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第六十一話 ヨーク討伐1

「うう……、うう……」


 ピピピッピピピッ、という腕時計の目覚まし音で目を覚ました俺は浴場での昨日の出来事に若干の疲れを残していたのか、身体が微妙にだるかった。


 あれから、マッチョたちの浴場内腕相撲大会や手押し相撲大会を1時間近く見ていたから無理もないだろう。


「本当に、なんだったんだあれは……」


 俺はそう呟きつつ、ふらふらとベッドから起き上がって洗面台に向かった。


 冷たい水で顔を洗うと、だんだんと意識が覚醒してくる。


 そして洗面台からベッドに戻って、もう少し寝たいと言う気持ちを抑えてそこに座り時間を見た。


 腕時計は目覚ましを合わせた時刻の9時。


 それを見て、俺はリュックから迷宮に入る前に剣道さんから貰ったサンドイッチを取り出した。


 それを食べながらアンダーウェアを着て装備を着ける。


 今日の予定は、昨日受けた依頼の上薬草採取と二層の探検。



 昨日、脱衣所でティーノさんから少し聞いた話では、二層の南西エリアで、ここからだと1時間もかからない距離の所に上薬草は生えているらしい。


 また、その辺りにいるヨークには油断しないようにね、という事だった。


 ガイドブックによると、ヨークは一層のトリコの進化モンスターだそうだ。


 宝箱から身体が出ているらしい、説明文だけだったからどんなモンスターなのかは実際に見てみないと想像もつかない。


 サンドイッチを全て食べ終えると、俺は上半身の装備を着け、左腕にプロテクター、剣を持って立ち上がった。


「よし、出発するか」


 一応部屋には帰ってくる予定だから、荷物はそのままにしておく。


 そして、部屋を出てからフロアで鍵を渡して外に出ると、周りでは剣を斧を槍をふっている冒険者が多く居た。


 その中には、昨日一層に居たチェイサーの人たちと同じ装備の人がちらほらいる。


「朝の鍛錬……かな」


 その光景を見てそう呟いて、自分がこれまでそういった事をしていない事実に気が付いた。


 いや、薄々気が付いていたが、なんとなく迷宮装備のおかげでどうにかなっているから大丈夫か、と逃げていた。


 俺もそろそろ、迷宮装備と魔力に頼るばかりじゃなくて、技術的な事を身につけたほうがいいかも知れない。


 それでも、今からどうする事も出来ないので、俺はそんな冒険者達の横を通り過ぎて南西に向かった。


「まだ、出てくるモンスターは下級系だな」


 それから、しばらく歩いて見たが、ヨークは見当たらない。


 ヨークが生息するあたりに上薬草はあるというから、とりあえず俺はヨークを探せばいいのだ。


 しかし出てくるモンスターはみな、バットピグの進化モンスター、ガイドブックで見たがワースピグというらしいそれや、それと同等の奴ばかりだ。


 だが、一層の時ならそのレベルのモンスターは何ともなかったが、二層になると違う。


 一体ずつ倒すごとに、俺は少しずつ少しずつ体力を消耗していた。


「気を抜いていると、本当に殺されかねない威力だからな……」


 俺は昨日、二層のモンスターの攻撃を何もせずに食らうとかなり不味い事になると直感していたため、今朝からの戦いは、魔力を全身に行き渡らせるイメージと、剣に伝えるイメージをしつつ戦っていた。


「魔力を意識すると動きも確実に速くなるし、剣の切れ味も増すけど疲れる……」


 そうして何体ものワースピグレベルのモンスターを倒して、少し疲労しつつ歩き続けると目の前に宝箱が現れた。


「もしかして……」


 迷宮の中の宝箱はごく稀に自然出現す本物もあるらしいが、大抵がそれに偽装しているモンスターだ。


 つまり、俺の知る限りではトリコがそれだ。


 そしてここは二層、初めて来たところで運良く宝箱を見つけましたなんてあり得るか?


 ということは間違いない。


「えいやっ!」


 俺は、少し離れた距離から先端の尖った石を勢いよく投げた。


 それがヨークかどうか確かめるだけでなく、ほとんどヨークだと確信しているので、投げる時に魔力を込める。


 全身に魔力を伝わらせて投げた石は、通常の何倍ものスピードで宝箱にぶつかる。


 一応、石にも魔力を込めるイメージをしたが、伝わっているかは分からない。


「ラギィイイイイッ!!!」


 そして石が宝箱に当たったその瞬間、石は粉々に割れて、宝箱の中からそんな叫び声が聞こえた。


 ビンゴだ。


 ヨークを見つけたという喜びから、俺はほんの少しだけ喜んだ。


 だが、そんな気持ちはすぐに消え失せる。


 ヨークは悲鳴を上げたのちに、宝箱から足を貫通させて立ち上がった。


 そのヒョロ長い足はめちゃくちゃ長くて、少し離れた距離からでも俺より身体がでかいことが分かる。


 そして立ち上がると同時に出した両腕は、足とは違ってすごく太い。筋肉隆々だった。


 それから最後に出した顔はトリコの時とはまるで違って、目はギョロっとしており口が顔の端まで伸びていた。


「こ、怖すぎる……」


 素直に感想を口にする。


 怖い怖い怖い、ホラーだ。


 手が生えたスライム、少し身体がでかくなったバットピグ、その他のモンスターもみんな、まぁありえるかもなという進化だった。


 だがこれは、実際に見てもあり得ない。


 何故、宝箱に潜んでいただけのゴブリン系モンスターがここまでホラーな成長を遂げるのだろうか。


「帰ろうかな……」


 俺にはまだ二層は早かったのかも知れない。


 技術的にも、そして精神的にも。


「ギャリッリリリリリ」


 だが、そんな俺の恐怖を感じ取って、


 あぁ、それならまた来てもらって大丈夫なんで。今日は終わりにしておきますか。


 なんてなる訳もなく、ヨークはそう雄叫びを上げて俺に向かってきた。


「バリアー」


 俺は剣を鞘から抜いて、そう呟くと、バリアーを身体の前に構えた。

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