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職業冒険者は半額シールが好き。  作者: 語谷アラタ
第一章 全てが変わる一週間
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第十五話 遭難者

 迷宮の外に出ると、やけに周りが騒がしかった。

 お祭り騒ぎって感じじゃなくて、なんだか慌てているような、わいわいじゃなくてざわざわって感じだ。


 何かあったのか?なんて思っていると、近くの冒険者の話し声が聞こえてきた。


「で、丸一日だろ?かなり厳しいんじゃねぇの」


「だろうな、多分全員ルーキーだ、どうせバカな若いのが遊び感覚で奥まで行ったんだろ」


「自業自得だな」


「そういうこった」


 と、呆れ返るような感じで冒険者委員会の扉の前に張り出された紙を見て話している。


 その冒険者たちが離れてから、俺も近くに行ってみた。


 すると、張り紙にはこう書いてあった。


【遭難者情報モトム。以下遭難者四名 氏名 顔写真】


 そう書かれた文字の下に、四名の名前、そして一人の女性の名前の下には顔写真が貼られてあった。


 俺はそれを見て胸の中がざわついた。


「あの大学生グループじゃないか…」


 一人だけ顔写真が貼られている女の子の顔を見て思い出す。


 昨日、右田さんと別れてから、バットピグを狩っている時に近くにいた大学生グループの中に、この女の子がいた。


 間違いない、羨ましいと思ってチラチラと見ていたからはっきりと覚えている。それに四名という数も一致する。


 あの大学生グループ、確か暫くすると居なくなって…、それで…


「奥までいったのか…」


 はっきりとは覚えていないが、多分俺と変わらない装備だったはず…。低級冒険者だと思った記憶がある。



 いくら四人居るからって、あれで奥まで行くのは無謀だろ…。


 俺だって今日、城まであと半分ってぐらいまで進んだが、城に近づくにつれてモンスターは強くなっていった。


 それに、


「あの四人、確か男二人しかまともに戦えてなかったぞ…」


 話したこともない、チラッと見ただけの四人だが、それでも俺は動揺した。


 丸一日って言っていた冒険者の会話から察するに、多分昨日から帰ってない。


 迷宮の中で日を跨ぐほどの長い探索の場合は、原則長時間探索許可書を委員会に提出しなくてはならない。


 それが出ていなくて、多分四人のうちの誰かの家族から捜索願が出された。

 多分、顔写真が出ている女の子の家族だろう…。


「とにかく俺が見たことを言わないと!」


 俺は直ぐに冒険者委員会の施設の中へ入る。


 すると中では委員らしき人達が、何人かの冒険者に声をかけていた。


「探索に協力お願いできませんか?」


「謝礼もご用意できます!」


「誰か、お願いできないでしょうか?」


 必死で周りに頼んでいる。


 頼まれた冒険者はみな、首を横に振っていた。


 そんな金でわざわざ人探しなんて出来るかっ、モンスター倒してた方がよっぽどマシだ、と吐き捨てながら去っていく冒険者もいる。


「……」


 俺は声をかけている委員の1人、若い女性に声をかけた。


「すいません、あの遭難者の件で話が」


 と言った瞬間、その若い委員の女性は


「捜索手伝っていただけるんですか!?」


 と期待を含んだ声色で俺に言った。


 俺は少し目線をずらして、いやそうじゃないんですけど…と言い、昨日見た彼らの情報を伝える。


 一階の諸手続き案内所の一つで、座って話をした。


 全て伝え終わると


「じゃあ、やっぱり4人なんですね…」


 委員会の女性、名札に夏目と書いているその女性は、そう言いながら暗い顔をした。


「やっぱり…とは?」


 俺がそう尋ねると、夏目さんは二つほど離れたコーナーで泣きながら俯いている女性の方を見た。

 女性は別の委員会の人に何やら励まされているようだった。


「あの方、遭難者の結城花音さんのお母様なんです」


 と夏目さんが悲しそうに呟く。


 それから、夏目さんは女性が言っていた事を話してくれた。


 要約すると、その女性の娘、結城花音は昨日から帰ってこず、携帯の電波もずっと圏外。彼女は最近、友達三人と一緒になって冒険者試験を受けたらしく、もしかすると迷宮内に居るのではと思ってここに来た、と言うことだった。


 委員会はその女性の話を聞いて、すぐに冒険者ライセンスの立ち入り履歴を調べた結果、確かに昨日迷宮扉をくぐってから、戻っていないことが判明したそうだ。


 それらを聞いて、夏目さんがさっき言った言葉の意味を理解する。


 やっぱり4人なんですね…。つまりこれは完全に初心者、迷宮に入って日の浅い4人だけで奥に行ってしまったんですね、という意味だ。


 もしかすると、知り合いに上級とは言わずとも中級程度の冒険者が居て、その人と一緒に探索していたのならば、かなり生存率は高くなる。


 おそらく夏目さんはそれを期待していたのだろう。



「捜索の方は、どうなるんですか?」


 俺が尋ねる。さっきの光景から察するに、もしかするとまだ始まっていないんじゃないか…。


 俺のそんな憶測はずばりと的中した。


「いつもお願いする上級冒険者様達…、この第五迷宮の問題をお願いしている政府直属の薔薇十字団の方々は、みな下層へ調査に向かってるんです…」


 薔薇十字団、上級冒険者専用の三階の施設を使っている組織の名前、そういえばそんなんだったな。


「その薔薇十字団の人たちはいつ戻るんですか?」


 俺は再び尋ねる。今日中にでも帰ってくるならまだ希望はある。


「3日後…です…」


「3日…」


 思わず絶句した。


 夏目さんの返答はそんな希望を完璧に打ち砕くものだった。


 無理だ、3日後から探索を始めてもとてもじゃないが生存は望めない…。


 かと言って有志の探索隊が結成される雰囲気もない…。


 絶望だろこんなの…。


 一層奥地へ行った自己責任、そんな言葉じゃとても片付けられない。


 人が死ぬ、


 今動けば、助かる命が


 ここにいる冒険者みんなで今から探せば助かるかもしれない命が、


 消える…。



 そう考えた瞬間、



「俺が行きます」


 思わず口に出していた。自分でも驚いてしまう。

 何言ってんだ俺は。


 それでも、続けて言ってしまった。


 言わずにはいられなかった。


「俺が彼女達の捜索に行きます」


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