第三十七話 甲賀
「よし!どうだ甲……」
甲賀、倒したぞと言おうとしたその瞬間、前の草陰から物音がした。
うっそだろ……。
見るとリザードマンが二体、こちらに向かって来ている。
「こっ、甲賀!リザードマンは昼間は単独行動じゃなかったのか!?」
驚いて、後ろの甲賀に話しかける。
無理だ、二体は絶対に無理だ。
そもそもこの作戦、突然バリアー発動作戦は一対一の戦いでしか機能しない。
黒銅剣でしっかりとダメージが通るか確認するために、ほぼ確実に一太刀浴びせられるこの作戦をさっきは使ったが……。
爪も牙も、どんな攻撃パターンか知らない内は二体一じゃ確実に負ける。
「そりゃ単独行動だけど、この森はリザードマンの生息地だし、あんなバカデカい声でうおーなんて言ったら気付かれるに決まってるじゃない」
決まってるじゃない……って、そんなバカを見る目で言うのはやめてくれ……。
一応あれも、何も考えてないバカを演出してリザードマンを油断させる演技だったつもりだ。
本当だ、嘘じゃない。
「無理なら代わってあげてもいいわよ」
甲賀はそう言うと、後ろ腰に付けているダガーのようなものを手に取った。
ここは手伝ってもらうしかないだろう。
「俺は左のリザードマンを倒す!だから甲賀は右から来ている奴を頼む!」
俺も黒銅剣を構えて前を見ながら、そう言った。
でも、流石に二体とも甲賀に任せるのはダメだ。
上級冒険者って言っても年下の女の子だ、何があるかわからない。
二体一は、いくら上級冒険者でもキツいかも知れない。
もしも俺が倒れたら、甲賀にだけは逃げてもらおう……。
「甲賀、もしも俺がたおれ……、あれ」
「リルギャアアアアアア」
そう言おうとして振り向くと、さっきまで俺の右斜め後ろにいた甲賀が居ない。
そして前からリザードマンの断末魔が聞こえてきた。
慌てて前を見ると、甲賀がダガーでリザードマンの喉元を掻っ切っていた、そしてすぐさま後ろに回り、背中からリザードマンの心臓を一突き。
速攻で、リザードマンは霧になって消えていく。
うっそだろ……。
「先手必勝、アンタも早く倒しなさいよ」
「あ、ああ……」
その後、リザードマンの攻撃を躱したりバリアーで受けたり、牙をギリギリ躱したり……。
なんとかリザードマンを倒すことができた俺は、もう周りに居ないのを確認してから甲賀に声をかけた。
「はぁ……はぁ……、甲賀ってめちゃくちゃ強いんだな、、」
甲賀は待ちくたびれたって顔をしている。
「あったりまえよ!私は上級冒険者、薔薇十字団なんだから!リザードマン程度なら群れじゃない限り目を瞑っても倒せるわね」
「くっ……、やっぱり魔力の使い方の差なのか?そもそもどうしてそんなに魔力を使いこなせるんだよ。そんなに迷宮に入って長いのか?」
さっきの甲賀の動きは人間離れしていた。魔力を完璧に使いこなしている証拠だろう。
でも、甲賀の話では、魔力を上手く使うには長い時間と訓練が必要って事だ。
冒険者試験の年齢制限を考えても、甲賀がそんなに長く迷宮に居たとは思えない。
せいぜい1年か2年、半年の俺とどうしてここまで差がついてるんだろう。
「んー、まぁ私は昔っから訓練してたからね」
俺が聞くと、甲賀はなぜか恥ずかしそうにそう言った。
「昔から?子供の時からこっそり迷宮に入ってたとか?」
「ううん、魔力ってさ、一応外の世界にもあんのよ、ここほど濃くはないけど」
「外の世界にも……」
言われてみれば、初めてバリアーを発動したのは自分の部屋だ。すぐに消えたけど。
「そ、それでその力を利用して色々な仕事を生業にしてる人達がいたわけ。まぁ私はその子孫なのよ」
「生業って、マジシャンとかか?マジシャン家系なのか、凄いじゃないか」
あんまりマジシャンは詳しくないが、ミスター○リックって娘が居るとか聞いたことあるな……。
「んなわけないでしょ!……んじゃよ……」
「え?」
ンジャ?外国のマジシャンだろうか。
「だから忍者!!アンタめちゃくちゃ鈍いわね、この年で忍者なんです、なんて恥ずかしいんだから2度も言わせないでよ!」
忍者……?ジャパニーズスパイ……?
マジシャンじゃなくて、あの忍者?
「あ、あーー。なるほど……」
これはあれだ。
俺が邪神龍撃迅雷剣の使い手とか言ってるのと同じ類か。
流石に俺は人に自分の妄想を言うなんて恥ずかしいことはしないけど、甲賀はまだ17とか18だろうしな。
そのぐらいの年頃の子はそういう事を言っちゃうものだ。
なんだか、昔の俺を見ているみたいで少し微笑ましい。
ここはバカにせずに、素直に驚いてあげるべきだな。俺も昔、こういうシチュエーションでバカにされて本当に悲しかった思い出がある。
「忍者か、凄いな!やっぱりご飯にマヨネーズかけて食べるのか?」




