第十四話 トリコ討伐2
「はぁはぁはぁ…」
トリコを倒して、俺はそのまま地面に座り込んでしまった。
「手が震えてやがる…」
これまでの戦いとは格段に違う何かを感じた俺の手は、剣を鞘に収められないほど小刻みに震えていた。
思えばいつも言っていた決め台詞、邪神竜撃迅雷剣も言えないほど、気が付かない間に必死になっていた。
奇襲だったからか?
宝箱を開けようとしていきなり攻撃をくらったから純粋にビックリした…?
それとも人型というのに少なからず嫌悪感を抱いていたか。
俺はその何かについて考える。
多分、奇襲だったり人型だったりした事もあるのだろうけれど、1番の理由は、もしかしたら死ぬんじゃないかって恐怖な気がした。
思い返してみれば、これまで倒したモンスターはすべて、武器を持って襲っては来なかった。スライムは顔に纏わりついてきたり、バットピグは突進だったり。他の低級モンスターも主な攻撃は素手での打撃だった。
刃物を、剣を、殺意を持って襲い掛かってくるモンスターと対峙したのはこれが初めてだ。
「はは…、やっぱ怖いな迷宮…」
今更なことを、と自分でも思うがスライムばかり倒していた半年間と昨日今日の二日間では迷宮に対して感じるものが段違いだ。
まぁ俺自身の迷宮に対する行動が全く違うから当たり前なんだろう。
しかも行動だけじゃない、考え方も少しだが変わってきている気がする。
もっと先が見たい、色々と探検したいという欲が出てきている。
「俺も冒険者らしくなってきたじゃねえか…」
行動すればするほど、求めれば求めるほど、迷宮が冒険者に与えるものは大きくなる…。
とか、昔テレビで誰かが言ってたなぁ、まさしくその通りだ。
と誰かの名言を思い出しつつ、だいぶ手の震えが収まった俺は剣を鞘に収めた。
黒銅剣、初めて試したがとんでもない切れ味だった、それにかなり軽い。
そして何より、黒い刀身がめちゃくちゃカッコいい。
「防具も黒で新調しようかな…」
中二病心的に黒がかっこいいってのもあるけど、闇に紛れられる色でもある。
敵の視界から姿を消す、って点ではあながちアリかもしれない。
今度、右田さんに防具のこと相談してみるか。
そう思いながら俺はそろそろ帰ろうと立ち上がった。
そして迷宮扉の方へ向かう前に、目の前に落ちている、半年間ずっと使っていた鉄の短剣を拾い上げる。
がむしゃらにバリアーに向かって打ち付けられた剣の刀身は所々ヒビが入っていた。
それでもそれを鞘に収めて、リュックに入れる。
物は粗末にしたく無い派なんです、というのもあるが思い入れがある剣だ。
こんなところに捨てるのは忍びない。
そしてさあ帰ろうかと迷宮扉に向かおうとして、
「そういや、トリコの入ってた宝箱ってなんか入ってるのか」
という疑問が湧いて出た。
トリコからは残念ながら何もドロップしなかったし、ここまで探検に出て得られた迷宮石はいつもとそこまで変わらない。
宝箱に何か入ってれば防具を新調する助けになるかも知れないし、確認しておくか。
そうして岩陰にある宝箱をガバッと開ける、
「くっせぇえ!!」
開けた瞬間、アンモニア臭みたいなとんでもない悪臭が鼻の中に入り、目、頭全てを混乱させた。
俺は思わず鼻を手で摘み、中を見る。
中には入っていた物はモンスターか何かの肉片や、トリコが催したであろうウ○コだった…。
もう二度と宝箱開けたく無い、というか開けられないかもしれない…。
俺はそう思いながら、逃げるようにその場を後にした。




