第三十一話 武器屋本舗
半年ぶりに電車に乗った。
確か、次の次の駅だよな、
俺はそう思いながら、右田さんから貰ったメールの住所を確認する。
昨日、あれからすぐに返信が来て、防具を作るならって事で右田さんの店の住所を教えてもらった。
どうやら右田さんは実店舗を構えているようで、そこで詳しく相談に乗ってくれるらしい。
電車に揺られて早35分ぐらいだろうか、最寄駅から終点の駅まで一直線で電車は走っている。
右田さんの店は終点の駅から歩いて5分ぐらいらしい、都会の駅近に店を持ってるなんてすごい人だ。
俺の横では部活の遠征だろうか、女の子たちがラケットを肩に下げてユニフォーム姿で笑い合っていた。
俺はそれを決して変な意味はなくただ微笑ましいと眺める。
「次は終点、〇〇です」
そうこうしているうちに電車は終点の駅に到着し、日本語のアナウンスの後に英語、中国語?が続けて流れた。
よくよく見れば車両にはスーツケースを持った外国人観光客が多くいる、これがインバウンド効果か……。
たまーにだが、迷宮の中でも外国人の冒険者を見かけるから俺が知らない間に日本に住む外国の人って増えたのかもしれないな、
「5番出口から出て左……」
慣れない電車とあまり見知らない駅に少しあたふたしながらも、俺はなんとか5番出口から外に出た。
「うわぁ〜、ビルたけえ……」
外に出た瞬間、目につくビル、ビル、ビル、
そして、あまり見ることのない大勢の人が待っている信号とハイスピードで通過する車。
都会だ……。
そして道の向こうにはマク〇ナルドや吉〇屋なんかのチェーン店、これはなんか安心する。
信号待ちの間にスマホにメモしておいたルートを確認しておこう、確かマク〇ナルドを右に行って、すぐ見える道路をまっすぐだよな。
「にしても、右田さんの店、凄い名前だな」
そう独り言を言いつつスマホをポケットに入れ、信号が青に変わって人にぶつからないようにしながらメモの通りに歩くと、少し人が少ない場所に出た。
そして、その道を少し歩く。
周りは大人の本屋やアニメ系のフィギュアの店、ガチャガチャのみが置かれている無人店など、俺の地元ではまず見ることのない店が多くあった。
そして、その中でも一際現実離れした雰囲気の店が少し前に見えた。
「あれか……?」
俺はその店の前について看板を確認した。
【武器屋本舗】
ここだ……。
メールを見た時はちょっと目を疑ったが、改めて現実で見てみても、めちゃくちゃインパクトのある字面だな。
俺は入る前にガラス越しから店の中を確認する。
店の中は、壁も含めてほとんどの場所に剣や鎧、盾など時代や国に偏りなく武器防具が大量に陳列されていた。そして数人の客らしき人が見える。
「これ全部、冒険者用の装備なのか……?」
そう思いながら恐る恐る中に入ると、リュックを背負った男性が2.3人、真剣に武器を眺めていて、右田さんの姿は見えない。
奥に行って声をかけても良いのだろうか、なんて思っていると
「店主殿!店主殿!このエクスカリバーを頂こう!」
と西洋風の剣を眺めていた客の男性が言う。
そして、奥から人が出てきた。
「あいよ!毎度〜」
と言いながら出てきたのは私服姿だが、その髪型と体格ですぐに分かる、右田さんだった。
この客の男性、こんな大剣を買うなんてかなり上級の冒険者なのだろうか……。
そんな事を考えつつ、その男性の会計が終わるのを待って右田さんに声をかけた。
「おぉ、あんちゃんじゃねえか!私服だと本当に普通すぎて分からなかったぜ!もう少ししたら店閉めるからちょっと待っててくれ!」
「あ、はい」
普通すぎてわからなかったぜ!、と言われた俺は【初期設定な男】や【ザ・平均マン】と昔つけられたあだ名を思い出しつつ30分ほど待つ。
