第四十四話 病院
気がつくと、俺はベッドに横たわっていた。
「生きてる……」
覚醒して間もないボーッとした頭で考えて、ぼそっと呟く。
そして
「生きてる!?」
と驚きながらガバッと起き上がろうとした瞬間、身体中に痛みが走った。
「いっっつ……」
痛みに負けてすぐに身体を戻す。ベッドに仰向けに寝転がりながら、天井をまっすぐと見つめる。
そして今の状況を頭で考えた。
天井は真っ白で、右にある窓のカーテン越しから日が差し込んできている。
左には名前は知らないが点滴用の銀の棒が置かれていて、そこから伸びる管は俺の左腕に向かっていた。
俺の身体にはほとんど全身に包帯が巻かれていて、服も真っ白な見たことのない服を着ている。
「病院……か」
どうやら俺は病院にいるらしい。全く記憶にないが多分かなりの治療を施されたんだろう。
甲賀が助けてくれたんだろうか、俺の最後の記憶は巨大リザードマンにダガーを突き刺した甲賀の姿だ。
あの攻撃でヤツを倒すことが出来て、それから俺をおぶって病院まで運んでくれたのか?
あの洞穴から外まで、かなり距離があるのに随分と迷惑かけちゃったな。
そんな憶測をしていると、ガラッとドアが開く音がした。
「古森君!気がついていたのですか!!」
少し驚きながら音のした方を見ると、そこには片手にビニール袋を持った川田さんが立っていた。
「いやぁ〜、良かったぁ……本当に良かったぁ」
と言いながら川田さんは俺の横に置かれている丸椅子に座る。
「川田さん……、俺は一体……」
どうやって助かったのか、そして甲賀は無事なのか。とにかく色々聞きたいことがありすぎて言葉が詰まる。
「まぁ落ち着いて、とにかく意識が戻って良かったです、とりあえずお医者さんを……」
そう言って川田さんは壁に取り付けられたボタンを押す。少しすると女性の声が聞こえてきて、川田さんが俺が意識を取り戻した事を伝えた。
「すぐに、お医者さんが来てくれますよ。いやぁ本当に良かった、、どこも気分は悪くありませんか?」
「あ……、はい。気分は別に大丈夫なんですけど、今の状況がいまいち分からないと言うか……、俺はどうなったんですか?それに甲賀は……」
と言いかけた瞬間、またドアがガラッと開いた。
もう医者が来たのか、と思ってドアの方を見ると、そこには茶色いロングコートを着て、首元には黒のマフラーを巻いた女の子が立っていた。
一瞬この前と違う姿で分からなかったが、立っていたのは甲賀だった。
甲賀はドアを開けて俺を見ると、驚いた顔をする。
「甲賀!無事だったのか!」
「ひぐっ……うう……うううっ……」
「えっ……!?」
びっくりしたような顔をしていると思ったら、今度は大粒の涙をポロポロと落としながら泣き出してしまった。
甲賀はドアの前で立ったままずっと泣いている。
「おっ……、おい……どうしたんだよ甲賀」
1日や2日の付き合いだが、あんなに大きな困難を乗り越えた仲だ。
正直、俺も甲賀が無事で本当にホッとしたが、まさか泣くほど心配してくれていたのか。
そう考えると、俺も少し涙ぐんできた。
「私たちも定期的にお見舞いに来ていたんですが、古森君が起きた時に誰かそばに居るようにってね、陽奈ちゃんだけは毎日欠かさずお見舞いに来ていたんですよ、ええ」
川田さんが微笑ましそうに甲賀を見ながらそう言った。
そうだったのか……毎日欠かさず……。
ん、毎日欠かさず?まるで俺がずっと眠っていたみたいな言い方だな。
「古森君がここに運ばれてもう10日ですからね……、本当に目が覚めて良かったです、ええ」
「10日!?」
思わず大きな声を出してしまった。
そのせいで少し身体が痛む。
「そうよっ……、ひぐっ……、本当にもう起きないと思って……、思ったんだから……」
甲賀が泣きながらそう言って、こっちに向かってくる。
10日間もずっと……、俺はこの個室部屋で入院していたのか……。
あの洞穴で出会った変な男の事や、謎の巨大モンスターの事など聞きたいことが山ほどあったのに、俺はそんなどうでも良い事実に少し落胆した。
こんな個室、かなり高いよな……。
保険とか、どうなってんだろう……。




