第十七話 遭難者3
「は、はぃい。実は私先週から熱を出してまして、そのぉ探索に行けなかったんですよぉ、ええ」
夏目さんにいらっしゃったんですか!と言われた川田という男性はビクッとなりながらそう答える。
探索、という事はこの人も冒険者なんだろうか。
見たところ防具はつけていない。休日のお父さんのような服を着ている。
正直言って、とても冒険者っぽくはなかった、
まぁ俺も人の事は言えないけどな。
「川田さん本当に良かった!実はお願いがあるんです!」
夏目さんはそう言うと、これまでの経緯、結城花音とその友達三名が迷宮一層内で行方不明である事を伝えた。
川田さんは、それは!、なんと…!、大変だぁ…。と所々で相槌を言いながら話を聞いている。
「そんなことがあったんですねぇ…。なんだか前の貼り紙に人が集まってて何かなぁとは思っていたんですがねぇ、ええ」
話を聞き終えて川田さんはそう言うと、じゃあ準備して来ますぅと階段を上がっていく。
「あの方は誰なんですか?」
全く誰かわからない俺は夏目さんに尋ねた。準備しますって言う事は捜索を手伝ってくれるんだろうか、
とても心強いが、二階に更衣室なんてあったっけ
談話室で着替えるのかな。
俺がそんな予想を立てていると、夏目さんから予想外の返答が返って来た。
「あの方、川田平助さんは薔薇十字団のメンバーの方なんです!」
「ええ!?」
思わずでかい声が出た。
あの人が薔薇十字団のメンバー、とてもじゃないが見えない。
どちらかと言えば事務員のおじさんって感じだった。
俺が勝手に想像する薔薇十字団は、筋肉隆々で片目に傷が入っていて、バカでかい大剣を持っている凄い冒険者の集まりってイメージ。
あの人、そんなに強いのか…。人は見かけによらないなぁ
なんて思っていると川田さんが上から降りて来た。
ドスドスと足音を立てて鎧が擦れて音が鳴っている、川田さんはさっきまでの休日のお父さんファッションから、とんでもない重装備の戦士になっていた。
二つツノの生えた兜、重装備な鎧、そして片手で持って肩にかけているバカでかい斧。
さっきまでの事務員のおじさん感は完璧に消え去っている、めちゃくちゃ様になっていた。
「お、おまたせしましたぁ。いやぁ1週間ぶりなので鎧が重たい」
しかし喋ると、やっぱり普通の人って感じだ。
「これ、少ないんですが川田さんの分の薬草です!」
夏目さんがそう言って俺と同じ量の薬草を川田さんに渡した。
「あ、どうも、いやーありがたいですねぇ」
川田さんはそう言って薬草をリュックに入れる。
そして、俺の方に気が付いたようでおや?という顔をしながらこっちを見た。
「この方もご一緒に?」
川田さんは俺に軽く会釈をしてからそう夏目さんに尋ねる。
「はい、古森さんと言って昨日行方不明の方達を目撃した冒険者さんです!誰も捜索に行かないならって志願してくれたんです!」
夏目さんがそう紹介してくれたので俺は
「古森です、よろしくお願いします」
と会釈しながら挨拶をした。すると川田さんは凄い笑顔を浮かべながら
「いやぁ!助かりますねぇ。一人と二人じゃ大違いですからね。こちらこそよろしくお願いします。ええ」
と言ってくれた。
こんな弱そうなやつ足手まといになるだけだ、なんて言われるんじゃないかと思ったが、川田さんは本当に嬉しそうに俺の方を見ている。
良い人感が凄い。
それから、俺は長時間探索許可書を書いて提出した、一応日を跨ぐ前に帰る予定だが、何があるかわからないから念のためだ。
ちなみに川田さんは薔薇十字団だから必要ないそうだ。
そして施設を出て迷宮扉に向かう。
トリコを倒して出てきた時は、まだ日があったのにもう辺りは暗くなっていた。
「気をつけて行ってきてくださいね…。無事を祈ってます」
一緒に扉の前まで来てくれた夏目さんが俺と川田さんにそう告げる。
「ではでは、行きましょうか。古森さん」
夏目さんに返事をしてから、川田さんがそう俺に呼びかける。
時刻は18時40分、
迷宮の中は地上とは違って日没が遅いが、それでももうじき暗くなる時間帯に差し掛かる。
俺たちは今から遭難した四人を捜索する、かなり厳しい戦いになりそうだ。
「行きましょう」
それでも必ず見つけ出す、そう思いながら俺たちは迷宮の中に入った。




