第四十九話 迷宮犯罪者
俺が半年ほど拠点にしていた狩場は、迷宮に入ってすぐのところをしばらく左に歩くとある隠れた小道を進むと到着する。
この小道は草で入口が覆われており、パッとみただけでは中々気が付かない。
だから半年間、人と会ったのは数回だし、会った人もスライムしか湧かないのかぁみたいな顔をして直ぐに何処かに行ってしまう事ばかりだった。
とにかくここは知名度がなく、不人気な場所なのである。
そして今回も予想通り、やはり人は誰もいなくて、スライムたちがうようよと歩いていた。
「1ヶ月と少しぶりだけど、なんだか懐かしいなー」
そんな事を口にしながら、ぽよぽよとはね歩くスライムを見る。
スライムは基本的にはそんなに自分から攻撃を仕掛けてこない。
10匹に2.3匹は普通のモンスターと同じように、人を見かけた瞬間に襲いかかって来るが、大体のやつはただ歩いているだけだ。
良心が痛むからかエゴなのか分からないが、俺は一応襲いかかってくるスライムをいつも重点的に狩っていた。
そもそも、迷宮のモンスターは倒しても直ぐに復活するのでこいつらが本当に生きているか、個体ごとに意識があるのかなんてのも色々と諸説があるが、それでもただ歩いているだけのやつをいきなり切りつけるのは少し抵抗がある。
そんな事を考えていると、10匹のうちの2.3匹が俺めがけて向かってきた。
「よしきたっ」
俺はそう言いながら剣を鞘から抜いて、構えた。
そして
「バリアー」
1ヶ月ぶりにそう唱えて、左腕のプロテクターからバリアーを出現させる。
いつも通り、青い半透明なバリアーだ。
俺はバリアーを体の前にして、右手で持った剣を半身後ろに来るように構えて、飛んで襲いかかってくるスライムに向き合った。
スライムは俺めがけて飛んでくるが、俺はそれをバリアーで塞いだり、横に避けたり、はたまた大袈裟にバックステップしてみたりしてかわす。
とにかく、リハビリ目当てだったので体を動かしまくった。
「……すごいな」
そして、思わずそんな言葉が出てくる。
久しぶりだから鈍っているかと思ったが、その逆だ。
凄い軽い。前の倍ぐらい体が軽く感じる。
まるで重力が半分以下になったかのように、俺の動きは軽やかだった。
本当に驚くべきことだが、でも実は少しだけそんな予感もしていた。
なぜかと言うと、俺の怪我の治りの早さだ。
あの回復の速さは、外に微妙にある魔力のせいなんじゃないかと俺は予想していた。
そして、多分それは正解だ。
俺はあの戦い以降、相当に魔力を扱うのが上手くなったようだ。
上手くなったと言うか、より魔力を感じられるようになった。
多分、今なら50メートル走で5秒台を出せるだろう。
迷宮の外でだって、6秒ぐらい出せるかもしれない。
元々8.6秒だった俺から、そんな自信が出てくるほどにとにかく体が軽かった。
それから少しの間、ある程度のウォーミングアップをその狩場で済ませると、俺はそこを後にした。
「ほい!ほい!ほい!ほい!」
あまりの身体の軽さにウキウキになりながら、襲ってくるバットピグや、他の低級モンスターを楽々倒して進む。
時折、バク転なんかしたりして自分の凄さに酔いしれていた。
「ふぅ、そろそろ戻るか」
そして1時間ぐらいそんな感じで進んだところで、ふと我に帰り、懐中電灯を持ってないからこの先に進むのは危険かなと引き返そうとした時だった。
「こんな時間にさぁ!女連れてこんな所に来るとかバカじゃあん?」
「冒険者舐めてるだろこいつ!」
「女の子可愛いねぇ」
という男数人の話し声が少し離れた岩の辺りから聞こえてきた。
それと同時に打撃音と男性の呻き声も聞こえてくる。
「えっ……」
迷宮扉に引き返そうとしていた俺の足は、それを聞いてピタッと止まった。
なんだか、やばい感じのアレじゃないか……?
俺は咄嗟に近くの木に隠れて、恐る恐る声のした方を見てみると、俺を背にして男が三人立っていた。
そして、その男達が見ている方向に人が2人いる。
1人は膝をついて倒れていて、もう1人はただ呆然と立ち尽くしている様子だった。
暗くてあまりよく見えないが、立っている方は女の人だろうか。
長い髪の毛が揺れているのが見える。
「おいおいおい……、これ絶対やばいやつだ……」
俺は木に隠れながらその光景を見て、そう小さく呟く。
察するに、男女の冒険者ペアが男三人に襲われていて、ペアの方の男性が何らかの攻撃で倒れている。
そして多分、襲っている奴らの狙いは女の子だ。
「ここはよぉ?監視カメラもなんにもねぇ、外の世界みたいに証拠も残らねーんだよなー!」
「仮にここで何が起こっても自己責任!どういう事かわかるよなぁ!」
「という事で、お前はここで寝てろ!殺さないだけありがたく思えよ雑魚が」
襲っている男三人は、まるで打ち合わせでもしていたかのように息ぴったりに交互にそう話し、呆然と立ち尽くしている女の子の手を引っ張った。
「……やめてっ」
女の子は振り絞るようにそう声を出したが、男達の笑い声にその声はかき消される。
そして、そのまま何処かに連れて行かれようとした。
「おっ、おいお前たひッ!!!!」
その瞬間、俺は意を決して隠れていた木から飛び出て、そう叫んだ。恐怖で言葉がうまく出てこない。
俺の声を聞いて、男三人はこちらに振り返る。
「「「あぁ!?」」」
そして俺の方を見て、そう言った。
その声を聞いて、俺の心臓はとてつもなく早い鼓動を刻み始めた。
あけましておめでとうございます。
今年の目標はずばり、楽しく書く!です。
更新頻度がまちまちですが、これからも楽しく書いていきますので、ぜひよろしくお願いします。
そして地味にですが、短編なんかも投稿していたりするのでそちらもまた読んでもらえたら嬉しいです。
それでは、新年一発目、第四十九話読んでくださりありがとうございました!




