第五十九話 第五迷宮二層宿泊施設
「よぉ、ここも随分賑やかになったもんだな」
宿泊施設の中に入ると、道案内をしてくれた(ただ後をつけただけ)三人組の中の男性が、受付にいる人にそう声をかけた。
「お、仁平くん。久しぶりだね」
受付の若い女性は男性のことを仁平くんと呼び、笑顔でそう言葉を返す。
「とうとう第五にもあいつら来たんだな」
「あぁ、先週ぐらいからかな?先月いろいろ有ったからね、時期が早まったみたい」
「ここは人も少なくて良かったんだけどなぁ」
「へぇ、賑やかなのは好きそうだけど」
「賑やかと騒がしいじゃ訳がちげーよ」
男性と受付嬢はそう会話を繰り広げる。
来た、ていうのは何のことだろう。
人は最近増えたらしい、男の人の言う通り、賑やかと騒がしいじゃわけは違うけど、まあ人が多ければそれだけ安心できるし、俺は良いタイミングで二層に来たかもな。
「で、今日は随分可愛いパーティーメンバーさんだね。こんにちは〜」
受付嬢は、男性の後ろにいる女性と女の子の方を見て、手を振り答える。
一瞬、さらにその後ろにいた俺はドキッとする。
「あぁ、こいつは由紀。第三で意気投合してな、ちょっとした手伝いをしてもらってる。そんでこいつが、ナナリー。ほら、この前言ってた瀬戸さんの」
「あぁ!その子が。随分小さいのね、小学生?ってそれじゃ違反になっちゃうか。何にしても、ようこそ第五迷宮二層宿泊施設へ」
「あぁ、んじゃとりあえず二部屋頼むわ、って由紀とナナリーは同室で良いか?」
そうして、しばらく前のグループの会話が続く。
俺はそれを、ただぼーっと後ろで眺めていた。
というか、この仁平という男、よく見ればかなりのイケメンだ。
そしてさっきは気付かなかったが、隣の女性、由紀と言われていた人も、ナナリーという金髪の女の子もかなりの美形。
特に女の子の方は、人形のように綺麗な顔立ちをしている。真っ白な肌に蒼い眼、そこに輝かしいブランドヘアーがよく合っている。
名前からして外国の子なんだろうか。
なんにせよ、俺はとてつもなく良いなぁと思った。
というか、まるで主人公みたいだなこの人。
漫画とかでよくある主人公。
美人と美少女を連れて迷宮を探検し、宿泊施設の受付嬢とも顔見知り。ちなみにこの受付嬢もかなり美形な人だ。
世の中には本当にこんな漫画みたいな展開の中で生きている人が居るんだな。
はぁ〜、良いなぁ。
俺もいつかはこんな感じで異性と仲良く迷宮探索!なんて出来るんだろうか。
まぁそう言うなら甲賀と2人で迷宮を探索したじゃないか、と思ったりもするが、あれはあくまでも薔薇十字団の依頼について行っただけだし。
それにもう甲賀は……。
おれのギャルゲーにドン引きしてから一度も顔を見ていない。
くぅ〜、良いなぁ。
羨ましいなぁ。
と、俺は宿泊施設に入った安心感からか、そんなバカみたいなことを思いながらぼけーっとしていた。
気がつけば、目の前の人達のやり取りは終わり、俺の番がくる。
「はい、次の人〜」
空いた受付では、女性が俺に向かってそう声をかけていた。
「あ、はい」
と答えながら俺は受付に行った。
「ごめんねー、待ったでしょ?ようこそ、第五迷宮二層宿泊施設へ。初めての人?」
「あ、いえ、全然大丈夫ですよ。あ、今日初めて二層に来て、はい。初めてです」
随分とフランクな女性に少し驚き、俺は若干しどろもどろになってしまう。
「それはそれは!ご苦労様だね。じゃあとりあえず冒険者ライセンスと、あとこれに記入してもらえる?初めはみんな書いてもらうんだよ」
女性はそう言って、色々と記入欄のある紙を差し出した。
俺は冒険者ライセンスを女性に渡してから、その紙に個人情報やあれこれを記入する。
「あ、書けました」
書き終わると、俺はそう言って紙を渡した。
「はーいよ、っと。うん、OK!泊まるのは1人?それともパーティの人が居る?」
「あ、1人です」
「はーい、じゃあ西の401の部屋を取るね、宿泊日数は変更可能だけど、だいたい何日とか予定はある?」
「一応一泊の予定です」
「そっか、じゃあこれで大丈夫かな。あ、西っていうのは言葉の通り、この正面受付のあるところが南エリアで、左斜め前に行けば西エリアだからね」
「わかりました、あ、それで宿泊代金とかって……」
「あぁ!ごめん、忘れてた。代金は普通に日本円でもOK。でも大体の人は依頼をこなしたり、迷宮石で払うかな。初めてだったら二層の探索も兼ねて依頼とかオススメだよ。んーとねー」
女性はそう言うと、斜め後ろのボードに向かう。
よく見ると、そこには色々な紙が貼られている。
「っと、これとかどうかな。依頼達成で2泊無料!二層南西部にある上薬草の採取!」
女性は紙を一枚持って戻ってくると、それを俺に見せてくれた。
「上薬草の採取……、それをこなせば2泊泊まれるんですか……」
紙は委員会にある依頼書と同じで、内容は女性の話す通りのことだった。
「そう!まぁ近辺にヨークとか居るから、安全とは言えないけど、一層でリザードマンなんかを普通に倒せるなら大丈夫だよ。どうする?」
まぁ迷宮にある以上、安全なんて保証されていない。リザードマンなら倒せるし、ヨークというモンスターは聞いたことがないが、多分大丈夫か?
「じゃあ、やってみようかな。あ、もしも達成出来なかったりしたら、後から現金払いとかも出来ますか?」
「うん、大丈夫だよ。あと、委員会の配布してる二層ガイドは持ってる?冒険者試験の時に貰ったやつの二層版」
ガイド本、一層のやつは持っているが、二層のもあるのか。
あれには、これまでで分かっているモンスターの名前や特徴、生息地が簡単に書かれている。
委員会が配布しているものだ。
「いや、二層のは持ってないです。あるんですか?」
「二層まではあるよ!本当は委員会で貰えるはずなんだけどね、おっちょこちょいな奴とかだと忘れるんだよね」
そう言うと、女性は引き出しから本を取り出した。
そして俺に渡してくれる。
「ありがとうございます」
これはかなり助かる。
事前にモンスターのことを少しでもわかるっていうのはかなりのアドバンテージだ。
と言っても、第五迷宮自体がまだ出現して日が浅いから、そんなに詳しくは書かれていない。
それに、あくまでも委員会が有志的に作っているものだと、試験の時も言っていた。
「じゃあ、あとは部屋の鍵!依頼品は24時間受付してるからいつでも大丈夫だよ。他に何か聞きたいこととかあるかい?」
「いや、大丈夫です。ありがとうございます」
そう言うと、俺は鍵を貰って受付を後にした。
初めての宿泊施設での受付は無事に終わりを迎えた。
よしよし、二層ガイドも貰ったし、依頼も受けた。
「よっしゃ、また一歩前進だな」
俺は、冒険者としての道をまた一歩進めたなと思いながらそう小さく呟いて、部屋に向かった。




