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職業冒険者は半額シールが好き。  作者: 語谷アラタ
第二章 再スタート
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第四十三話 約束4

 このバリアーは俺の最後の抵抗だ。


 左腕に魔力を集中させて、なんとか数秒稼ぐために祈るように唱えた。


 その瞬間、巨大リザードマンは何故か俺を手から離した。


「ぐっ、あああぁあああ!!」


 俺は高さ数メートルから地面に落ち、それと同時にとんでもない激痛が身体に走る。


 バリアーに驚いて咄嗟に手を離したのだろうか、

 まったく動かない身体で唯一出来ることだったバリアーだが、まさかこんな事態は予想してなかった。


 でも……


「ざまあみろ……、トカゲやろう……」


 激しく全身を駆け巡る激痛に意識が飛びそうになりながらも、俺は数秒以上の時間を稼げた事に喜びを感じていた。


「ウガァ……ウルルガァ……」


 今にも閉じそうな目を必死で開けて、半目になりながら奴の方を見ると、俺を握りしめていた手から血を流しながら唸っていた。


 バリアーでこんな傷を与えられたのか……。


 俺を握りしめる隙間のない掌の空間に突然現れたバリアーが、奴の肉を抉り取ったのか。


 俺がそんなことを考えていると、奴は掌を抑えながら俺を睨みつける。


 そして両方の掌を合わせるように握りしめ、ハンマーのようになった両腕を振り上げた。


 ここまでか……。


 逃げようにも身体はピクリとも動かない。


 そしてその腕が猛スピードで振り下ろされた瞬間、俺を殴り潰す寸前、突然景色がスローになった。



 景色、というよりはその振り下ろされる拳、それが何かの力で動きを操作されているかのようにゆっくりになった。


「はぁぁあああああああああっー!!!!」


 そして少し離れたところから聞こえて来る叫び声。


 身体が痛くてその声の方を見ることはできなかったが、それは甲賀の声だった。


 その声は速攻で俺のすぐそばにやってきて上を飛び越えた。


 右手で黄金に輝くダガーを握りしめ、左の掌を巨大リザードマンに向けている甲賀が一瞬視界に映る。


 そして甲賀はそのままダガーを奴の左胸にある魔石に突き刺した。


「ヴォオオオオオオオオオオオッ!!」


 ダガーを胸元に突き刺された巨大リザードマンは凄まじい雄叫びを上げながら後退りし、俺の見える範囲から消えた。


 甲賀は間に合ったみたいだ、魔力を貯めるだけの時間を俺は確保できたんだ。


 魔力を蓄積されたダガーが黄金に輝いていた。


 俺でも見えるほど魔力が可視化されていた、

 あれで弱点を突かれたんだ、きっと奴も死んだはず。


 良かった……。


 そう思うと、もう俺は意識を保っていられなくなり、そのまま目を閉じた。


 甲賀が何か耳元で言っているのがうっすらと聞こえたが、俺は何も答えられずそのまま意識を失った。


 ――――――――――――――――――――――――


 今日は初めて年の近い奴と迷宮探索をする日だった。


 私は久しぶりに少しワクワクしていて、約束の時間よりも30分も早く迷宮扉の前に着いてしまった。


 相手は私の所属する上級冒険者組織のメンバーが話していた男、話によれば低級冒険者のくせに遭難者の捜索に手をあげたらしい。


 メンバーの川田のおっさんは今時珍しい勇気のある男の子だと言っていたけど、多分ただのお人好しだ。


 まあ一人でクエストを受けるよりもそんな奴でも居れば話し相手にはなるしと思って誘ってあげた。


 そしたらそいつ、いきなり遅刻して来た。


 だから存分にキレてやると、どうやらお腹が痛かったらしい。


 それならそうと先に言って欲しかった。

 キレた私が短気なバカみたいだ。


 ちょっと出だしで失敗したかなと思ったから、迷宮に入ってから思いきって冗談を言ってみた。


