第三十八話 襲撃
俺は昔から、人と少しズレているとよく言われた。
褒めているつもりが、貶していると思われ、
怒っているつもりなのに、何故か冗談に受け止められたり。
どうやら今回も間違った対応をしたようで、甲賀に殴られた。
しかも驚いたことに、甲賀の家が忍者なのは本当らしい。
江戸時代以前から存在していた家系で、甲賀と伊賀という二つの有名流派の一つだという。
魔力をこんなに使いこなせるのは、忍者は外の世界に微かにある魔力を利用した体術を得意としていたからで、甲賀は甲賀流の継承者としてずっと訓練を受けていたからだそうだ。
俺の妄想とは違う、ノンフィクションだった。
ちなみに俺の邪神龍撃迅雷剣は、神々の争いの時代、剣神ヒュリスがその争いを終わらせるべく自ら邪神に落ちてまで生み出した神殺しの剣術だ。
その剣は雷の如く速く、龍の如き荒々しさを持つ。
俺はある日、夢の中に出てきた剣神ヒュリスからこの剣術を教えてもらった。
この話は、残念ながら俺が中学の時に考えたフィクションだ。
そうして、甲賀の驚くべき家系のルーツを聞いて、俺たちは洞穴まであと少し森を歩く。
「悪かったよ、まさか本当に忍者が存在するなんて思わなかったんだ」
歩きながら、甲賀に謝る。
「だからってマヨネーズは有り得ない、アンタ忍者って言われて忍者○トリ君しか思いつかないの?普通もっとカッコいいのがあるでしょ、それに忍者○トリ君がマヨネーズかけて食べるのって平成バージョンの実写版だけだし。ニッチなのよアンタ」
「え、あれ実写版のオリジナル設定なのか?てっきり忍者といえばマヨネーズなのかと思った」
俺がそう言うと、甲賀は露骨に呆れたような顔をした。
「こういうバカがいるから、忍者ってどんどん有り得ない存在とか変に設定つけられた存在になるのよね、ちなみに聞きたそうな顔してるから先に言っとくけど、影分身とか螺○丸なんて出来ないからね」
「そうなのか……」
ちょうど聞こうとしていたが、残念だ。
にしても甲賀は忍者がモチーフにされた作品に随分と詳しい。
やはり本物としては、最近の適当な忍者設定に怒りを覚えているんだろう。
それから、甲賀は忍者とは何かを語り続けた。
「とにかく!私は忍者です、なんて自分で言うのは恥ずかしいけど、それ以上に今のイロモノ忍者が許せないの!」
ありとあらゆる年代の忍者が出てくる作品について語られた俺は少し疲れてきた。
「なるほどな……、な、なぁそろそろこの辺りじゃないのか?」
話を変えるべく、甲賀にそう尋ねる。
「ん……、あ、もうすぐね」
聞いてよかった、このまま話し続けて洞穴までたどり着くと何があるかわからない。
まぁ俺が言わなくても甲賀はしっかり考えていたんだろうけどな。
「結局、リザードマンはあの3体だけだったけど、大丈夫なのか」
変異体は共食いで発生するらしい、
数が少なかったのがひっかかる。
「待って、この辺りなら索敵で洞穴近辺のモンスターの状況がわかるから」
そう言うと、甲賀は立ち止まり目を瞑る。
そして、膝をつき掌を地面に当てた。
「索敵……」
そう言うと、なんだか一瞬辺りに風が吹いた気がする。
甲賀が得意だと言っていた魔力を使った上級技術。魔力索敵だろうか。
索敵と言うからには、これで敵の位置が把握できるのかもしれない。
「……、あれ変ね」
甲賀は地面に掌を当てたまま、そう呟く。
「どうしたんだ?」
「居ないのよ、1匹も。……あれ、待って、一つ反応があるけど、これはモンスターじゃない……」
「モンスターじゃない?冒険者ってことか?」
誰かが先にリザードマンを倒したのか、そう思って聞くと、甲賀が突然慌てたように
「……ううん、人でもない……、待って!こっちに来る!!」
と言った。
甲賀のその声で、俺の心拍数が急激に上がる。
俺はすぐさま左腰から黒銅剣を手に取った、横では甲賀も立ち上がりダガーナイフを構えている。
何がどうなってるか分からない、モンスターじゃないけど、冒険者でも無いと甲賀は言う。
どうなってる、何が来るんだ。
さっきまでの雰囲気は消え失せて、俺たちは一気に緊張感が高まっていた。
そして、少しして目の前の茂みから何かが出てきた。
「ッ!」
自分なりに臨戦態勢を取る。
……が、出てきたのは人だった。
黒いローブを纏った冒険者らしい人間が、1人こちらに向かって走ってきていた。
「ねぇアンタ!止まりなさい!」
甲賀は向こうから走ってくる人間に、そう呼びかける。
すると、その冒険者らしい人間は立ち止まった。
「アンタ、なんでこんなとこに居るの?」
甲賀はダガーを構えたまま、少し距離のある前の人間に話しかける。
「…………」
目の前の冒険者は何も答えない、ローブを纏っていて顔は見えないが体格からして男だろうか。
「答えて!」
もう一度、甲賀がそう言うと、その冒険者はこちらに向かって再び歩き出した。
「止まりなさい!私は政府直属の上級冒険者!迷宮内で人を捕まえる事も許可されてる、あと一歩近付けば力ずくで捕まえるわよ」
俺は何がなんだか分からなかった。俺にはただの変な冒険者にしか見えないが、甲賀は何かを感じ取ったらしい。
まるで警察みたいに、捕まえると言っている。
「……本当に」
甲賀にそう言われた冒険者は立ち止まると、急に声を出した。
「本当に……、罪深い」
そして、よくわからない事を言ったと思った瞬間、俺の視界から姿を消した。
「ッ!?」
次の瞬間、横で聞こえて来る金属がぶつかったような音。
直ぐに見ると、目の前にいたはずの冒険者が甲賀に向かって剣で斬りかかっていた。
そして、甲賀はそれをダガーで受け止めている。
冒険者のローブは頭の部分が風でめくれていて、顔が見えていた。
坊主頭の修行僧のような男がそこにはいた。