「おう!待たせたな!」
店を閉めた右田さんが俺に呼びかける。
「いや全然大丈夫です、にしても凄いですね、これ全部冒険者用の装備ですか?」
待っている間にすこし店を見ていたんだが、まるでRPGの中にある武器屋みたいだ。
聖剣エクスカリバーが3本あるのにはすこし笑ったが、俺がいつも使っている剣より強そうなのが沢山ある。
「はは!んなわけあるか!これは全部レプリカだぜ」
「レプリカ?」
右田さんはそう言うとひょいっと壁にかけてある大剣を手に取り、ほれっと俺に投げ渡した。
「おぉっ!?」
慌てて受け止めると、思っていたよりもめちゃくちゃ軽い。
「俺は迷宮が出来る前からここでレプリカの武器とか防具売ってんだ!まぁいわゆるマニアに結構需要あるんだぜ?」
そう言われてその大剣の値段を見ると2万円と書かれていた。確かに本物だとしたら安すぎるな、
そう思い他の商品もよく見ると、どれも数万円の値札が付けられている。
「これが全部ホンモンだったら俺は今頃塀の中だっての!」
言われてみればそれもそうだ。
詳しくは知らないけど、冒険者用の武器や防具を売る店は入る前に冒険者ライセンスの確認。そして、買うときにもしっかりとチェックされる、みたいなのをテレビで見た覚えがある。
さっきの男性は何も見せずに買っていたと言う事は、冒険者じゃなくてマニアの人だったのか。
「それで防具だっけか?」
俺の知らない面白い世界があるんだなと思っていると右田さんからそう言われて本題に入り、店の奥に案内された。
そして、俺は予算やどんな形状の防具がいいかなどを説明する。
予算は謝礼でもらった二十万円で、用途は二層、三層まで通用しそうな低級から中級あたりの防具。
形状はなるべく軽装で出来れば鳩尾の辺りまで隠れるものがいい、ということを伝えた。
「二十万かぁ……、それならオーダーメイドはちっと難しいが……。あ、いや、ちょっと待っててくれ」
俺の要望を聞くと、右田さんはそう言ってさらに奥に入っていった。
やっぱり二十万だと厳しいだろうか。
俺が日頃つけている鉄の胸当ては冒険者委員会オススメ価格で七万円もしたし、鉄の短剣と合わせて割引価格十万円だった。
初心者用セットでこれだけの値段したんだもんな、ちょっと考えが甘かったか?
「待たせたな、これなんてどうだ?」
俺がそんなことを考えていると、奥から戻ってきた右田さんはそう言いながら防具一式をテーブルに置いた。
「これは商売用に作ったんじゃなくて、ちょっとした趣味でゲームの防具を真似て作ったもんなんだ。と言っても素材は黒銅石だから下層でもしっかりと通用するマジ仕様。ただ、小さく作りすぎて俺が装備出来なくてずっと奥に眠っててな」
そう言われてよく見てみると、確かに有名なゲームでこんな形の防具があった気がする。
鎧上下にコテとブーツは全て黒色で、決して重装備ではないがしっかりと守るべき所は守られそうな防具だ。
「めちゃくちゃカッコよくて良いんですけど、黒銅石素材なのに二十万円で買えるんですか?」
迷宮素材品の装備は基本かなり高値と聞く。俺的には上質な鉄とかで作られたものが買えたら最高と思ってただけに少し驚いた。
「まぁかなり格安だが、ずっと奥で眠ってたやつだしな、あんちゃんに使ってもらった方がこいつも喜ぶだろ。それに、これから先、下層に行くなら迷宮素材で作られたやつじゃねえとどっちみち厳しいんじゃねえか?」
「それは強度とか……?」
下に降りるにつれてモンスターは強くなるらしいが、そんなに厳しいんだろうか。
「いや、迷宮素材じゃねえと魔力を上手く伝えられねえだろ?」
そう思って尋ねると、予想外の答えが返ってきた。




