第六十三話 人工変異体
今回の第六十三話タイトルを、「バリアーの力」から「人工変異体」に変更しました。
タイトル変更だけで、内容に変更はありません。
よろしくお願いします。
「あぁ、ありゃヨークじゃねえよ。間違いなく人工変異体だ」
「じゃあ、そんな敵をこの人が一人で?流石に無理があるんじゃないかい?」
「だが事実、俺たちがそこに駆けつけたときには、倒れ伏してるそいつと膝をついて血を流した人工変異体だけが居た。それに、そいつから妙な魔力も感じた」
「妙な魔力?」
「あぁ、そういやティーノまだいるのか?話が聞きたい」
全身が痛くて、身体を起こす事も目を開ける事もできず、ただじっとしていると、うっすらと覚醒した意識の中でそんな会話が聞こえてきた。
あぁ、俺はどうやら誰かに助けてもらったらしいとぼんやり考えて、そしてまた眠りについた。
しばらくすると、また会話が聞こえてくる。
「あら!ニヒちゃん!私に御用ってなにか……、まぁああああ!!そこで顔に傷をつけて眠ってるのはチューヤちゃんじゃない!!」
「よお、ティーノ。相変わらず声のでかい野郎だな」
「ニヒちゃん、チューヤちゃんになにがあったのかしら?」
「おいおい、睨むな。俺はこいつが倒れてたところを助けただけだ。それより、やっぱり知り合いなんだな。昨日、風呂場で話してたのはやっぱこいつだったか」
「ええ、知り合いも知り合い。私とチューヤちゃんは大親友よ。それより、話してくれないかしら?、二層のモンスターにこんな目に合わされるなんて無茶、チューヤちゃんはしないはずだわ」
声からして、ティーノさんだろうか。
もう一人はさっきも聞いた声だ。
一体なにが起こったんだろう。
そうしてティーノさんと誰かの会話が続いて、それを眠ったまま聞いていた俺は、だんだんと意識がはっきりとしてきた。
「……、あぁ……」
なんとか半目をかすかに開けて、声を出す。
その瞬間襲ってくる吐き気と目眩。
ダメだ、どうにも身体が言うことを聞かない。
意識はしっかりとしてきたのに、少しでも体を動かそうとすると途端にとてつもない疲労?のようなものが襲ってくる。
「チューヤちゃん!目が覚めたのね!」
俺の微かな声を聞いて、ティーノさんがそう声を出す。
「……、あぁ、ティー……」
どうにか返事をしたいが、また頭の中をぐるぐると何かが駆け巡るような気持ち悪さが襲ってくる。
「無理するな。多分、魔力酔いを起こしてるな。とりあえず安心しろ、ここは二層の宿だ」
俺が言葉にならない返事をしようとすると、もう一人の男性がそう言った。
「おっと、返事はしなくて良い。今日はゆっくり休め。明日になったら酔いも覚める。悪かったな、ついここで話しこんじまった。また明日来る」
「そうね、私も詳しいことは後で聞いておくわ。チューヤちゃんはゆっくり休みなさい」
続けて、男性とティーノさんがそう言って、俺は返事をするのを控えた。
そのまま二人は部屋を後にしたようで、静寂が俺を包み込む。
とにかく、俺は助かったようだ。
多分、あの男性が俺を助けてくれたんだろう。
それにしても、本当になにが起きたんだろう。
突然、変なバリアーが発動したと思ったら体から赤い湯気のようなものが出て、それから自分でもおかしなぐらい気分が高揚した。
思い返すと、あの時の俺は俺じゃないみたいだ。
なんだか少し、怖い。
それにあのモンスター……。うっすらと聞こえてきた会話からしてやっぱり普通のモンスターじゃないのか。
と、そんな感じで頭の中で考えていると、さっきのような吐き気がぐわんと俺を襲った。
「……」
俺はその日は、なにも考えずにもう寝ることにした。
次の日、目が覚めると少しは気分もマシになっていて、俺はゆっくりと身体を起こした。
怪我はどうやら左腕だけのようで、そこに軽いギブスが巻かれている。
そしてここは、俺が泊まっていた部屋のようだ。
俺の荷物が端に置かれている。
そうして簡単に状況を把握すると、俺はゆっくりとした足取りで窓のほうに向かい、カーテンを開けた。
太陽?なのかは分からないが、朝になると迷宮を照らす光が部屋に差し込んできて、俺を照らした。
そして、時間を確認しようとしてリュックの中に入れてある腕時計を取り出す。
「朝の9時半か……」
ティーノさんともう1人、多分俺を助けてくれた人に、昨日のことを尋ねたいがどこに行けば会えるんだろう。
時計を見ながらそんなことを思っていると、突然、部屋のドアをノックする音がトントンと鳴った。
「あっ、あ、どうぞ!」
一瞬驚きながらも、俺はそう答える。
するとドアを開けて現れたのは所々に剃り込みを入れた髪型に日焼けした大男?ティーノさんだった。
「チューヤちゃん!!あらぁ!あらぁあら良かった!まったく!この前に続いてまたこんな目に合うなんて本当に可哀想!!大丈夫?どこも痛くないかしら」
ティーノさんは入ってくるなりそう言って、俺を抱きしめる。
痛いといえば、ティーノさんが抱きしめてくるから体中が痛かったが、はい、なんとか大丈夫みたいで……。とだけ返答した。
すると、ティーノさんは安心したのか俺から離れる。
「今から朝ごはん食べに行くの。良かったらどう?ニヒちゃんも一緒だからそこで昨日の事を話そうと思うの」
俺から離れると、ティーノさんはそう言ってカモン!って感じで腕をグイッと曲げた。
そう言えば、たしかに半日以上何も食べてないな。
それに、ニヒちゃん?という俺を助けてくれた人も居るのならば断る理由もなかった。
そう考えた俺は是非と答えると、ティーノさんと一緒に部屋を出た。




