第十話 迷宮商人3
「にしても、スライムの迷宮装備とはなぁ」
男はそう言いながら、まじまじとプロテクターを観察している。
「下級モンスターの迷宮装備はいくつか見たことはあるが、スライムは初めてだな」
「俺もまさかスライムからドロップするとは思ってませんでした」
男はしばらく興味深そうに眺めた後、思い立ったかのように後ろに背負ったリュックを前に持ってきた。
「あんちゃん、冒険者になってどれぐらいたつんだ?」
リュックに手を入れながら男が聞く。
「半年…、ぐらいですかね」
「半年?にしては随分装備が貧弱だな。さっきの戦いを見るにずっと一層を拠点にしてたって感じか?」
「一層を拠点…、というかスライムしか倒したこと無いんですよね、今日まで。さっきのバットピグも初めて倒したんです」
若干恥ずかしいが正直に答えた。
「じゃあこれからって感じか。どうだ、ここらで装備を新調する気はないか?」
男はごそごそとリュックを漁りながら言う。
確かに今日プロテクターを試して、初めてスライム以外を倒してみて思った。もしかしたらもうちょっと強いモンスターを倒せるかもしれない。そうなった時、この武器防具じゃかなり不安ではある。バットピグの突進もかなり痛かったしな。
でも、金がなぁ…。
「で、だ。さっき疑っちまった詫びと言っちゃあれなんだが…、良かったらこれを貰ってくれ」
そう言うと男はバッグから黒い鞘に入った剣を取り出した。
「こいつは黒銅剣、迷宮で取れた黒銅石で作った剣だ。いまあんちゃんが使ってる鉄剣と長さは変わらないから使い勝手はそんなに変わらないはずだぜ、勿論切れ味と強度は段違いにこっちの方が優れてる」
黒銅石、迷宮の岩石地帯なんかにある素材だよな確か。価値はそこまで高いわけじゃなかったはずだが、加工して剣に仕立てるにはかなり手間がかかるはずだ
「いや流石にそれは…」
と断ろうとしたが、男はそのまま黒銅剣を俺に手渡した。
「いや貰ってくれ!いくら似てたからって、ただプロテクターを持ってただけのあんちゃんを疑っちまったんだ、これぐらい当然だ。それに、迷宮装備を持ってるあんちゃんは絶対に強くなる。まぁだから先行投資だ!遠慮はいらねえよ」
そう言われて、俺は黒銅剣を受け取った。
「じゃあ…、お言葉に甘えて使わせて貰います、ありがとう」
「おう!あ、あと俺のことは右田とでも呼んでくれよな、俺はこれから下の層に行くけど、何かあったら名刺に書いてあるメールアドレスからメッセージ送ってくれ!」
男…、右田さんはそう言うとリュックを背負い直した。
「あと、もしもあんちゃんが付けてるそれと似た迷宮装備を見かけたりしたら教えてほしい…、捕まえたり声をかけたりはしないでくれ、危険だからな。ただ見つけたら連絡をくれ」
「わかりました、任せてください」
そう言うと右田さんはニカっと笑い、じゃあまた今度は下層で会うかもな!と言って二層への階段がある城へ歩いて行った。




