第四十五話 友愛団
そんなことを思っていると、またドアが開いて、今度は本当に医者の先生がやってきた。
そして俺は精密検査を受けるために、病室を後にする。
検査を受けるためにロビーを車椅子で移動している時に看板が見えたが、どうやらここは俺のよく知る近所の病院のようだ。
俺がいつも行っている第五迷宮から徒歩で10分かからないほどに建っている。
そして、いろいろな検査を受けて、個室に戻る頃には窓からさす光が茜色になっていた。
川田さんと甲賀はまだ病室に残っていてくれて、俺はベッドに横になってから気になっていた事をあれこれと聞いた。
この病院の代金がどうなってるか、なんてのも気になったが、
それよりもまずは俺がどうやってここに運ばれたのか、そしてあの男やモンスターは何だったのかを質問した。
まず、俺がここにどうやって運ばれたか、それはやっぱり甲賀がここまでおぶってくれたらしい。
あの一撃で運良くモンスターは倒されて、意識を失った俺を甲賀が一人で運んでくれたそうだ。
俺はそれを聞いて、改めて甲賀に感謝を述べた。
「べっ、別に、アンタのおかげで二人とも助かったんだし……、当たり前のことをしたまでよ!てっ、ていうかこっちこそ、ありがとうだし……」
俺が感謝を口にすると甲賀は目元を拭いながら、今度は顔を赤くしてそう言った。
うっすらと感じていたが、甲賀は多分、ツンデレだ。
そして、そんな甲賀のデレ部分を若干良いなぁと思いつつも、一番問題のあの男。
俺たちを襲った黒いローブの男について聞いた。
「その男なら安心してください。八日前の水曜日、つまり古森くん達が襲撃された二日後に、第三迷宮で私達が捕まえましたよ」
俺が聞くと、川田さんはあっさりとそう答えた。
「本当ですか!?」
俺は安堵して、そして甲賀の方を見る。
「うん、あの男、あれから第三迷宮に向かったみたいなの。そこで薔薇十字団含めた各迷宮の上級冒険者達を襲ったらしいわ」
俺が見ると、甲賀はそう答えた。
なんて奴だ……。
という事はあいつの狙いは甲賀だけじゃなくて、上級冒険者全員だったのか、
ていうか、たった一人で大勢の上級冒険者を襲うなんて少しぶっ飛んでるな。
「一体何者なんですか?あいつは」
かなり魔力を自在に操っていたし、迷宮装備らしい魔法も使った。
それに多分、あの巨大リザードマンもあいつの差し金だ。
「私たちもこれ以上の捜査に立ち入る権利は無いので、詳しくは知らされていないんですが、どうも友愛団の信仰者なのではと言われているそうですねぇ」
「友愛団って確か、迷宮を神様の何かだとかで信仰している宗教団体……ですよね?」
テレビで見た事がある。迷宮は神様の与えた試練だとか、最下層には神様が住んでいるとか言っているらしい。
確か、あの男も神様がどうとか言っていたな。
「ええ、第四迷宮を本拠地にしている団体の方々ですねぇ。色々と黒い噂があるので、今回の事件もその団体の仕業じゃないかと疑われているそうです。勿論、友愛団は関与を否定しているそうなんですがねぇ」
「黒い噂?」
テレビでやっていた時は、無闇な冒険者ライセンスの配布を反対している。みたいな運動をしているとか言っていた気がするが、そんなやばい組織なんだろうか。
「そ、友愛団って、迷宮内で魔力とかを利用して色々実験してるとか言われてんのよ。だからあの男がけしかけたあのリザードマンもその産物なんじゃないかって、第三迷宮を襲った時も巨大モンスターの群れを連れてたらしいし」
俺が疑問に思っていると、すっかり泣き止んでいつもの調子に戻っている甲賀がそう説明してくれた。
陰で秘密の実験なんて、悪の組織みたいだ。
だが、もしも仮にその実験が事実だとして、また、あの男が友愛団の信仰者だとしたら巨大リザードマンを操っていた理由も説明がつくのだろう。
「なんだか、結構複雑な話になりそうだな……」
そんな実験や組織や宗教という言葉を聞いて、なにか陰謀みたいなものを連想した。
正直、あまり関わらない方が良いような気もする。
「まぁその辺りは政府とか迷宮の偉い人がどうにかするんじゃないの。悔しいけど私たちでもこれ以上の捜査は出来ないし、気にしたって仕方ないわよ」
「そうですね、後は政府の方々に任せるしかありませんからねぇ、とりあえずは犯人も捕まったので一件落着と考えていいかもしれませんね」
一件落着、か……。
確かに男は逮捕されて、甲賀達ですらこれ以上踏み込む事が出来ないんなら、あれやこれやと考えても仕方ないかも知れない。
巻き込まれた形だったとはいえ、命を狙われた身としてはなんだか腑に落ちないが、同じく襲われた甲賀や川田さん、それに多分他の上級冒険者もそれで納得している以上、そう考えるしかないんだろう。
それに、甲賀達の口振りから察するに、これまでもそうやって犯人を捕まえるだけ捕まえたら、あとはお役御免なんて事が多々あったんだろうなとうっすら思った。
それならば、俺も変に騒ぎ立てるのは良くないだろう。正直、これ以上深く関わるのも嫌だしな。
触らぬ神に祟りなし、って多分こういう事だ。
「そうですね……、まぁとにかく男が捕まって良かったです」
「ええ、古森君は今は自分の身体を治すことに専念してください」
俺がそんな事を思いながら言うと、川田さんが俺を気遣ってくれて隣で甲賀もうんうんと頷いていた。
そこで、俺は地味に気になっていた事をもう一つだけ聞いてみる。
地味だが、ある意味では俺にとってはこれが一番重要だとも思える。
「あの、その事でちょっと質問なんですが……、冒険者って労災とかあったりしますか、、?」




