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職業冒険者は半額シールが好き。  作者: 語谷アラタ
第二章 再スタート
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第四十一話 約束2

「で、だ。その、こんな事を言っておきながらアレなんだが……、何か作戦とかあるか?」


 ちょっとかっこいい感じに一緒に戦うと言ったものの、正直な話、真正面から普通に戦って勝てる気がしないし何の策もなかった。


「ひとつだけある……、けど……」


「けど……?」


 甲賀は俺の問いかけに、あると答えたが何故かその内容を説明しようとしない。


 これは俺に危険が及ぶ事をまだ気にしているんだな。


「あいつがここを見つけるのも時間の問題だ、どんな作戦なんだ?とりあえず言ってみてくれ」


 本当にもう時間がない、今も木を倒して暴れまくっているのをみるに、匂いで俺たちを見つけ出す事は多分出来ないんだろうけど、それでも此処が見つかるのも時間の問題だ。


 俺も戦うと決めた以上、ある程度の覚悟はしているし、甲賀の策ならば俺が考えるよりもずっと倒せる確率が高い。


「あいつの左胸、そこに無理やり取り付けられたみたいなでっかい魔石があるの見える?」


 俺が急かすと、甲賀はそう言って少しだけ岩から身を出しながらモンスターの方を指差した。


 よく目を凝らしてみると、たしかに左胸のあたりに濁った紫色をした魔石が見える。


「ああ、あれか、うん、見える」


 歪に、本当に無理やり付けられたかのような魔石だ。


「あくまで予想だけど、あれが弱点だと思う。本当に予想でしかないんだけどね」


 甲賀はそう言いながら、またすぐに岩陰に身を潜める。あくまでも予想、甲賀は少し自信なさげにそれを強調した。


「仮にあそこが弱点だとして、あの高さまで剣が届くか?」


 そう聞いてすぐに、それは杞憂だなと思った。

 少し前に甲賀の大ジャンプを見たばかりだ。


「高さは問題ない……、ただ……」


 やっぱり高さは問題ないようだ、ただその後が本当の問題のようで甲賀は難しい顔をして言葉を詰まらせる。


「ただ?」


 俺は甲賀が言いやすいように問いかける。


「あれを壊せるほどの威力を出せないのよ……、私はどちらかと言えば魔力の使い方をスピードに特化してる……、それに身体が慣れちゃってるから一瞬でダガーに魔力を集めて威力を高めるのが得意じゃない」


 魔力による肉体強化、甲賀はそれをスピード重視の形で発揮できるように身体に覚えさせているらしい。


 色々な強化の仕方があるんだなと思ったが、今は詳しく聞いている暇はない。


「威力か……、甲賀で無理となると、まず俺も無理だよな。いや、でも、得意じゃないって事は一応は出来たりするのか?」


「まぁね、でもかなり時間がかかる……」


 甲賀が成功確率0%の作戦を立てるとは思えないし、得意じゃないって事は出来るのかと思い聞いてみると、やっぱり威力を高める事は可能らしい。


 なら、あそこが弱点だとすれば、あとはこの威力問題さえクリアできれば勝てる。


 少し勝機が見えてきた気がした。


「それはどれくらい?」


 しかし、作戦を話す甲賀はどうも難しい顔をしている。


「最短で二分、多分この状況だと集中し辛いから三分はいるかもしんない、それにかなりの魔力をダガーに集めるとなると多分あいつもこっちに気付く……」


 それを聞いて、俺はやっと理解した。

 甲賀がこの作戦を俺に言いたがらなかった訳を、勝機があるかもしれないが、難しい顔をする訳を。


「つまり、誰かが三分間、奴の気を引かなきゃならないってことか……」


「……うん」


 そして、その誰かってのはもちろん俺だ。


 なるほど確かに、甲賀がそんな顔をするのも理解できる。


 三分か……、日頃ならなんて事のない時間だが、あのモンスターを相手に三分間気を引き続けるのは正直かなり難しいだろう。


「よし、それで行こう」


 でも、今はそれしか無い。

 俺がそう思いながら言うと、甲賀は途端に凄く辛そうな顔をした。


「やめてよ……、無理に決まってるじゃんそんなの、私が言ったのが悪かったわ……、他に、なにか他にきっとあるから……」


 甲賀は言ったことを後悔しているかのようにそう俺に答えた。


 だが、初めの甲賀の提案を考えればこの作戦はとても勝算のあるものだと俺は思っていた。


 自分が1人で残って、俺が一層の冒険者を逃しつつ外に出る。


 この初めの甲賀の作戦って、つまりは自分が犠牲になるのが確定のようなものじゃないか。


 それに比べれば、この作戦には2人して生き残れる確率が残されている。


「無理に決まってるって、一体何様のつもりなんだ?まるで俺が三分間もあいつと戦えないみたいな言い方じゃないか」


 1人で勝てると嘘をついてまで、俺を逃そうとしてくれた甲賀。

 俺は少し茶化すように、その時の甲賀の真似をして言い返してみた。


「……アンタねぇ……」


「と、まぁ冗談はさておき、本当に俺はそれで行くべきだと思う。三分間だろ?耐える事に関しては俺はかなり得意だ。このプロテクターの性能なんて、それこそ耐える事に特化してるようなもんだしな」


 俺は笑ってプロテクターを見せつける。



「本当に大丈夫なの?」


甲賀は少し考えた後、不安げに俺に尋ねる。


「ああ、甲賀も頼むぜ。絶対に成功させるぞ」


「うん、アンタにこんな大仕事任せちゃってるんだもん。何があっても倒してみせるから、だからアンタも絶対やられないで」


 そう言うと、甲賀はダガーを立てるように胸元で構えて目をつぶった。


「あいつが気付くギリギリまでここに居て。少しは時間短縮できるから」


「わかった、それともうひとつ約束だ。どんな事があっても絶対にダガーに魔力を込めるのをやめないでくれ。俺は何があっても三分間あいつの気を引き続けるし、甲賀のあたりには危害が及ばないようにする。だから集中し続けてくれ」


「うん……」


 そして、甲賀はダガーに魔力を込め始めた。


 少しすると、あたりの土や枯れ草が微妙に揺れ始める。


 そして


「グルルルガァアアアアア!!!」


 その魔力を感知した巨大リザードマンが俺たちの方を向いたと同時に、俺は奴に向かって走り出した。

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