第二十話 階層主
「無事だったのか!」
俺は火に寄り添う三人の元へ駆け寄った。
男が一人、女が二人、その中には結城花音の姿もある。
間に合った…、いやこの祭壇にたどり着けた彼女達の幸運のおかげか。
俺は一瞬安堵した。しかし、火の周りに座っているのは三人だけと言うことに直ぐに異変を感じた。
遭難したのは四人だ。もう一人男がいたはずだ。
それに、三人とも助けが来たのに身体を震わせて、こっちを見ようともしない。
「もう一人はどこに…?」
嫌な予感がしつつも、俺は彼女らに尋ねる。
すると、俺のそんな問いかけに対して三人はひどく怯えた様子になる。
それでも、なんとか声を出したのは結城花音だった。
「こ、ここに…たどり着く前に…大きな部屋に入って…、そ、れで…、それ…で…」
その声はひどく震えていて怯えている。
そして次第に結城花音は涙を流し始めた。
「それで、何があったのですか?」
川田さんがゆっくりと優しく問いかける。
「それ…で、中にいた蜘蛛みたいな…、大きな蜘蛛みたいなモンスターに見つかって…、土井君が身代わりになって…あぁあ…、あああぁ…」
そう言うと結城花音は嗚咽混じりに泣き始めた。
つまり…モンスターに遭遇して、その土井という男の子が身代わりになったという事だった。
「間に合わなかった…」
俺はそれを聞いて、その場に座り込んだ。
結局間に合わなかったのか…。
もしも昨日、奥に行く彼女らを引き止めていたら彼は助かったのだろうか…。
「蜘蛛のモンスター…」
間に合わなかったことに落胆している俺とは裏腹に、川田さんは隣で何か呟いている。
「その蜘蛛がどんな姿だったかわかりますか?」
なんでそんな事を聞くんだろうか、そう思っていると前に座っている結城花音が少し感情を落ち着かせたようで川田さんの質問に答える。
「大きくて…、人の手みたいな足が生えてて…、蜘蛛なんですけど人の顔がありました…」
「女王蜘蛛…!そんなまさか…」
その特徴を聞いた川田さんは驚いた様にそう言った。
「女王蜘蛛…?」
一層にそんなモンスター居ただろうか、委員会から配布される一層の情報誌にそんな名前は見たことがない。
そう思った俺は、ぼそりと川田さんに尋ねる。
「階層主です…この一層の…」
階層主、先週薔薇十字団が探索の際に倒したんじゃないのか?もう再出現したというのだろうか。
階層主が相手では確実にもう彼は…。
「今までではあり得ないほど、再出現が早すぎます…、しかし、もしかするとそこで身代わりになったという彼はまだ生きているかも知れません」
川田さんは困惑しつつも、そんな事を言い始めた。
階層主が相手で、しかもおそらくかなり時間が経っているのにどうやって低級冒険者が生き残れるって言うんだろうか。
「どういうことですか?」
俺は再び尋ねる。
「階層主は再出現から時間が経てば経つほど、本来の力を取り戻していくんです。つまり、再出現して間もない状態では本来の強さを取り戻してはいないのです、それに、女王蜘蛛は獲物を直ぐには食べません、糸で身動きを取れなくして、しばらく放置することがあるんです」
その返事を聞いて、俺は思わず顔を上げた。
まだ生きている可能性がある…
「じゃあ今すぐ行けば…」
「ええ、まだ生きているかも知れません」
まだ生きている可能性がある…、もう一度声に出さずにそう考える。
それを聞いて、俺だけでなく、三人も驚いた様に顔を見合わせている。
「再出現してすぐなら、二人でも倒せる可能性はありますか?」
それでも、相手は階層主だ。いくら本来の力じゃなくても俺と川田さんで倒せるのだろうか。
俺のその問いかけに、川田さんは少し黙り込んだ。
「ええ、可能性はあります」
そして、少し難しい顔をしながらそう答えた。
タイトルを「迷宮主」から「階層主」に変更しました。それに伴って会話の中に出てくる言葉も階層主に変更してあります。設定がしっかり練られてなく反省です。申し訳ないです。
最新話読んでくださりありがとうございました。




