第三十五話 魔力
それから甲賀に魔力について簡単に教えてもらった。
魔力によって出来る事はいくつかあるが、基礎的なものは二つ。
まず一つは魔力による肉体強化
これは周囲の魔力を取り込んで自分のエネルギーに変換する事で肉体を強化するというものだ。
例で言えば、川田さんが巨大な斧を振り回していたのや、さっきの甲賀のジャンプなどがそれだと言う。
俺が身体が軽く感じるのも、一応は肉体強化だそうだ。
と言っても、俺の場合は迷宮装備で無理やり魔力を感じられるようになっただけだから、川田さんや甲賀のような超人的な力を得るには、まだまだ時間がかかるらしい。
そして二つめは魔力による物質強化。
これは周囲の魔力を武器や防具に付与して、強度や斬れ味などの性能を強化するというもの。
右田さんが言っていた武器や防具をコーティングすることで攻撃力や防御力が増すっていうのはこれの事だろう。
この二つが魔力で出来る事の基礎らしいが、他にも様々な上級技術があるらしい。
「上級技術って例えばどんなのがあるんだ?」
それらの説明を聞いて、再び洞穴に向かって歩き出しながら質問する。
「んー、まぁ色々あるけど私が得意なのは物体操作と魔力索敵ね」
甲賀はそう言うと、あそこにある木の枝見てみなさいっと続けた。
歩きながら前を見ると、少し離れたところに無造作に木の枝が積み重ねられている。
何をするんだ?と思っていると、甲賀がおもむろに掌を前に突き出し
「えいっ」
と掛け声をあげた。
その瞬間、目の前にあった木の枝が突然飛び散る。
そしてその中の一本が甲賀の掌に吸い付くようにして向かってきた。
「これが物体操作、周辺の魔力を利用して木の枝を動かしたの!まぁとんでもない超上級テクニックだからアンタにはまず無理よ」
甲賀はどうよ?って感じで吸い寄せた木の枝を手で持ちながらそう言う。
「……」
唖然として開いた口が塞がらなかった。
テレビでよくあるマジックみたいだが、タネも仕掛けもない事ぐらいわかる。
本当に魔力でやったんだ。凄い、凄過ぎる。
「も、もしかして炎とか雷とか出したりも出来るのか!?ほら!ファイヤーボールとかさ!」
やっぱり魔法といえばファイヤーボールとかサンダーボールだ。
離れたところにあるモノを動かしたり出来るぐらいだし、もしかしてできるんじゃないか。
そう思って興奮しながら聞いてみた。
「出来るわけないでしょ、そんなの」
が、あっさりと否定された。
「でも、迷宮装備の中にはそれに似た力を使えるのがあるけどね」
「俺のバリアーみたいに?」
「そ、迷宮装備ってまだまだ解明されてないことばっかりらしいんだけど、一説には魔力を変換する道具なんじゃないかって言われてんの」
「魔力を変換する道具……」
迷宮装備を通して魔力を炎や雷に変える…みたいな事だろうか。
「まぁ例えるなら、魔力を燃料にして動くストーブとか扇風機みたいなモノなんじゃないの、あんまり知らないけど」
「なるほどなぁ……」
正直あまりよく分からない例えだったが、とにかく迷宮装備の中には本当に魔法みたいなことが出来るものがあるらしい。
それを聞いて、本当に魔法があるんだなぁ!とワクワクするのと同時に、俺のプロテクターがちょっとショボく感じてしまった。
バリアーかぁ……。
まぁスライムドロップだからな……、
と考えてしまって、すぐに自分に喝を入れる。
いや、ダメだ!これのおかげで命を救われただろ。
女王蜘蛛の糸玉だって防げたし、なにより魔力を感じられるようになったのはこのプロテクターのおかげだ。
もっとプロテクターに感謝せねば。
「ありがとうございますプロテクター様。これからもよろしくおねがいします」
ショボいなんて感じて申し訳ない、と言う気持ちを胸に抱きながらそう呟き、左腕のプロテクターを撫でる。
横で、何こいつやばいみたいな目で甲賀が見ている気がしたが、お構いなしに俺はプロテクターを撫で続けた。