 ステータスなんてあるわけ無いのに真に受けていて面白かった。でも、笑ってくれたから多分結構打ち解けたと思う。


 今日はちょっと面白い1日になるかな、なんてこの時はまだ思っていた。


 でも、本当にこの時に引き返しとけば良かった、


 クエストの目的地の洞穴付近で変な冒険者に会って、それから状況は一変した。


 その変な冒険者はなんとか退けられたけど、そいつが仕組んだであろうモンスターが私たちの前に姿を見せた。


 それは変異体みたいな雰囲気だったけど、大きさも魔力の禍々しさも段違いだった。


 私はこの時、初めて死ぬかもしれないって怖くなった。


 横にいる男も私と同じですごく怯えていた。



 今から二人で逃げれば何とか生きて帰れるかもって一瞬頭をよぎった、でも私は上級冒険者としての使命がある。


 だから、男に一人で逃げるように命令した。


 そして出来たらこの層の冒険者を外に避難させてほしいと。


 私一人じゃどこまで時間を稼げるかわからないけど、それが今の最善の行動だと思った。


 でも、男はその命令を断った。


 二人で倒して二人で帰ろう、とか訳のわからないことを言ったのだ。


 何言ってんのと思ったけど、この時は少し嬉しかった。1人にならずに済む安堵みたいな感情。


 それから男はどうすれば勝てるか聞いてきて、私は頭の中にあった作戦を言うか迷った。


 でも男は決意したような目で私を見て、その作戦を聞くと、良しと言った。


 その前の戦いを見ていても、どう考えても低級冒険者の域を超えていない実力だったこの男に、こんな命がけな事をさせていいのかと不安になっていると、男は左腕を叩きながら自分がいかに大丈夫かみたいな事を説いてきた。


 この男は、自分は迷宮装備を持っている、だから大丈夫。そう言いながらこの作戦で行こうと何度も言ってきた。


 私は怖かったけど、この男を信じて約束した。

 絶対に2人で帰ろうって。


 作戦遂行間際、男はもう一つ約束を付け足した。


 何があっても作戦を止めるな、と。


 私はうん、と頷いたけどこの時はあまり意味を理解していなかった。


 そして男が作戦に出向いてからすぐにモンスターの叫び声が聞こえてきた。


 そしてそれから1分後ぐらいには、凄い音が後ろで鳴り響いた。


 私は迷ったが、それでも約束を思い出して魔力を高めることに集中した。


 とにかく早く、早く高めないと死んでしまう。


 この時は本当に怖かった、男が間際にした約束が無かったら多分助けに行っていた。

 でもどうにか必死で魔力を高め続けた。


 それから少しして今度は男の叫び声が聞こえてきたと同時に、私は飛び出した。


 魔力をギリギリまで高めたダガーを持って叫び声の方へ行くと男が血だらけで倒れていて、傍には血を流した巨大なモンスターがいた。


 モンスターは拳を振り上げて、男を殺そうとしている瞬間だった。


 私は必死の思いで物体操作でその拳の動きを止めようとした、そしてすぐに男の元を飛び越えてモンスターの左胸にダガーを突き刺した。


 幸運なことに、見事にそこが弱点だったみたいで、モンスターはそのまま蒸発して消えた。


 そして私が男のところへ駆け寄ると、男はもう目を開けていなかった。


 左腕には迷宮装備のスキルだと思う真っ赤で歪な形のナニカが発動していた。でも、それは私が来ると同時に消えてしまった。


 私は何度も呼びかけた、でも反応はなかった。


 本当に後悔した、何でこんな事をさせてしまったんだろうと思って、自分の不甲斐なさに自分を殺したくなるほどだった。


 でも、男の胸元に耳を当てると、男がうっすらと息をしているのが分かった。


 それからはあまり覚えていない、


 とにかく男、古森君を担ぎ上げて、私は一心不乱に外に向かった。



誤字脱字報告ありがとうございました!

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