第五十七話 二層到達
「ごちそうさまでした」
周りが談笑で和気藹々としてる中、俺は1人で律儀にもそう呟いて空になったお弁当をリュックに直した。
そして、すぐに出発するのも消化に悪いだろうし少し休憩しようと思ったが、どうもこの賑やかな中で1人寂しく佇むのは悲しき学生時代を思い出して涙が出そうになるので、俺はなくなく祭壇を後にする事にした。
それでも、すぐに階層主の部屋に行って二層には向かわない。
やはり食べた後なので少し何処かで休憩したい、俺はなるべくモンスターが寄り付かなそうな場所を見つけようと城の中を歩いた。
出来るだけ祭壇場の近くで、なおかつモンスターが寄り付かなそうな場所を探して彷徨いつつ城の中を探検する。
「本当に、不思議な場所だなぁ」
そうして城の中を見ているうちに、そんな気持ちが湧いて出た。
というのも、絶対に誰かが使っていた、と言うか城として機能していたんだろうなと思われる装飾が数多くある。
俺はそうやって周りを警戒しながらも色々と見て歩き、不思議な場所だぁ、と時折同じ感想を呟きつつ、ドアのある部屋を見つけたのでそこに入った。
モンスターがドアを開けるのかどうかわからないが、まぁここなら少し休めるだろう。
そう思い腰を下ろす。
そして、一息ついてから部屋を見渡して不思議なものを見つけた。
それは、この部屋の壁にずらーっと横並びに飾られている人の絵画のようなもので、書かれている人はみんな偉そうと言うか賢そうと言う感じだ。
「これ、王様の写真とかか?…」
アニメとかでよくある初代王様、二代目王様みたいな感じに見える。
俺が見つけたぐらいだから、迷宮を調査している人達なんかはもちろん見つけているだろう。
だとしたら、この絵に描かれている人が誰か、なんてのは判明しているのだろうか。
いや、もし判明しているのならもっとニュースになってるか。
そう考えて、俺は2ヶ月ぐらい前の川田さんのセリフを思い出した。
【私たちの住んでいる世界のどの国の年代のものの特徴とも当てはまらないんです…、不思議ですよねぇ】
【まるで全く違う世界で、違う文明を辿ったかような場所ですよ、迷宮も、城も…】
川田さんは、行方不明になった大学生を探している時、城の中のものを見てそう言っていた。
あの時はこの絵を見ていなかったが、川田さんならこの絵の事を知っていると思う。
そして多分、あの台詞にはこの絵の事も含まれているだろう。
こんな決定的な証拠があるにもかかわらず、この城がいつの時代、いつの場所に存在していたか分からないなんて本当に奇妙だ。
「全く違う世界……、違う文明か……」
なんて事を考えて、ちょっとかっこつけてそんな事を呟いているうちに、結構な時間が過ぎていて、腕時計を見るともう午後3時に近付いていた。
「そろそろ行くか」
色々と考えたが、正直今の俺にはこの迷宮や城が何処から来たのかなんて考えてもどうしようもないのだ。
今はとにかく、目先の事だ。
二層に行って、そして無事に帰る。
それから中級冒険者試験を受けて晴れて中級冒険者になったあかつきには、安定した生活、豊かな暮らしが待っているのだ。
そうなったら、サーチャーになって迷宮の謎を解き明かすのも良いかもしれない。
そうして休憩を終えた俺は、その部屋を出て階層主の部屋に向かい、近くまで来て、階層主の部屋の前に男の人が立っているのを見つけた。
その人は、さっき見たチェイサーの人達と似たような防具をつけている。
もしかして、チェイサーの制服とかなのだろうか。
そう思いながら近付くと
「失礼します!ここから先は!階層主の部屋でございます!!二層に通ずる階段以外何もありません!現在!主の復活は報告されていませんが!ここから先は一層よりも危険でございます!」
とでかい声で忠告された。
うわ、なんだこの人怖い
と思いながらも、
「あ、はい、えっと、二層に行くんで大丈夫です……」
と返答した。
「失礼しました!お気をつけて!!」
俺がそう言うと、男性はそう声を上げて横に少しずれた。
ども、と言いながら俺はその人の横を通り、階層主の部屋に入る。
この前まではあんな人居なかったよな?遭難事件とかあったし、警備でもついたのだろうか。
そう思いながら部屋に入って、2ヶ月前の女王蜘蛛との戦いを思い出しながらも、俺は奥に進み、そして奥中央にある扉の前に立った。
その扉は、迷宮扉のように大きくて幅が広い。
「かなりの力で押さないとピクリともしなさそうだな」
そう思いながら力一杯押して開けようと手をかざした瞬間、全く力を入れていないにも関わらず扉はゴゴゴッと横にスライドした。
ああ、横に開くのかこれ。
予想と少し違った扉の開き方に感嘆としていると、その先に階段が見えた。
そして、その先には迷宮扉を潜るときに見えるのと同じ白いモヤがある。
俺はその階段をゆっくりと降りて行き、そして一息吐いてから白いモヤを潜った。
さぁ、二層だ。とうとう二層に俺は足を踏み入れるんだ。
そんな気持ちと共に白いモヤを抜けた瞬間、目の前には草原が広がった。
「ん、あれ。二層……、なのか?」
景色が一層とあんまり変わらない感じがする。
それでも、二層に間違いないよな?だって階層主の部屋からここに来たんだしな。
そう思い、辺りをキョロキョロしながら、少し歩く。
なんかこう、もっと違う世界になっているとか、なんか凄い変化があると思っていたから少し拍子抜けだな。
「ほんにゅ、ほんにゅ」
そう思っていると、横の草むらからそんな鳴き声が聞こえてきた。
モンスターか!と思い剣を構えると出てきたのはスライムだった。
「ほんにゅ」
スライムは、一層と変わらない青色の普通のやつだ。
モンスターも一層と変わらない……、層が変わればモンスターも変化すると思っていたのに、どう言う事なんだ。
「あ、でも……、スライムって鳴き声とかあげたっけ?」
一層のスライムはただポニョポニョと跳ねているだけだった。
鳴き声をあげるスライムは初めてだ。
やっぱり、ちょっとは変化もあるのか。
「ほんにゅ!!!」
そう頭の中で考えた瞬間、スライムが大きな鳴き声を上げ、次の瞬間には俺は殴られたような衝撃と共に尻餅をついていた。
「え……、え……?」
ただのスライムだと油断してしまっていた俺は、事態が飲み込めていなかった。
今、拳かなにかで殴られたよな?スライムが殴る?
そう思いながら衝撃が走って痛む頬をさすりながら前を見ると、目の前では、体から手を生やしたスライムがファイティングポーズを決めていた。




