第十一話 冒険者委員会
右田さんと別れてから、もう何体かバットピグを討伐しようと思った俺は近くをぶらぶらと歩いていた。
所々で、俺と同じ低級冒険者たちが狩りをしている。
やっぱりほとんどの人がグループで狩りをしていた。
キャ!怖い!そっちに行ったわ!任せておけ!うおら!
と大学生っぽい男子女子二人ずつの四人組がバットピグ数体を相手に格闘しているのを尻目に、少し離れたところで俺もバットピグと対峙する。
羨ましくない、全くこれっぽっちもな!迷宮は遊びじゃないんだ、死ぬか生きるかの命をかけた場所さ!
そんな事を思いながら、俺はバットピグの攻撃をバリアでガードしつつ、小さな声で
「邪神竜撃迅雷剣…」
と呟きながら剣を振り下ろした。
ちなみに右田さんからもらった黒銅剣はまだ使っていない、もう少しバリアーと剣を使った戦闘に慣れておきたかったからだ。
黒銅剣は多分二層でも通用する剣でこの層では力十分すぎる。迷宮装備に頼りがちな俺が、これで剣まで強いとなると自分自身の戦闘技術が上がらないからな。
それにしても、俺と同じ青いプロテクターの迷宮装備か…。
俺は右田さんが言っていた事件を思い出す。
迷宮外での殺人事件、奪われた迷宮装備とまだ逃げている犯人…。
プロテクターを使って初日で、変な勘違いされちまったなぁ…、と自分の不幸を嘆きつつも迷宮装備が巻き起こしたその事件に肝を冷やした。
というかそんな勘違いされるなんてどんな確率だよと改めて思ったりもしたが、これも迷宮装備の効果なのかもなぁとも感じつつ俺は次々に姿を見せるバットピグを倒したり、物陰で休んだりを繰り返す。
それからしばらく辺りでバットピグを倒し続けた。
そして、自分の周りにモンスターがいない事を確認してから、俺はどさっと地面に座り込む。
バットピグはスライムと違って、冒険者を見かけたら即襲いかかってくるみたいでなかなか骨が折れるな。
「ふぅーーー」
と一息吐いて周りを見渡す。
さっきまでいた大学生っぽいグループはキャッキャしながらさらに奥へ向かったみたいでもう姿は見えない。
「イイなぁ…」
と一人ぼっちな自分と彼らを比べてつい本音が出てしまったところで俺は違う事を考えるようにした。
そうさ、昨日までスライムしか倒したことなかったのに、このプロテクターをドロップして1日でかなり進歩した。
バットピグは倒し方さえわかればスライムとそこまで変わらないペースで倒せるようになったし、というのもシールド越しだと鳴き声がかなり低減されるため、先制攻撃を食らわないようになった。
そして何より迷宮内で初めて人と出会って、色々あったが名刺をもらった上に武器までもらってしまった。
一人だが、確実に俺は成長している!大丈夫俺、この調子で頑張れば、きっと俺は強くなれる。
スライムからバットピグなんて並の冒険者なら1週間で到達しそうなレベルでは?という心の中の本音はぐっと奥底に封印だ。
仲間はいないが、俺には迷宮装備がある。プロテクターがあるんだ。
蒼きプロテクターを身に着けたソロ上級冒険者…、なんて未来の自分を想像しつつ、俺は腕時計を確認した。
「18時前か…」
今日こそ半額弁当を買いに行きたいし、何より昨日と今日の迷宮石を換金したい。
そろそろ帰るか、そう思いおれは立ち上がって泥を払い迷宮扉へ歩き出した。
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外に出ると、やっぱり空は暗くなっていて冬の風がヒューヒューと吹いていて寒い。
俺はすぐ横にある冒険者委員会の施設に向かい、中へ入った。
中は暖房が効いていて暖かい。
この施設は3階建てで、一階が迷宮石や素材の換金所と諸々の手続き案内所がある。
二階は滅多に出入りしないが、冒険者が自由に入れる談話室とパーティ募集の案内所、また市や国から頼まれた依頼なんかを張り出した掲示板がある。
三階は、政府直属の冒険者、つまり迷宮を最前線で調査して探索する上級冒険者の集まり…、名前は忘れたけどなんちゃら十字?みたいな組織の施設だ。
まぁ三階には一生縁がないことは間違いない。
俺は入って左にある換金所へと向かった。
幸い、誰も並んでおらず直ぐに受付に進むことができた。
いつもの受け付けの人がぼーっと座っている。
「こんにちはー、迷宮石の換金お願いします」
そう言って俺は椅子に座り、迷宮石の入った袋と冒険者ライセンスを財布から取り出して置いた。
「あら、古森さん今日は随分多いじゃない」
と受け付けの女性、小野田さんが言った。
年齢は50ぐらいだろうか。結構ふくよかな体型で、ザ・お母さんという感じだ。
「いやー、昨日換金するの忘れちゃって」
と俺は笑いながら返答する。
「あらそぉ〜、じゃあ査定しますねぇ。って!あら!アンタこの迷宮石!」
小野田さんが迷宮石を袋から取り出し、いつもより少し大きい迷宮石を手に持って言った。
気付きましたか…。
と、俺は心の中で思いながら
「実は、今日バットピグ倒したんです…!」
と答える。そうなんです、やっとスライム以外のモンスター倒したんですよ、と俺は心の中で自慢。
「あんまぁーー!偉い!」
小野田さんはそれを聞いた途端、俺の肩をバシバシと叩きながら褒めてくれた。
いやー、はっは。
照れるなぁ、もっと褒めて貰って構いませんよ。
って痛いっ。バシバシが結構痛い。
平手を受けるたびに身体を少しのけぞらせている俺に気付かず、小野田さんは偉い!アンタはやればできると思ってた!と全体重を乗せたバシバシを繰り出し続けた。




