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#3 とりあえずひとやすみ

「ワタシは弓で援護するわ。ボウヤはかく乱を!」

「わかりました」


 剣を抜くと「ソニックステップ」を3回かけて突っ込む。ブラックパルサーの前に来ると静止し、相手の動きに合わせて動く。もちろん、射線に入らないようにはしている。

 矢がブラックパルサーに向かって飛ぶが、ブラックパルサーは察知したように矢を払った。


「凍り漬け」


 その隙に上に乗ってブラックパルサーの身体を凍らせる。


「よくやったわ!」


 クイスさんが槍に持ち替えて突き刺した。だがブラックパルサーは槍の先端を噛み砕く。


「そんな!?」

「任せて」


 剣を脳天に突き刺す。すると今ので事切れたのか力なく倒れた。


「やったわね、ボウヤ」

「これで1体。じゃあ、他の所の援護に行きましょう」

「あら、いいのかしら?」

「さっきはああ言いましたけど、苦戦しているなら援護は欲しいでしょうし貸しを与えるってことで手を打ってもらいましょう」

「中々あくどいわね」


 念のため、完全に凍らせて動けなくする。そしてこれから行こうとした時に別のブラックパルサーが僕らの上を飛び越えた。


「あれは?」

「ま、待ってくれ!!」


 さっき僕らよりも仕掛けた冒険者たちだ。


「どうしました?」

「君は確か新人君。実はさっきのブラックパルサー、良いところまでダメージを与えられたんだけど寸でのところで逃げられたのよ」

「それは大変よ。手負いのブラックパルサーは何をするのか―――」


 僕はすぐに飛び出してブラックパルサーの後を追う。

 ソニックステップで加速している最中であったため、すぐに見つかった。だけど別の冒険者たちが既に交戦しているけど、3人のパーティは半壊し、最後の女の子が頑張っているみたいだ。


「こ、来ないで……」


 ブラックパルサーが飛び掛かる。その寸前に僕は女の子の前に立った。


「え? あなたは―――」


 盾を持つ左手で思いっきりブラックパルサーを殴り飛ばす。顎を殴れたけど人が乗れるくらい大きいブラックパルサーが乗っかかった場合かなりダメージが来るだろう。そしてそれは後ろにいる女の子も同様で、僕には第二発を入れる体力はない。


「こっち!」

「え? キャッ―――」


 僕は女の子を抱きしめて落ちてくるブラックパルサーから逃げるために下に飛び込んだ。ブラックパルサーは一回バウンドし、倒れている2人を超えて倒れる。すぐに立ち上がり、僕はブラックパルサーに止めを刺した。


「大丈夫?」

「は、はい。助けていただき、ありがとうございます」

「ううん。こっちこそ巻き込んでごめんね」


 そう言うとまたブラックパルサーが頭を飛び越えた。


「ごめん! そろそろ他の人が来るからその人に助けてもらって!!」


 MP回復薬を呑んで僕はブラックパルサーの後を追う。


「ザンロウさん、聞こえますか! こちらユウヤ。ブラックパルサーが1体街の外に向かっています。残り何体わかりますか!?」

『ユウヤか。こちらではお前らが討伐したものを含めて5体の討伐を把握している。そしてもう1体の方は既に交戦中だ』

「わかりました。空いている人員をこちらにお願いします」


 ブラックパルサーとの距離が近くになっているのを感じる。スピードを上げてさらに接近すると、既に戦闘状態に入っていた。

 僕は物陰に隠れて様子を伺いながら、今の自分のステータスを確認する。


 NAME:ユウヤ   AGE:16 Lv.23

 HP:110 MP:300 A:40 B:30 MA:63 MB:21 S:54


 なんか、成長がおかしくない? というか全体に防御力が低すぎるんだけど。あとMPは絶対におかしい。

でも逆に考えると、これってある意味使い放題ってことだよね? ならいっか。良く考えたら僕ってMP消費が激しいし。

 レベルアップしたことで得たのか、「アタックドライブ」と「マジックドライブ」を覚えている。透過スキルで「ビジェリア」と気配察知スキル「インファ」、アイテム合成スキル「スピエル」、剣技初級スキル「スピアショット」をゲットした。

 僕はすぐに飛び出すと同時に「ビジェリア」と「インファ」を使用する。


(……え?)


 目の前にいるであろうブラックパルサー。その体積がこれまで僕が戦ってきたどの個体よりも大きかった。


 ―――グォオオオオオオオッッッ!!!


