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#4 まるでイベントだなと思った。

 街に移動した僕は適当に散策していた。

 大金を手にしているけど、宝くじが当たっても好きなものを買った後は貯金しようと考えていた僕はあまり使わないように考えている。

 木が多く、所々に野良猫が歩いている。黒猫が横切ると縁起が悪いという風習は残っているのか、近くで横切られた人がショックを受けていた。

 僕は目当てである本屋によると、ふと思った。これじゃあ前と同じだなと。

 元々僕は冒険譚とか好きだったし、そういうのを求めて昨日は頑張ってみたけど………まさか2日も寝っぱなしとは思わなかった。


(そう言えば、あの子はどうしたんだろう?)


 怒られただけで忘れてたけど、僕が助けた女の子。何も言われなかったこともあって完全に頭から抜けていた。気絶していたとはいえ、かなり可愛かった。できればまた会ってみたいものだ。

 それはともかく、今は目当ての本があるかどうかだ。

 中に入れば見たことがある綺麗な店……なんてことはなかった。それなりに綺麗にされているけど、それでも限度と言うものがあるそうで、場所によっては綺麗になっているという感じか。

 店員に話を聞き、内容を軽く確認して面白いかどうかを判断して必要なものを買う。

 ちなみに今興味があるのは、合成だ。

 ファンタジー系あるあるだけど、何かを合成して人よりも差を付けたい。できることなら自分で鍛冶スキルを上げて自分だけの最強の武器とか作ってみたい。

 それにしても、あまりそれらしい本がない。もしかして販売された後だろうか?


「君、何か探しているのかね?」


 老人が僕に声をかけてきた。赤いニット帽に黒縁眼鏡。白い口髭がもっさりとしていて、緑色のエプロンをしている。


「えっと、この世界の歴史とか、後は鍛冶や錬金術とかの本がないかなぁって」

「錬金術? なにかねそれは」

「とある素材を用いて別の物を作成する術式です」

「合成のことかね? それならば初級本がここにあるよ」


 レジを打つための台に戻り、棚から本を出す。


「それとお前さん、さっき「鍛冶」と言っていたが鍛冶屋志望かね?」

「いえ。やり方を知っていれば後々役立つかなと思いまして……」

「そうかい。……ちょうどいい。こっち来てくれんか?」


 そう言って老人は奥に入る。僕も「失礼します」と言いながら中に入ると、老人が下に降りているので僕も降りて行った。

 老人がどこかの部屋に入ったので僕も入ると、その部屋は物置っぽかったみたいだけど真ん中に祭壇のようにして2つほど道具が置かれていた。


「これは……?」

「ワシも昔、冒険者をしていての。何度かダンジョンに潜っておった。当時魔法使いじゃったワシは研究が好きでな。これはその名残じゃ。ほれ、触ってみ」


 言われて僕は目の前に鎮座する小型の窯に近づき、触れる。するとまるで息を吹きこまれたみたいに動き出した。


「うわぁ」

「なるほど。おぬし、よほど特別な力を持っているようじゃのう」

「こ、これは一体……」

「合成窯じゃ。これを使えば色々な合成が行うことができるのじゃ。良かったら持って行ってくれんか?」

「でも良いんですか? 合成窯ってかなり高価なのでは?」

「じゃが動かねば意味はない。これも長年ここに置かれていたのは窯を起動させるほどの魔力はなかった。ワシも全盛期を過ぎれば起動できなくなっていったしの」


 となれば、いずれ僕も動かせなくなるかもしれないのか……。


「悲観することはない。君も「こいつだ」と思えるような者に渡せば良い。それにこの店も少しすれば畳む」

「え? そうなんですか?」

「娘が中央で商売をしておってな。余生はそこで世話になろうと思ってな。 妻の代わりに孫をたくさん可愛がってやらねば。それに、既に万人に仕える窯も売られ始めておるしの。要はごみの処分じゃ」

「ハハハハハ……」


 僕は引き笑いながらもありがたく窯を頂戴した。ついでに歴史の本とかも買わせてもらった。それにしてもこんな良さそうなのをゴミって。万人に使える窯の方が人気が出るのはわかるけど……。







 たくさんの荷物はいつから持っていたのかわからない鞄に入れる。この袋、異空間に繋がっているのか無限に入るようだ。ギルドパスと連動していて中に何が入っているのかわかるみたいだ。ちなみにすぐにモノを取り出したいなら腰に巻かれているポーチから取り出すのが一般的らしい。それに倣い、僕もポーチを装着している。


(……そろそろ帰ろう)


