第二十五話 決心
目が覚めると、もう辺りは真っ暗だった。
「うわ、俺装備付けたまま寝てたのか…」
マンションについて倒れるようにベッドに横になって、服も着替えずに寝たみたいだ。
俺はとりあえず装備を外し、汗で汚れた服を洗濯カゴに入れてシャワーを浴びた。
全身の汚れという汚れが落ちていくようでめちゃくちゃ気持ちいい、でもちょっと背中が痛む。
「ふひーー」
さっぱりとした気持ちで風呂から上がり、何故かやけに喉が渇いていたのでお茶を飲む。一杯、二杯、三杯。
めちゃくちゃ喉渇いてたんだなぁ、
うおお、まるで俺は人間スポンジだ。
なんて馬鹿なことを思いつつ、なんとなくテレビをつけると、有名な歌手やアイドルなんかが階段から手を振りながら降りていた。
○ステかぁ…、もう20時なのかぁ。
なんて思った瞬間、違和感を感じる。
俺が遭難者の捜索に出掛けたのって水曜日の18時だったよな…、それで帰ってきたのが木曜日の朝7時…。
それで帰ってきて寝て、○ステがやってるって事は今は金曜日で…
「俺1日半も寝てたのか!?」
急いでスマホで確認すると間違いなく金曜日の20時だった。
36時間近く、ずっと爆睡してたのか。
そりゃ喉渇くよな。
考えてみれば捜索に出る前に、すでに結構な時間迷宮を探索していたんだから丸一日動きっぱなしだったんだ、それだけ眠るほど疲れていてもおかしくない。
「それにしても…、よく俺生きて帰ってこれたなぁ」
○ステを見ながら、改めて一昨日を振り返って考えてみる。
ほんの四日前までスライムしか倒した事なかったのに、捜索に行きますなんて言って城まで行って、直接戦ったわけじゃないけど階層主とも対面したんだよな…。
みんな無事だったから良かったけど、右田さん達が来てくれてなかったらどうなってたか…。
それに川田さん、あの人がいなければ俺は城まで辿り着けてないかも知れない。
「結局、何も出来なかったな…俺」
自分の弱さを忘れて、捜索に行くなんて言い出したことを少し後悔する。
それでも、みんな無事で本当に良かった、とも思う。
自分の不甲斐なさとみんなが無事だったという喜びが入り混じって変な気分だ。
「はい、BKB48の皆さん、スタンバイお願いしまーす」
とサングラスをかけた有名司会者が言っている中、俺はそんなことを考え、そしてある二つの決心をした。
一つは、
【もっと強くなる】
次こんな事があった時、胸を張って捜索に行くと言えるように、そしてもう足を引っ張らないように。
その為にしなければならない事は簡単だ、俺が強くなればいい。川田さんや右田さんのように、あの救出に来てくれた中級冒険者達のように、もっと強くなればいいんだ。
そしてもう一つは、
【半額弁当を買いに行く】
36時間、いやもっと何も食べてないんだ。
それを自覚した瞬間、腹の虫が騒いで仕方がない、
腹が減っては戦はできぬ、と言うしな。
そう決心した俺はすぐにジャージを着てスーパーに向かった。徒歩1分のスーパーを小走りで30秒ぐらいで到着。
半額シールが貼られてから1時間弱だ…。
あるのか俺の唐揚げ弁当は…。
入ってすぐに弁当コーナーに入り、残り物を見る。
わずかに心拍数が上がる。
左から順に、ナス炒め弁当…、ナス炒め弁当…
そして…唐揚げ弁当っ!
ある!!
奇跡だ!金曜だから購入層が飲みにでも行っているのか、いつもならこの時間には絶対に残っていない唐揚げ弁当がある!!
俺は半額シールが貼られてご飯がカピカピになっている売れ残りの唐揚げ弁当を手に取った。
幸運だ、これはきっとこれから頑張れよって神様のメッセージだ。
そんなことを思いつつ、ルンルン気分でレジに向かった。
そしてレジに並んでいる最中、見知った声で後ろから話しかけられた。
「こんばんはー、古森さん」
振り向くと、そこには仕事帰りであろう椎名さんが立っていた。
「椎名さん!奇遇ですね、買い物ですか?」
そう言いながら、俺はさりげなく買い物カゴを見た。
どうやらこの前と違って何かを作るようで、野菜や何やらと色々な材料が入っている。
この前見た椎名さんは、きっと幻だったんだ。
「ええ、ちょっと夕ご飯の買い出しにね?古森さんは、お弁当?」
「ははは、いやー俺料理出来なくて、いつもここの弁当なんですよ」
なんて事を言うと、椎名さんは一瞬何やら考え事をしたような顔をする。
そして
「よければ一緒に帰りませんか?」
と思いもよらぬ提案をされた。いや、思いはよっていたが、まさか椎名さんから言ってくれるとは思わなかった。
そして、俺たちはスーパーを出て、徒歩1分の帰路に着く。
当たり障りのない会話をして、マンションに到着し、エレベーターは上に昇る。
幸せだった、周りから見たら一緒にスーパーに行って同じマンションに帰る同棲カップルに見えたんじゃないか?
唐揚げ弁当も買えたし、椎名さんと一緒に帰れたし最高だなぁなんて思っていると、エレベーターが12階に到着した。
「それじゃあ、椎名さんまた…」
「あの!」
俺がそう言って自分の部屋に入ろうとした瞬間、椎名さんが俺を呼び止めた。
何やら緊張している面持ちで俺の方をじっと見ている、
「後で…9時過ぎぐらいに少しお邪魔してもいいかしら!?」
「えっ…」
ドアノブを握る手を通して、冬の空気の冷たさを感じる。
これからどんどん寒さは厳しくなるだろう、
しかし、俺の心には突然の春が訪れようとしていた。