 ブラックパルサー……パルサーとは、僕が知っている生物ではクロヒョウだ。そのクロヒョウに異形な犬歯を持っているけど、まさかたてがみを持っているなんて。


「ザンロウさん! ブラックパルサーに鬣ってあるんですか!?」

『フィナです。今マスターは席を外しています。ところでユウヤ様、今ブラックパルサーにたてがみと申しましたか?』

「え? あ、はい。でも普通いますか?」

『に、逃げてください! そのブラックパルサーはキング・ブラックパルサー、ユニークモンスターです!』


 ブラックパルサーと戦っていたパーティ……じゃない。1人だ。

 僕はウインドカッターで牽制し、懐に入って「スピアショット」を繰り出す。


「え?」


 だが僕が持っていた剣は相手の胸に傷を負わせたところで砕け散った。

 ブラックパルサーは僕を足でぶつけて飛ばす。かなりダメージが入り、血が噴き出る。


「さ……流石はユニーク」


 だけど僕は思わず笑った。「ソニックステップ」で加速し、倒れているフードを被った人と落ちている武器を回収して森に移動した。






 ■■■






 キング・ブラックパルサーとは、ユニークモンスターである。

 本来ならば持たないたてがみを持つそのモンスターは時折見かけられ、最低でもB以上のパーティとして練度が高いチームが本気で臨んで、ようやく討伐できるほどの強さを持っており、本来ならばFランクの冒険者たった1人で臨んだところで返り討ちに遭う。だからまず、よほど人間を辞めている者でなければ単騎で挑むんて馬鹿げている真似はしない。実際、ユウヤも既に後悔をし始めていた。

 だが今もここにいるのは救援を待っているから。だが、敵はそれを待ってくれるわけがなかった。

 キング・ブラックパルサーは口の中から炎を吐く。その危険度を察知したユウヤはすぐにそこから離れ、逃げ出す。


「さっすがは異世界だ!!」


 そう言いながらも木々に気を付けながらユウヤは森の奥を進む。だがキング・ブラックパルサーは木々を切り倒し、時には燃やし、破壊活動を行いながらユウヤに接近した。そしてとうとう、ユウヤの前に降り立ち、炎を吐く。ユウヤは咄嗟に木に登るが、切断され地面に降り立つ。


(こうなったら逃げ切って―――)


 ユウヤが後ろに跳ぼうとした瞬間、キング・ブラックパルサーがユウヤにタックルをした。咄嗟に抱えていた人間を横に投げて自分だけ吹き飛ばされるユウヤ。何度も跳ね、ダメージに苦しんでいるとキング・ブラックパルサーは黒いフードを被った方に興味を持った。


(させるか!!)


 すぐに飛び出すユウヤ。そして「アタックドライブ」で攻撃力を強化して胴体に飛び蹴りを放つが、ダメージが少ないのか逆に飛ばされる。それでも負けじと加速し、黒いフードの人間を回収した。


(MPはまだ残っている。だったらほとんど使いきるまで)


 「ソニックステップ」を何度も使用し、加速するユウヤ。しかしキング・ブラックパルサーも加速し、またユウヤを突き飛ばした。

 ユウヤはすぐに回収しようとして、黒いフードの人間に近づく。そこでようやく、ユウヤは中身に気付いた。

 キング・ブラックパルサーは爪を伸ばした状態でユウヤに切りかかろうとした瞬間、氷の拳がキング・ブラックパルサーを殴り飛ばした。

 逃げの姿勢から攻めの姿勢に変わったことでキング・ブラックパルサーは警戒を始め、ユウヤに向けて炎を吐く。だがその炎は瞬時に凍らされ、ユウヤはMP回復薬を飲んだ。


「救援を待つつもりだったけど、止めた」


 飲み干したビンを核に氷の剣を作り上げたユウヤは先程の弱気はどこに行ったのか、キング・ブラックパルサーの懐に入り込み、腹部に剣を突き立てる。キング・ブラックパルサーは嫌な予感がしたのかすぐさま後ろに跳んだ。実際、その勘は正しかった。

 ユウヤは今の攻撃でキング・ブラックパルサーのすべての血液を凍らせ、凍死させようと目論んだ。すぐに避けたがそれでも少しキング・ブラックパルサーの身体機能が低下している。

 キング・ブラックパルサーはユウヤに対してさらに警戒する。おそらくこの獣はユウヤという存在が理解できないだろう。だがそれは割と簡単なことだった。それに気付けないのは単純に種族の違いによるもので、ユウヤがやる気になったのはフードを被った人間が原因だ。しかしそれに気付かないキング・ブラックパルサーは炎を辺りに撒いて離脱した。


「―――逃がすかよ」


 キング・ブラックパルサーは何者かに叩きつけら、身体中から血を噴かせる。


「―――下がりなさい」


 何者かが離れるとキング・ブラックパルサーの胴体を貫く氷柱が下から現れ、完全に息の根を止めにかかった。


「………あれ?」


 さらには矢、魔法と遠距離攻撃のオンパレード。それを見たユウヤは少し考えたがフードを被った人間の方に移動した。





 

