第三十九話 襲撃2
全く状況が理解できなかったが、とにかく甲賀が攻撃されている。
男はダガーごと甲賀を斬り伏せようとしているようで、甲賀は少し力負けしているのか押されている雰囲気だった。
俺は直ぐに黒銅剣を片手に甲賀の元へ走った。
「甲賀から離れろっ!」
人間相手と言うことに若干戸惑ったが、それでも男に剣を振り下ろす。
「ッ……」
男は俺の剣を避けると同時に、甲賀から距離を取った。
「大丈夫か!?甲賀!」
飛距離のあるバックステップで距離を取った男から目を離さずに甲賀に話しかける。
「サンキュ、助かった」
そして甲賀もダガーを逆手に持って、2人で男を見る。
甲賀の知り合い……って雰囲気では無さそうだ。
やけに白い肌に白い目のその男は日本人では無さそうで、目の焦点はどこか合っていない感じがする。
「どうする……」
正直なところ、全くどうして良いかわからない。
俺は甲賀に指示を仰いだ。
「どうするもこうするも……、捕まえるに決まってるでしょ!」
甲賀はそう言うと、男に向かって猛スピードで走りだした。
そしてダガーで斬る、と思いきやしゃがみこんで男の足を回し蹴る。
さらに体制を崩した男を一瞬で上から組み伏せ、うつ伏せに倒れた男の片方の手をねじ曲げてがっしりと押さえ込んだ。
「おぉ……」
まさに一瞬だった、男は何も出来ずに一瞬で甲賀に捕らえられた。
俺はこの間全く動けずにいて、慌てて近くまで駆け寄った。
「アンタ何者?」
甲賀は男に向かって問いかけた。
男は捕らえられているのに、まるで平然としている。
いや、なんだか逃げようとしていないように見える。
まるで身体に力が入っていない感じで、この状況をなんとも思っていない雰囲気だった。
「汝、罪深き冒険者に魂の粛清を。かのものに神の代行者として罪を贖わせる事をお許しください」
そして落ち着き払った雰囲気で、淡々とそう言った。
神?聖職者か何かなのか。
「アンタ一体なに言って……」
甲賀も俺と同じように少し困惑気味にそう言うと
「我らが迷宮の力を代償に召喚せしは神の怒り、罪深き人間に聖なる雷を」
それを遮るように、男は続けた。そして
「お前はここで死ぬ。甲賀陽奈」
と、また平坦な声で、淡々と言ってのけた。
そして次の瞬間、男の下の地面が光だし、魔法陣のようなものが浮かび上がる。
「ッ!」
俺は咄嗟にバリアーを発動し、少し後退りして身構えた。
甲賀も何かを感じ取ったのか、その男から離れている。
魔法、いや迷宮装備の力か?黒いローブで装備が見えないが、何かしたのか……?
俺はバリアー越しから男を見る。
「ーーーーーーーーー」
すると、男は掌をその光っている地面につき、膝をついた状態で聞いたこともないような言語を喋った。
そして、男の詠唱のようなそれに答えるように当たりの土が風で舞い上がり、男の姿を隠し、それが止むとそこには男の姿はなかった。
「……消えた?逃げたのか?」
俺は辺りを見渡して男を探しながら甲賀に話しかける。
「……、少なくともこの辺りにはいないわね……」
甲賀は掌を地面につきながらそう答えた。
多分、索敵で男を探したんだろう。
「なんだったんだ今の、甲賀の知り合い……なわけないよな?」
突然襲いかかってきたと思ったら、突然消えた。しかも不穏な言葉を最後に言っていた。
「んなわけないでしょ、あんな変な奴知らない。まぁ向こうは私のこと知ってたみたいだけどね」
「……」
お前はここで死ぬ、甲賀陽奈。
男は最後に、確かにそう言った。
本当になんなんだ……、リザードマンの洞穴調査が一転して不穏なものになった。
甲賀に斬りかかったときの異常なスピードにさっきの変な魔法、並の冒険者じゃないのは確かだ。
不意打ちだったとはいえ、上級冒険者の甲賀に力で少し優っている雰囲気でもあった。
甲賀を狙っていたのだろうか、でもどうしてこんな所で、なにが目的で襲いかかってきたんだ……。
そこまで考えて、嫌な予想が頭に浮かんだ。
もしかして、あの男は甲賀が今日クエストのためにここに来ることを知っていたんじゃないか……?
あまり人が近寄らないこの洞穴近辺に居たなんて、待ち伏せしていた以外に考えられない。
だとすると、何か計画めいたものを感じる。
ティーノさんや川田さん、剣道さんが第三迷宮攻略のためにいないこのタイミングを狙っていた
「甲賀、いったん迷宮扉まで帰らないか?」
嫌な予感がする。あの男がそんな計画を立ててまで甲賀を狙ったのだとすると、そんな簡単に引き下がるとは思えない。
俺がいた事は、もしかすると奴にとって予想外だったのかもしれないが、それだけで逃げるほど弱くは見えなかった。
となると何かある。多分、あいつがやってきた洞穴の方に、何か罠がある。
「そうね……、多分まだ何かあると思う。とりあえずこの辺りに立入禁止の印をつけて……」
甲賀も俺と同じ考えのようで、そう言いながら辺りの木に印をつけようとした瞬間
「ッ!?」
洞穴の方から背筋の凍るような嫌な気配がした。
「なに……いまの魔力……」
それは甲賀も感じたようで、2人して洞穴の方をじっと見る。
すると、ドォォォオンという地鳴りが響き、俺たちの立っている地面を揺らした。
そして前に立っている木々が何か大きな手でなぎ倒され、気配の正体が俺たちの前に姿を見せる。
「……うそだろ」
地面を揺らし、木を倒しながら俺たちの前に姿を見せたのは体長5.6メートルはある巨大なモンスターだった。
「ヴォオオオオオオオオッ!!!」
そのモンスターは俺たちを見ると、大きな雄叫びを上げた。
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