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職業冒険者は半額シールが好き。  作者: 語谷アラタ
第一章 全てが変わる一週間
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第十二話 半額弁当

「はい、じゃあ一万二千五百円だね!手渡し?それとも振り込みにするかい?」


「手渡しで!」


 てなわけで、昨日と合わせて一万超えという中々な報酬を得た俺は、委員会を出てスーパーに向かって歩いていた。


 時刻は18時30分、スーパーは迷宮から5分ぐらい、マンションとそんなに変わらない距離にある。マンションからは徒歩で1分という便利さだ。


 少しゆっくりと歩いてスーパーに到着。


 中に入って一目散で弁当コーナーに向かったが貼られているシールは20%引きのものだった。


「…」


 タイムセールまで残り20分ほどか、もういっそこの値段で買うか?と思った瞬間、俺の中の悪魔が囁く。


 今日は初めてバットピグを倒した日じゃねえか、 


 それにあいつももう相手じゃねえ!


 これからはいろんなモンスター倒し放題の稼ぎ放題さ!


 半額シールなんて待ってても仕方ねぇぜー?


「ぐぬぬ…」


 俺はその言葉に惑わされ、そーっと20%割引のシールが貼られた唐揚げ弁当を手に…


 ダメよ!


 そのとき、俺の中の天使が囁く。


 これから先、何があるかわからないじゃない!


 怪我をして迷宮に入れなくなるかも知れない!


 迷宮石の価値だって突然落とされるかも知れないわ!


 そうなったらいくらモンスターを倒しても無意味!


 ここはあと20分、待つべきよ!


 ほら!食玩コーナーでも見てきたら!?

 20分なんてあっという間よ!


「確かに…、これから先何があるかわからないもんな…。」


 俺は俺の中の天使に対して呟く。


 周りの人には黒いコートを着た変な男が、唐揚げ弁当を片手に一人でぶつぶつ言ってる姿が写っているだろう。



 よし、20分待つか!と悪魔の誘惑を断ち切り、俺は唐揚げ弁当を置いてから、天使の助言通り食玩コーナーに向かった。


 わぁ、食玩コーナーだぁ。


 22歳になった今でも、食玩コーナーってのは魅力的だ。たまに子供たちと並んでおもちゃを見ている時は、とてつもなく恥ずかしく感じるが正直言って最近の食玩は子供よりも大人向け、というぐらい精巧な作りをしている。


 俺は食玩コーナーってのは実は大人が見るエリアなんですよ、と言わんばかりの堂々とした面持ちでおもちゃたちを見つめた。


 ホネボーネザウルス、懐かしいなぁ。あ、やっぱり剣士系だけ売り切れてる。


 あ、キャンダムの可動式フィギュア、一個五百円…、高いなぁ。


 と、夢中で見ていると、気が付けば隣に小学生くらいの女の子が立っていた。


「ママー、黒い人がおもちゃ見てるー。」


 と、思ったことを直ぐに口にする無邪気な邪気を存分に発揮し、その言葉に反応して猛スピードで母親らしき人がやってくる。


「すいません、ほら行くわよ」


 と言い、女の子を連れて去っていく。


 ああいう人は見ちゃダメッ、と小声で言っているのが聞こえたが、聞こえない振りをしておいた。


 去り際に「ちゅーにびょーかんじゃー」


 と、どこで覚えたか俺の精神ライフポイントにクリティカルヒットする言葉を女の子が言っていたことも、聞かなかったことにした。


 俺は涙をグッと堪え、ホネボーネザウルスを一つ片手に食玩コーナーを後にする。


 それから、適当にブラブラとしてタイムセールの時間がやってきた。


 半額シール神、と俺が心の中で呼んでいる痩せた男性店員が次々と弁当に半額シールを貼っている。



 俺の目当ての唐揚げ弁当にも貼られた!

 しかし、ここで直ぐに取りに行ってはマナー違反だ。


 あくまでも、半額シール神が姿を消し、しばらくしてからさりげなく取りに行く。


 あれ、これ半額になってんだ。という顔をしてだ。


 俺がそう考えて、弁当コーナーの横の惣菜物を適当に眺めていると、一人の女性がやってきた。


 腰まで伸びた黒髪を揺らして歩くスーツ姿の女性…。



 どこかで見たことのある顔…


 って椎名さんじゃないか!


 椎名さんはこっちに気付いている様子はない。

 真剣な顔をして弁当コーナー付近へ一直線で向かっている。



「しいなさ…」


 と俺が声をかけようとした瞬間、椎名さんは目にも止まらぬスピードで半額シールの貼られた、俺の狙っていた唐揚げ弁当をとり、カゴに入れた。


 そして、そのままノンストップでレジの方へ向かい、向かう途中にあるお酒コーナーで、これまた目にも止まらぬスピードで歩みを止めないまま缶ビール2本を手に取った。


 さの形で開いた口が塞がらない。


 俺は、見てはいけないものを、いやあまり見たくないものを見てしまった…。


 お目当ての唐揚げ弁当が無くなった寂しいコーナーではナス炒め弁当というニッチな需要しかなさそうなお弁当が残っている。


 俺はそれを手に取りレジへ進み、暗くて寒い冬空の下帰路についた。


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