 まだ午後4時だけど、夜はクイスさんのところで武器を新調したい。なので少し早めにギルドに戻った。

 その中央辺りで何やら人だかりができていて、その中央に少女が困った風に立っている。向こうは僕の姿に気が付いたのか、なんとか抜け出してこっちに近づいてきた。


「あ、あの、先日はありがとうございました!」


 僕と同い年……少し下くらいか。白い法衣に錫杖を持った少女がお礼を言った。そう言えばこの子、どこかで……。


「あの、ブラックパルサーに襲われているところを助けてもらった……」

「あ、2匹目を潰しに行った時にいた子か!」


 すると全員が視線を僕に向ける。


「え? あいつって確か数日前に新人登録してたやつだよな?」

「そんな奴がブラックパルサーを単独で? 冗談だろ?」

「でもあのクイスさんも認めているほどなんだろ? じゃあ実力はそれなりにあるってことか?」


 全員の視線が獲物を見る目に変わるのを感じているけど、それ以上に目の前に立つ女の子の方が凄かった。


「それで、良ければ……わたしとパーティを組んでくれませんか?」


 僕は女性経験が全くない。あまりにも女性と話さなさすぎて同類以外でも多少話しても内心舞い上がったりするような童貞野郎だ。

 とはいえこの場において仲間選びは慎重にならないといけない。特に僕が向かうのはダンジョンだ。だから―――


「ごめんなさい」


 断った。周りも驚きを露わにしているけど、僕の気持ちは変わらない。


「な……何故ですか……」

「気ままな一人旅を楽しみたい、という気持ちもある。だけど僕の最終目標はダンジョン踏破だ。それも1つじゃない。可能な限りいくつものダンジョンを踏破する予定さ」


 すると周りから笑いが起こる。本気の笑いに僕は本気で驚いた。


「本気かよ、お前。いくらなんでもそれはねえよ」

「これまでどれだけの冒険者が倒されていったと思っているんだよ」

「夢を見るのも大概しろよー」

「ダンジョンで一攫千金とか古いっての」


 それで僕の心が折れると思ったのか、それとも親切心かはわからない。でも僕は僕で笑みを浮かべた。


「どうでもいい」


 何人かはその状況に気付いたのか、笑うのを止める。


「僕はただ、この世界を楽しみたいんだよ。戦って、強くなって、いつか自分だけの土地をゲットして、開拓して、ハーレム作って楽しむだけ。まぁこれも夢かもしれないけどさ、ただ燻ぶって諦めるよりかは遥かにマシ。好きなように生きて、好きなようにした結果で死ぬ。最高じゃないか! ま、でも死ぬ気はないけどね。でも刺激を求めても行動をしないよりも、新しいことを求めて挑戦した方が良いに決まってるじゃん!!」


 この世界に来てわかったのは、勉強がどれだけ必要かということだ。知識がなければ強くなれない。そしてそれは僕がいた世界でも同じかもしれない。でもあんなに退屈な日々よりも、自分のこれまでのことを活かせる世界の方が良いに決まっている。


「ってことで、ごめんなさい。まぁハーレムは流石にロマンとかなんだけど、それ以外のことは本気なんだ。だから本当の覚悟がない人とか知らない人って嫌なんだ。だって僕は他人の死にまで責任取れないから」


 そう言って僕は2階にあるショッピングエリアへと移動した。……よくよく考えると、なんとも恥ずかしい演説をかましてしまったんだろうか。






 ■■■






 ユウヤにパーティを組んでほしいと言った少女はユウヤが語った夢があまりにも壮大だったこともあり、呆然としていた。その様子を友人の1人が肩を叩いて正気に戻す。


「ちょっとニーナ、大丈夫?」

「……あ、うん」

「ほんとに大丈夫? でも結果的に良かったんじゃない? あんな男の仲間にならなくてさ」


 女性冒険者からはあまり印象は持たれていない。言動もそうだが何より世間知らずが騒いでいるようにしか見えないというのが彼女らの本音だ。

 だがニーナにとってはあまりそうは思えなかった。


(………でも)


 ニーナは今でも、あの時の光景が簡単に思い浮かぶ。自分よりも明らかに格差がある敵に逃げ出したかった自分とは違い、なったばかりだと言うのに堂々と立ち向かうその姿勢を。


(……もしかしたら……本当にやってのけるかも……)


