第二十一話 救出
「私たちも行きま」
「それはダメです」
結城花音を含む三人がそう言うのを遮る形で、川田さんが口を開く。
「私は薔薇十字団として、あなた達を外まで無事に連れ帰るという使命があります。相手は階層主です、生半可なモンスターではありません、あなた達はここで待っていてください」
川田さんはこれまでの穏やかな口調ではなく、薔薇十字団の一人として、使命を帯びた口調でそう続ける。
「本当は、古森君にもここで待っていてもらいたいのです」
そして今度は俺の方を見ながらそう言った。
「…」
俺は何も言えなかった、
川田さんがそう言うのは当たり前だ。
一人より二人の方が心強い、捜索に出る前の川田さんのそのセリフは、城の中までならまだしも、階層主の部屋となれば話が違ってくる。
俺だって運良く迷宮装備を手に入れたただの低級冒険者、
川田さんから見れば他の三人とそんなに違わない。
それでも俺は…
「しかし私だけでは彼を救出し、女王蜘蛛の手を掻い潜ってここまで戻ってくるのは残念ながら不可能です。ですから古森君、お手伝い頂けますか?」
俺が何も言えずにいると、川田さんは俺の心を見透かした様にそう手を差し伸べてくれた。
「俺に出来ることを、最大限やります」
俺は川田さんにそう言った。
自分に出来ることを最大限に、
自分の力以上に頑張ります、とか出来る出来ないじゃなくてやるんだよ!とかそんなかっこいいセリフは言えない。
低級冒険者としてやれることをやる。それが今の俺に求められていることだ
それ以上はただの無謀だ、勇気でも努力でもない。
俺のその言葉に、川田さんはにっこりと笑うと
「では、行きましょう」
と祭壇の扉を開けた。
そして、階層主の部屋へと向かう。道中、リザードマンやそれと同等レベルの厄介なモンスターが居るが、川田さんの進む道は安全で、バレずに扉の前まで行くことが出来た。
「ここです…」
階層主の部屋の扉は、城のこれまでの内装とは少し違った。まるで後から付け足されたかの様な雰囲気で、歪な模様が描かれており、手で触れるとヒンヤリとしていた。
「私が女王蜘蛛の気を引きます。おそらく囚われている土井という男の子は左右どちらかの壁に貼り付けられた糸の中です。古森君は彼を救出したら、さっき通ったルートでそのまま祭壇場まで逃げてください」
川田さんはドアを開ける前に、そう呟いた。
「川田さんはどうするんですか?」
「私は、君たちが逃げた後にすぐ後を追います。大丈夫です、女王蜘蛛の攻撃パターンは理解していますから隙を見て逃げ出せますよ、ええ」
流石、薔薇十字団。上級冒険者だと思った。
再出現する階層主を何度も倒し続けているのは伊達じゃない。
「それと、扉を開けたら直ぐには入らないで下さい、まずは中の状況確認、そして私が先に入って女王蜘蛛の気を引きます。その隙に古森君は彼を」
「わかりました」
「では、開けますよ」
川田さんはそう言うとゆっくり扉を開けた。
俺は一息吐いて、気持ちを落ち着かせる。
そして中には入らず、目を凝らして様子を見る。
中は左右均等にたいまつが壁に付けられていた。1番奥中央には扉、おそらく二層に続く階段があの先にあるんだろう。
そして、蜘蛛の糸のようなものが左少し奥にびっしりと張り付いていた。
よく見てみると、人がそこに絡み付けられている
遠くてよく見えないが、そこにまだいると言う事はきっと生きている。川田さんの言う通りだ
俺は心臓が激しく昂るのを感じた。
いける、助けられる。
「古森君、女王蜘蛛は恐らく私たちの直ぐ上、入って直ぐのところで待ち伏せしています」
確かに女王蜘蛛の姿が見えない、となると俺たちには見えない場所この直ぐ上の天井ということだろう。
ここが階層主の部屋だと知らずに見れば、火がついていてモンスターのいない安全な場所に見えるな…。
「はい、彼が捕らえられている場所も見つけました」
「ええ、私が今から先に行きます、準備はいいですね?」
「大丈夫です」
俺は小さく頷きながらそう答えた。
「では行きますよ!!」
そう言うと川田さんは斧を両手で持ちながら中に入り、間髪入れずに猛スピードで右に向かって走り出した。
「ギュエアアアアアアアアア!!」
そして凄まじい鳴き声と共に、女王蜘蛛が上から降ってきた。
人の手の様な長い足が8本、そして胴体からは首が伸びていてそこから女性のような長い髪の毛と顔が生えていた。
「冗談だろ…」
俺は想像を絶する異形なその姿に、一瞬足がすくんで動けなくなったが、それでも気持ちを奮い立たせて囚われている冒険者の方へ走り出した。




