第四十二話 約束3
「お前の相手は俺だ!このトカゲやろう!!」
まずは俺を意識させないといけない。
俺はそう叫びながら、あらかじめ持っておいた石ころを奴に向かって投げつけた。
「グルルルガァア!!」
それは見事に相手の頭にヒットし、痛くも痒くも無いだろうが、イラついたのであろう巨大リザードマンは甲賀のところに向かう足を止めて俺を睨みつけた。
よし、まずは成功だ。これで俺を無視して甲賀のところに行かれてたらそれで終わっていた。
「……バリアー」
そして俺も足を止めてバリアーを出し、黒銅剣を構えて巨大リザードマンと向き合う。
突然バリアー発動作戦なんて無意味だから初めからバリアー全開だ。
そして数秒間の睨み合いが続く。
俺は自分から攻撃を仕掛けない、あくまで時間を稼ぐだけだから、このままずっと睨み合いで終わって欲しいぐらいだ。
「グルルルガァア!!」
しかしそんな都合の良いことが起きる事はもちろんなく、やつはそんな雄叫びをあげると巨大な右腕を俺めがけて振り下ろしてきた。
「うおっ!」
横からの攻撃ならまだしも、縦からの攻撃をバリアーで防いでも多分耐えきれずに押し潰される。
俺はローリングする形でなんとかそれを避けた。
そして、そのまま下に落ちている石ころをいくつか拾い上げて奴に向かって投げつけながら少し距離を取る、
これであいつの気を引きつつ、少しでも甲賀の隠れている岩陰から距離を離せる。
「グルルルガァア!!グルガルガァアアアアア!!」
ちょこまかと動き回り、たまに石を投げてくる事にかなりイラついた様子の巨大リザードマンはそんな雄叫びをあげながら俺に何度も拳を振り下ろす。
怒っているのと、元々単調な攻撃しかしてこない事も相まって意外と攻撃を交わすことができていた。
いけるぞ、残り二分ぐらい……
このまま避け続けられる!
しばらくそんな攻防が続いて、そう頭の中で考えたその瞬間
それまで拳の振り下ろししかしてこなかった巨大リザードマンが突然木を殴り倒し、それを手に持った。
「グルゥラァア!!」
そしてそれを思い切り横に振り回す。
やばい!避けられないっ。
長さのある大木、バックステップはまず間違いなく無理だった。
そしてジャンプは一瞬頭をよぎったが、かなりのスピードで向かってきていたので俺は咄嗟に身体を庇うようにバリアーを構えてしまった。
その瞬間押し寄せてくる凄まじい衝撃
俺はその衝撃と共に身体が宙に浮き、そのまま吹き飛ばされた。
「ぐっはぁ……」
かなりの距離を吹き飛ばされた俺は、そのまま地面に倒れ伏した。
痛い、と言うより何も感じなかった。
首から下が全く動かない、というか感覚が全くない。
唯一感じたのは口から血が溢れていることと、口の中が血で一杯だと言うことだった。
ああ……、やばい。
そして地面を揺らすように足音を立てながらこちらに向かってくるナニカ。
ナニカというか巨大リザードマン。
甲賀のところに行かなくて良かったな、と思いつつもトドメをさしにきたアイツに恐怖を覚える。
感覚だが、まだ1分ちょっとしか経ってない。
よくて半分過ぎたかどうか
これから俺にトドメをさすのに数秒、歩いて行くか走っていくか知らないが、膨大な魔力を感じる甲賀の場所に行くのに数秒
良くて2分か、俺が稼ぐことができた時間は。
魔力を貯めるのに最短2分だと言っていたから、もしかしたらギリギリ間に合うだろうか。
甲賀はこいつを倒せるだろうか。
足音が俺の間近まで来て止まった。
なんとか目を開くと、巨大リザードマンが俺を見下ろしている。
そして、その馬鹿でかい手で俺の体を持ち上げた。
このまま握り潰すつもりか、それとも頭でも食べられるのか。
俺はもう、死ぬことを覚悟していた。
だが、ほんの数秒でも時間を稼ぎたい。
甲賀とした約束は二つ、
一つは2人で生きて帰ること。多分それは守れない。
でも二つ目、何があっても三分間時間を稼ぐ、これは最後まで諦めたくなかった。
3分は無理でも、せめてあと数秒、あと数秒稼げれば甲賀はこいつを倒して帰れるかも知れない。
俺はそんなことを考えて、全く動かない身体で最後の抵抗に唱えた。
「バ……リアー……」