 かつて、ダンジョンを攻略した2人の若者。ニーナはユウヤに対して、おとぎ話のような冒険者になれるかもしれない可能性を感じていた。






 ■■■






 部屋に戻った僕は、早速合成窯を試してみた。

 水を瓶2本分用意して蒸留水を作り出し、薬草を入れてポーションを作成する。


《ポーション[+3]》


 そんな表示がされる。ものに軽く触れるとウィンドウが表示されて効果がわかる。


『獲得方法:合成のみ

魔力を込めた分効果が上がった水薬。回復量:40~70%』


 10本ほど作成し、ポーチの中に入れておく。明日に効果を確認する。それにしてもファンタジーでよく見るトルクが刺さった瓶が空で置かれているのは驚いた。近いうちにこれを改良して、ワンタッチで開けられるタイプなどにしておきたいものだ。

 トイレを済ませて手を洗い、床に入る。レベル上げにある程度の目途が立ったなら、一度トイレの改革などをしてみたいものだ。旧式なのはともかく、慣れたとはいえハンドソープがないのは辛い。


(そういう勉強も、ちゃんとしておけば良かったな)


 しばらくはトライアンドエラーの繰り返しだなぁと思いながらも意識を預けようとした時にふと目を覚ます。


「……夜遅くに……ごめんなさい」


 まるでタイミングよく、月明かりが刺す。その光のおかげで僕は彼女の顔がよく見えた。


「……君は」

「……あなたは……異世界から来たの……?」


 唐突にそんな質問をされて僕は驚いた。だけどまぁ、そんなおとぎ話なことを言われても僕にはわからない。


「異世界? 何それ?」

「……最近、この世界に勇者一行が異世界より現れたって聞いた」

「たぶんそれは僕とは無関係だよ」

「……でもあなたは、空から落ちてきたと聞いた」

「まぁ、そうみたいだけどね」


 いや、いくら何でも空から落ちてきて異世界人って言うのは違うでしょ。まぁ僕は異世界人だけどね。


「……どちらでもいい。私と一緒に、行動してほしい」

「え? でも僕はダンジョンに挑もうと思っているんだけど―――」

「構わない」


 予想外の返事に僕は心から驚いた。さっきはダンジョンに挑んで、さらに何個も攻略すると言って笑われたからこんな反応をされるとは思わなかった。


「…私も……ダンジョンに用があるから」

「そうなんだ。じゃあ、よろし―――」


 僕は言葉を途中で切った。いや、思わず止めてしまったという方が正しい。

 何故なら目の前の少女は黒いコートを脱いで、着ていた服に手をかけたのだ。


「え? 待って!? 何で―――」

「とある本にこうすれば男の人を篭絡できると」

「いやいやいや、流石に会ったばかりで名前すらわからない人とそういうのはご遠慮したいなと言うのは―――」


 たぶんこれは男の性だろう。僕はなんだかんだで彼女の顔をしっかりと見ていた。

 キング・ブラックパルサーと対峙した時も思ったけど、彼女はもの凄く可愛い。100人いれば間違いなく100人が少なくとも見惚れ、ある者は求婚し、ある者は本来の僕のように遠くから見守るような行動を取るだろう。言うなれば可愛いは正義だ。とはいえ僕はどちらかと言うと見守りたい方。だからこういう感じのは全力で拒否したい人間だ。故の全力なのだが、その華奢な身体のどこにそんな筋力があるのかと言いたくなるほど強い力で僕を抱きしめ、僕の首を甘噛みする。


「………やっぱり、気持ちいい」

「……あの、できれば離れていただけると助かるのですが……」

「嫌」


 変な気持ちになりつつ、とある部分が覚醒し始めていることに気付いた僕はなんとか抑えようとしているけど、全然抑えられない。


「………この硬いの、何?」


 彼女も異変に気付いたのか、自分の股辺りに手を伸ばそうとした瞬間にドアが開けられた。あれ? 何で?


「誰?」


 僕から離れた女の子は武器を構える。まるで英国貴族が持ってそうなサーベルなんだけど、銀の柄に黒い刀身と言った見たことがないタイプ。しかも赤く輝いたと思った刀身が幅広くなっていた。


「嫌な気配がしました。あなたですね」


 相手も女の子で、見たことがあった。さっき僕が断った相手だ。瞳は碧色だったはずなのに、右が金色に変わっている。彼女の持つ杖も同調するかのように先端の魔石も光っている。


「その方に手を出すならば、あなたを倒します」

「邪魔するなら、引導を渡してあげる」


 そこでふと、思い出す。ここはギルドが用意した冒険者用の寮で、特殊な結界が張られているため冒険者しか入れなくなっている。そしてここでの決闘は禁止されている。


「はい、ストップ!」


 僕はすぐに間に入って2人を止めた。

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