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第五十三話 クラス

「はは……、驚いたな。君みたいな低級冒険者がいるとはね、あの子以来だよこんな事は」


 俺が低級冒険者だと知ると、男性はそう言いながらコーヒーのカップを口元で傾けた。


 驚いたと言うのは、もしかして俺が低級冒険者とは思えないほど強いとか言う事だろうか?


 そうだとすると、少し嬉しい。


「あの子?」


 そう思いながら、俺は男性のその言葉を聞いてふと無意識に口に出してしまった。


「ああ、前にもね、君みたいに実力がある低級冒険者と会ったことがあるんだよ。と言っても彼女はあっという間に俺を追い越して行ったから特別だけどな」


 男性はそう言うと、何かを思い出しているかのように微かな笑みを浮かべる。


「そうなんですか……、俺なんてまだまだですけど、色んな人が居るんですね……」


 実力のある低級冒険者と言われた事に俺は小躍りしたくなるほどの喜びを感じつつも、普通にそう返答する。


「あっ。それで……、チェイサーとかサーチャーって言うのは何なんですか?」


 強かった低級冒険者という女性が今どうしているかなんてのも気になったが、それよりもチェイサーとか言うのが何か気になる。


 俺は続けて聞いてみた。


「あぁ、クラスだよ、冒険者のね」


 すると、男性はあっさりとそう答える。


「クラス……?」


「そう、詳しい事は中級冒険者試験の時に聞かされるだろうけど、中級からは色々と変わることが多い。低級冒険者がアルバイトだとすれば、中級冒険者からは正社員になるって言うと分かりやすいかもな。しっかりと手当てもあるし、保険なんかもある。それに三つのクラスのどれかに就く事を強制される」


 中級冒険者から労災などが出るっていうのは甲賀達から聞いていたが、正社員か……。


 その言葉を聞いて、少しだけ嬉しくなる。


 やっぱり、心のどこかでしっかりと働いている同年代に対して引目を感じていたのだろうか。


「そのクラスっていうのがチェイサーやサーチャーなんですか?」


 コーヒーのカップに手をやりながらそんなことを考え、そして続けて質問した。


「そう、まぁモノの例えなんだが正社員になるっていう事は、つまり給料が固定で出るってわけだな。となると、これまでのようにただモンスターを倒して迷宮石を換金するだけじゃ国にメリットがない。そこで作られたのが追跡者(チェイサー)探索者(サーチャー)ってわけさ」


 男性はそう言うとコーヒーをぐいっと飲み、続けて


追跡者(チェイサー)の仕事は主に迷宮内での犯罪行為の取り締まり、いわゆる警察のようなものだな。そして探索者(サーチャー)はその名の通り迷宮内の探索がメインのクラス、迷宮の謎を解明したり、各層を隅々までマッピングする」


 と説明してくれた。


 確かに、迷宮の中は何かと物騒だ。薔薇十字団だけでは治安の維持もままならないだろう。


「そんなクラスがあるんですね……、あれ、でも追跡者と探索者って事は、もう一つあるんですか?」


 さっきの話からすると、クラスは全部で三つ。


 残る一つは何なのか、そう思い俺が尋ねると、男性はああーっというなんとも言えない顔をした。


「ああ、あるっちゃあるんだがな……。自剣者(フリーランサー)っていうのが。でもこれは、あってないようなクラスなんだよ。このクラスだけは組織のような形をとっていなくてね、例外的に給料も発生しない。これまで通り迷宮石を換金したり、依頼を受けて稼ぐんだ。まぁ、二つのクラスのどれにも入りたくない冒険者がなるクラスだな」


 と説明してくれた。


 つまり、中級冒険者からは追跡者に探索者、そして自剣者の三つのクラスのどれかに所属しなくてはいけなくて、追跡者と探索者には会社のように給料が発生すると言う事か。


 自剣者は、一体誰がなるんだろう。

 ただ単に三層以降が気になる片手間に冒険者をやってる人とかがなるんだろうか。


 それにしても……


「給料かぁ……」


 俺は、その響きにワクワクしていた。

 コーヒーカップを持つ力も、心なしか強くなる。


 冒険者っていうのは、夢やロマンがあるが不安定だ。


 その日の迷宮石の取れ具合によって収入が左右される不安定な職業なのだ。


 だが、中級冒険者になればそんな不安定さからは解消される……。


 もちろん、モンスターと戦い続けるわけだから命の危険がある事に変わりはない。


 でも、中級冒険者になれば今の半分フリーターのような生活から解放される!


 そう思うと、とてもワクワクすると同時に胸が高鳴った。


「中級冒険者ってなんか凄いですね」


「っと、ミナミからだ」


 そんなことを考えながら、俺がそう口にすると、それと同時に男性の携帯が鳴った。


 男性は失礼、と言いながら携帯を手に取り、またキッチンのあたりに行って電話に出る。


 俺は、中級冒険者になれば両親にあーだこーだと言われずに済むかもしれないなぁ、なんてリアルなことを思いつつ、飲めないコーヒーをちびちびと飲みながら男性を待った。


 そして、数分もしないうちに男性は戻ってきて


「すまない、例の三人の取り調べに行かなくてはならなくなったから俺はそろそろ失礼するよ」


 と言った。


 男性が座ることなくそう言ったので、俺も立ち上がって礼をする。


 すると、自己紹介がまだだったなと言いながら懐から名刺を取り出し俺に渡すと


「中級試験、頑張ってくれ。もしクラスで迷う事があったら是非追跡者に来てくれると嬉しい、なんたって人手不足でね、っと、急がないと」


 と言い残して、談話室を後にした。


 俺は、ありがとうございます、と頭を下げながら男性を見送り、忙しそうだなぁなんて思いながらもらった名刺に目をやった。


 名刺には、第五迷宮管轄 槙島義也(マキシマヨシヤ)と書かれていた。


 それをリュックに入れると、そろそろ帰るかと思いコートを羽織った。


「あれ、このコーヒーカップどうするんだろ」


 そうして、コートを羽織ってリュックを背負った所で、机に置かれた二つのコーヒーカップがふと気になった。


 洗って返すのだろうか。


 多分、そうだよな?


 カップ二つを手に持って、そう考える。


 リュックに入れると割れそうだし、コートのポケットに入りそうにもない。


 だったら仕方ないか……。


 そうして、少し変な感じだが、俺はコーヒーカップ二つを両手に持って談話室を後にした。

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