬鹿でかいリザードマンのことだ。


「はい、あのリザードマンですよね。変な男がけしかけてきた……」


「そう、それね。それで実はね、これからするお話は中級冒険者以上、しかもその中のごく一部にしか、まだ知らされてないことなの。本当は言うべきじゃないんだけど、チューヤちゃんはどうも巻き込まれる事が多いようだから伝えようと思って。いいかしら?」


 ティーノさんはかなり真剣な面立ち。


 口調はお姉さん口調だが、顔はそれとは真逆で俺はとても怖かった。


「は、はい……」


 俺は少し怯えながらそう答える。


「実はね、ヒナちゃんとの探索で出会ったリザードマンも、今回チューヤちゃんが出会ったヨークも、両方誰かに意図的に変異を起こされているの」


「変異……」


「そう、変異。モンスターの中には共食いで強くなる種が居るのは知っているわよね?そうして強くなったモンスターが変異体。それを誰かが人工的に作り出している」


 ティーノさんは続けて、少し静かな声でそう言うと、視線を包帯が巻かれている俺の左腕に向ける。


「本当はすぐに全冒険者に知らせなきゃならない事なのに、私たちにはその権限がないの。でも、チューヤちゃん、アナタはもう二回も巻き込まれてる。だから伝えたの」


 そう言い終えたティーノさんは柄にもなく辛そうな顔をしていた。


「つまり、これはマジで極秘ってわけだ。こんな事が公になったら迷宮そのものが立ち入り禁止になりかねないからな。内々で事を済ませようと上も必死なのさ」


 俺が突然の重い話に混乱していると、続けて仁平さんがそう言う。


 俺は、朝から凄い話を聞いてしまったと戸惑いながらも、なんとか頭の中で整理した。


 つまり、俺が遭遇したモンスターは人工変異体ってやばい奴で、それは極秘で対処されようとしている。


 ティーノさんは、今回、二回もそのヤバいやつに巻き込まれた俺を案じて極秘情報を話したと言う事か。


 そもそも極秘で対処ってなんだ?


 そう考えて、少し思い当たる事が見つかる。


 そうか……。


 一昨日、二層に向かう途中でやけに重装備な人、チェイサー?らしき人達が多かったのも、この宿に突然人が増えたと言うことも、全部この対処のためなのか。


「わ、かりました。多分……、それで、大丈夫なんですか?ティーノさんが俺に言ったって事が誰かにバレたら……」


「そこはアンタを信頼してるって事さ。正直、イレギュラーもイレギュラーなんだ。俺を含め、この情報を知っている冒険者が必死になって探している人工変異体に、アンタは二回も遭遇しちまったんだからな。凄い確率だぜ本当に」


「ごめんなさいね、チューヤちゃん。まさかチューヤちゃんが遭遇するとは思わなかったの。それでも万が一を考えて、もっと早く話しておくべきだったわ……、あのお風呂場で話していたら、こんな怪我しなくて済んだのにね……」


「いや、そんな……。俺の運が悪いと言うか何というか……。そう思えば最近、迷宮でトラブルに巻き込まれる事が多いんですよね……、迷宮装備を手に入れてからかな……」


 そう言って、俺はいつもプロテクターをつけている左腕を見る。


 プロテクター、バリアーには何度も命を助けられたが、思い返してみるとこれを手にしてから妙に事件に巻き込まれる。


 こんな事を言うのはアレなんだが、呪いの装備なのかとふと思ってしまう。


「でまぁ、アンタが遭遇したモンスターに関しては以上だ。一応あのヨークの方は、あの後俺が退治しておいた、まぁほとんど瀕死だったから簡単だったさ」


 俺がそんな事を考えていると、仁平さんがそう口にした。


「もう一つ残る問題はだな、まさにその迷宮装備とアンタについてなんだよ。人工変異体はな、一流の上級冒険者でも苦戦する強さを持ってる。だからヤバいって話なのさ。それをアンタは一人で瀕死まで追いやった。まあ迷宮装備はそれだけの力を持っているって話なら事は簡単なんだが、昨日の戦いで何か異変を感じなかったか?」


 そして続けてそう言った。


 異変……、

 あった、ありまくった。


 だから俺は、少し考えてからあった事を伝えようとした。


「お、お待たせしましたぁ〜」


 だが、口を開く前に誰かが後ろからそう言って、俺の言葉は遮られた。

更新が不定期で申し訳ないです。

いつも読んでくださってありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] ネット小説大賞、一次選考通過おめでとうございます。 やっぱり読んでて面白いー。これからも頑張ってください。
[良い点] 単純に読みやすくて面白い。 レベルっていうわかりやすい指標がないのも個人的には良い。 [一言] 不定期でも気長に待ってます。 更新してたらラッキーぐらいな気持ちで( ´艸`)
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