 ☆☆☆






 視界が明るくなり、少女は見たことない天井を見て急に起き上がる。だがこれまでのダメージもあって身体中が悲鳴を上げた。

 痛みに口を閉じながら苦しんでいると、様子を見に来たフィナが駆け寄る。


「だ、大丈夫?」


 フィナに気付いたのか、少女は怯えを見せる。フィナはそれ以上は近づいてはいけないと感じ取り、持ってきていた食事を机の上に置いて部屋を出る。少女は最初、食事に警戒していたが空腹が辛かったこともあってすぐに手を出した。


「……おいしい」


 出されたのはただのシチューだが、彼女にとって久々の食事。空腹ということもあって、ますますおいしく感じていた。

 食事を堪能している少女がいる部屋がノックされる。少女の返事を待たずにフィナが姿を見せ、続いてザンロウが入室した。


「急に済まないな、嬢ちゃん」


 ザンロウに対して少女は怯えを見せつつ「い、いえ……」と恐る恐る答える。


「ところで嬢ちゃん、君はこの辺りの子か?」

「……違います」

「そうか。それはマズいな」


 ザンロウが困り始めたのは理由がある。

 まず一つ、神殿が近いこの街ではとある事情から身分証の所持では絶対である。もし未所持が発覚した場合、それが神殿が近ければ近いほど重罪となり、知らぬという理屈は通じない。特にザンロウは立場的にそういう話をよく聞き、噂では犯罪者に仕立て上げて奴隷に落としたということも耳にしていた。

 それに加え、昨日に起こった2つのモンスターの異常出現。

 本来、彼らがいる街「ファウスト」とその周りをぐるっと囲む「ファウストフォレスト」にはそこまで強いモンスターは現れなかった。ホブゴブリンは度々見かけられたが、大体が斥候という扱いで単体行動が主なのでパーティ規模ならばそこまで苦戦しない。しかしブラックパルサーは別だ。

 ファウストフォレストにあるダンジョン内では目撃されていたが、ダンジョンの入り口には特殊な封印魔法が施されており、どれだけ強くてもモンスターが外に出てくることはあり得ない。それに加えてダンジョン入り口には要塞が構えられており、宿屋やよろず屋、本数は少ないが馬車も出ているほど活気づくほどで、今も交流は続いており、今朝確認したところ異常はないと報告されている。

 そんな緊迫状態である中、身分証を持たない一般人は早々に事態を収束させたい者たちにとっては格好の餌。ザンロウはベッドにいる少女をその餌にするつもりはなかった。


「……なら、ここで登録していかないか」

「? と…登録……?」

「幸い、ギルドで冒険者登録を済ませばギルドパスが身分証になる。ここで身分証を持っていなければ今後の生活を保障できない」

「………わかりました」


 少女も思う事があったのか、割と早く冒険者登録を済ませた。

 だがそれは、またザンロウを驚愕させる結果になるとはこの時誰も予想していなかった。






 ☆☆☆






 起きたら思いっきり怒られた。理由は言わずもがな、無茶のし過ぎだ。

 とはいえ報奨金はしっかりもらいました。ただ額に問題がありまして……。


「どうしてクイスさんと僕とでは取り分が違うんでしょうか?」

「あぁ。それはワタシたちはあの場でパーティ登録しなかったでしょ? 最初の1体はワタシたちで倒したと勘定しても、2体目はアナタ単独で倒したってことになるのよ」

「……あ」


 そう言えばあの時、普通に倒していたんだっけ?


「そういえば、パーティってどうやって組めるんですか?」

「例の端末、あれって「ギルドパス」とも言うのだけど、あそこでパーティ登録とかできるわよ」

「じゃあしてから行けばよかったですね」

「それに財産なんて気にしなくていいわ。ワタシ、これでもかなり貯めているから。100万や200万、気が付いたらあるわよ」


 なんて頼もしい人なんだろう。オカマじゃなければ引く手数多だったかもしれないのに……。


「ところでボウヤ、今日は冒険しないのかしら?」

「今日は街に言って散策をしようと思っています。土地勘がないといざって時に困りますからね」


 そう言うとクイスさんはどこか寂しそうに言った。


「確かに街の方だと色々と活気があるからね。行きたくなる気持ちはわかるわ……」

「あと、本をいくつか買っておきたいんですよ。魔法とか特技とか」

「でもマジックブックは中級以上は中々ないと思うわ。大体は成長して魔法を覚えていくものだし、スキルブックなんてダンジョンの中にしかないわ。市場で売られていてもかなり高い。探すならダンジョンに潜った方が早いわよ。それでも見つかる可能性は少ないでしょうけどね」


 言われて僕は納得した。それでも、街に行ってみたいと思った僕は街に繰り出した。

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