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職業冒険者は半額シールが好き。  作者: 語谷アラタ
第一章 全てが変わる一週間
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第十八話 捜索開始

「ほほぉ〜、スライムの迷宮装備…、これはめずらしいですなぁ」


 川田さんとそんな話をしながら、迷宮第一層を捜索する。


 とりあえずは最後の目撃地である、俺が昨日彼女たちを見た場所まで行くことになった。


 次第に辺りは暗くなっていて、いつもの迷宮とは違う雰囲気を感じさせた。


「そういえば、古森くんは懐中電灯持ってるかい?」


「あ…」


 完璧に忘れていた。冒険者になって初めの頃はリュックに入れていたんだが、スライムしか倒さないし持ってても仕方ないと思って、しばらくしてから持っていかなくなったんだった…。


「すいません…、忘れてました…」


 そう言うと、川田さんはにっこりと笑いリュックから二つの懐中電灯を出した。


「念のためにね、二つ持ってきてたんだ。これを良かったら使ってください、ええ」


「すいません、助かります…」


 川田さんの好意に甘える。一応迷宮内には所々火がつく場所があるお陰で、真っ暗ってわけじゃないが、それでも懐中電灯は絶対に必要だ。


 早速、やらかしてしまった…。


 超初歩的なミスをして落ち込む。


 そもそも1人で捜索に行くなんて、無責任な事を俺は言ってしまったんじゃないかと少し感じていた。


 ただ無闇に希望を持たせるだけの行為なんじゃないか…。


 たまたま見かけた人達が死ぬのが嫌で、俺が昨日声をかけていれば死なずに済んだかもしれない人達をそのまま見殺しにするのが嫌で、ただ自己満足に捜索に行くなんて言ったんじゃないか。


 懐中電灯も忘れるような低級冒険者が出しゃばっただけなんじゃないだろうか、、



「そろそろこの辺りですかねぇ…?」


 俺がそんなことを考えていると、川田さんがそう尋ねてきた。


 気が付けば昨日俺が彼女たちを見た場所まで着いていた。


 ダメだダメだ、今は捜索に集中だ。

 上級冒険者の川田さんもいる、絶対に見つけ出せる。


「この辺りですね、それで城の方に進んでいったのが、俺が彼女たちを見た最後です」


 気を取り直して俺はそう答える。


「それじゃあやっぱり、城の近くまで行ったんでしょうかねぇ…、先を急ぎましょうか」


 川田さんがそう答えて、俺たち二人は歩き続けた。時折、迷宮扉に引き返す冒険者に声をかけて、四人を見ていないか尋ねる。


 残念だが、四人を見た人は誰も居なかった。

 声をかけた冒険者たちはそれぞれ、城までは行っていないという事だから、もしかすると四人は昨日の時点で城の中に入った可能性がある。


 そうして俺がトリコを倒した辺りも通り越した。今は森のような場所を歩いている。

 においぶくろのお陰か、モンスターはほとんど寄り付かない。


 時折近寄ってくるモンスターも、みなトリコレベルのモンスターで俺でも対処できた。


 それにしても…


「川田さん凄いですね…、そんな重たそうな斧を簡単に振り回すなんて」


 自分自身の身長ほどあるんじゃないかってほど大きい斧を、川田さんは平気な顔で振り回して敵をなぎ倒していた。


「いやいや、僕なんてまだまだですよぉ。まだ迷宮の力を上手く自分の力に変換できないんです、ええ」


「迷宮の力?」


 川田さんが言った事が引っかかる。もしかして俺がバリアーを出すときに感じたあの温かいモノ、マナのことだろうか。


「ええ、迷宮に長くいると段々と感じられるようになるんですよねぇ。中には直ぐに感じ取れる人も居るらしいんですが、私なんて9年前から国の研究員として入ってますから、本当はもっと上手く使えなくちゃいけないんですけどねぇ」


「それってこの辺りを漂ってるなんだか温かい奴ですか?その、俺も迷宮装備をつけてから感じるんです。それで、迷宮の中でいると身体が軽い…みたいな」



「おおー!それですそれです、凄いですなぁ、もう感じ取れるなんて」


 やっぱりそうか、迷宮の力…、


 確かに川田さんは腕もそこまで太いわけじゃない、それでこの斧を振り回せるのは、正直言って人間離れしている、それが迷宮の力と言うことは…


 俺ももっとそれを感じられるようになれば、飛躍的に強くなる事ができるんだろうか…。


「古森くん、ストップです」


 歩きながら、迷宮の力について考えていると、突然、川田さんが俺に小声でそう呼びかけた。


 そして、ジェスチャーで向こうの方を見ろ、と手を動かす。


 その方向を見ると、そこにはリザードマンが群れをなして歩いていた。


「あの数はちょっとめんどくさいですねぇ、とりあえず居なくなるまで待ちましょう…」


 俺はそう言われて、直ぐに匂い袋をリュックにしまう。


 そして息を潜めてリザードマンの群れがいなくなるのを待った。


 リザードマンはこの層で1番厄介と言われているモンスターだ。


 そんなリザードマンがいると言うことはかなり城に近付いているのだろうか。


 リザードマンをうまくやり過ごして少し歩くと、薄らと火の明かりのよう物が見えてきた。


「あれは…」



「ええ、城の明かりです」

 森を抜けると、直ぐ目の前に西洋風な城が現れた。


 外壁の所々にたいまつが付けられていて、夜をゆらゆら照らしている。


「不思議ですよねぇ…。どうしてこんな場所に、人が作ったとしか考えられないこんなお城があるのか…、何度見てもそう感じさせられます」


 川田さんは城を見ながらそう呟いた。


 確かにこの迷宮自体が謎だが、改めて城を見るとますますそう感じる。


 誰かが昔、ここに住んでいたのだろうか?

 なら、その人たちはどこに行って、なぜモンスターだけが溢れる迷宮が俺たちの住む世界に現れたのか。


 俺たちはゆっくりと城へ進む道を歩いた。

 コンクリートで舗装されたその道を歩くと大きな城門に辿り着く。


 そして城門の前に着いたとき、少し先に何かが落ちているのが見えた。


「あ、あれ!」


 俺が川田さんに呼びかける。

 そうして二人でその場所まで向かった。


「これは…」

 川田さんがそう呟く、


 そこに落ちていたのは、引き裂かれた冒険者のリュックだった。

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