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第六十二話 ヨーク討伐2

「くそッ……、もっと早く……、もっと魔力を身体に感じるんだ……」


 ヨークは俺に近付いてくるとすぐさま、その筋肉隆々の腕を振り回して攻撃してきた。


 バリアーを発動したものの、それを直に受けるのはリスクが高すぎて俺はとにかく攻撃を避けまくる。


 一つ避けてもまた一つ、右から左からストレート、フックとあらゆる軌道のパンチが襲う。


 避けるたびに俺の横をかすめる風圧が、威力のヤバさを物語っていた。


「速い上に強い……、これがリザードマンレベルのモンスター?どうなってんだっ」


 そんな愚痴をつい漏らす。


 俺が弱くなったのか?

 リザードマンレベルのモンスターがこんなに強いなんてあり得ない。あの宿の人、何か勘違いしてるんじゃないのか。


 どうする、このまま逃げ回っていても時期に限界が来る。


「はぁ……はぁはぁ……」


 身体中に魔力を巡らせるイメージをしつつ、最大限の動きで相手の攻撃を避ける。


 それはとてつもなく体力を消耗して、俺はもう息が上がっていた。


 胸のあたりが苦しくなる。


「くそっ……」


 そして、そう呟いた瞬間、俺は着地と同時に一瞬バランスを崩した。


「しまっ……」


 た、と言う前にその隙を逃さなかったヨークの右拳が俺に向かってくる。


 なんとかバリアーで受け止めたが、受け止めた瞬間に走るとてつもない衝撃が俺を後ろに吹き飛ばす。


 そのまま背中を地面に打ち付ける。


「いっつ……」


 激しい背中の痛み、そしてそれと同じぐらいの痛みが左腕にも走る。


 見ると、迷宮装備をつけていた左腕から激しい出血。


 衝撃でバリアーは解除され、装備も血で真っ赤に染まっていた。


「無理だ……、逃げないと、今の俺じゃ無理だ……」


 リザードマンレベルと聞いていたのに、何かおかしい。


 俺は少し離れた位置に居て、なおこちらに向かってきているモンスターを見てそう思った。


 そしてある疑念が浮かんだ。


 宿の人いわく、ヨークはリザードマンレベル。


 だが、このモンスターはどう考えてもリザードマンよりも強い。


 こいつ、本当にヨークなのか?


 もしかして、何か別のモンスターなんじゃないか?


 だがまぁいい、とにかく逃げよう。


 宿に戻って応援を呼ぶんだ。


 このモンスターが一体なんなのか、そんなことを今考えても仕方ない


 そう思い俺は立ち上がる。


 そして、宿の方へ走って向かおうとしたところで、それを見たヨーク?が逃すまいと同じく走ってきた。


「ちっくしょおっ……」


 ヨーク?はひょろりと長い足をひょいっひょいっと大股で動かしてすぐに俺のところまで来ると、その勢いのまま左フックの軌道で拳を振り回した。


「バリアーーーッ」


 とにかく、とにかく防がないと死ぬ


 そう思った俺は血が滴る左腕を無理やり振り上げてバリアーを発動した。


 その瞬間、左腕から激しい激痛が走り、そこに到達したヨーク?の拳が破裂した。


「あぁっ……ああああああ!!」


 一体何が起こった?と思う間もなく、左腕の激痛は今度は全身に駆け巡った。


 俺はその謎の激痛に激しく悶える。


 その間、ヨークがどうしていたかはわからない。


 痛みと、いつ次の攻撃が来るか分からない恐怖に板挟みになりながらも、俺はどうすることも出来ずその場で暴れる。


 そして、しばらくすると痛みは引き、ゆっくりと立ち上がると目の前では左腕から血を流したヨークが蹲っている。


 どうしてヨークが蹲っているんだろう、なんて事も思ったが


「なんだ……、これ」


 俺はそれよりも、自分の身体を見てそう呟いた。


 と言うのも、俺の全身から赤い湯気のようなものが出ていた。


 そして、さっきまで痛めていた背中や左腕は全く痛くなく、血も出ていない。


 そしてなにより、発動したバリアーがいつもとは違う様相を見せていた。


 そのバリアーは所々が歪に尖っていて、そして赤色に染まっている。


「ははは!わけわからん」


 自分の身体に何が起こっているか、そしていつもとは違う歪で赤いバリアーが何なのか。


 全く理解できないが、それでも俺は叫んだ。


「わけがわからんが!めちゃくちゃ良い気分だ!!」


 凄く気分がいい。


 生まれて初めて、こんなに気持ちが良くなったかもしれないと言うぐらい、俺はテンションが高かった。


 その謎の高揚感は次第に強くなっていく。


 まるで自分では無いようで、なにか良くない気がするが、そんな事も次第にどうでも良くなった。


「はははははははは!!」


 俺は謎のテンションでそう叫んで、今度はヨークを見た。


 なんで俺は、こんな奴から逃げようとしていたんだ?


 目の前で蹲って血を流しているヨークを見てそう思う。


 余裕だ、余裕で勝てる。


 今の俺なら楽勝だ。


 俺はそう考えると、ゆっくりとヨークに近付いた。


 ヨークはそれを見て、まだ残っている右拳を振り上げて俺に攻撃を繰り出す。


 だが、


「おっせえ!」


 おれはその攻撃を楽々交わすと、また叫んだ。


 そして、ヨークに対して回し蹴りを繰り出す。


「おらおらおらおら!」


 それから、俺はしばらくの間ヨークを翻弄するかのように攻撃を繰り返した。


 目の前のヨークはもうかなり体力を消耗したのか、弱っているように見える。


「よし、とどめだ」


 俺はそれを見てそう呟くと、落としていた剣を拾いに向かった。


 剣を拾ってヨークを見ると、やっぱりもう弱り切っているのか動いてすらいない。


 俺はそれを見て笑顔を浮かべる。


 そうしてヨークにとどめを刺すべくゆっくりと近付こうとした瞬間


 突然目の前が真っ暗になった。


「あれっ……」


 そのまま俺は地面に倒れる。


「あれれ」


 そしてさっきまでの高揚感が突然醒めていき、今度は体全体が揺れるかのような感覚が襲ってきた。


「なん……なん……だ」


 そして俺の意識は次第に遠のき、地面越しから何かがこちらに向かって歩いてきている音が聞こえた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回は連載までの期間が長くてもう続きが読めなくなったのかなと心配しましたが読めてよかった、続きを楽しみにしてます。
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