等しく好きな、誰にも理解されない三角関係のおはなし
乙夜の部屋の扉を開けると、乙夜と朔がベッドで寝ていた。
寝ていた、といっても眠っていたわけではない。
まあ、つまり……エッチをしていた。
みなまで言うなという話だけれど。
乙夜と朔はわたしの幼馴染だ。
乙夜はわたしの右隣、朔はわたしの左隣の家にそれぞれ住んでいる。
2人はわたしに気づくと驚いた顔で起き上がり、そのまま固まった。
あ、ご安心(?)を!!
素っ裸だけれど、角度と体勢のおかげで行為は見えても肝心の部分は見えてません。
しかもシーツで今もうまい具合に隠れてるし。
そういえば、玄関が開いていたからといって、勝手に上がり込んでノックすらしなかった。
乙夜に借りていた数冊の本がわたしの手から離れ、床に落ちる音で2人はわたしに気づいたのだ。
とんでもない状況……だと思う。
だけどわたし、わたしは……。
はっきり言って、ものすごく嬉しい!!
乙夜のことも朔のことも大好きだから、大好きな2人がそんなことになってくれていて本当に嬉しい。
「あの、ごめんなさい。どうぞごゆっくり」
わたしはそう言って、そっと扉を閉める。
自然と顔が緩んでしまう。
さて、簡単に説明しよう。
乙夜はクールな感じの寡黙な美少年、朔は可愛い感じの中性的な美少年である。
そしてかく言うわたしも、見た目だけはとんでもない美少女だった。
自分で言うな!! という突っ込みも、ここは甘んじて受け入れる。
何故ならこれまで生きてきて可愛い、綺麗だと言われなかった日は1日たりともないからだ。
わたしたち3人は某有名私立高校で『Bサンクチュアリー』と呼ばれ(Bというのはビューティフルの略らしい)、特別視されている。
また、それぞれにファンクラブがあり、何故だか日々ファンクラブ同士の諍いが絶えない。
自宅に戻り、そりゃ当然朔が『受』だろうよ、などと下世話なことを考えていると、乙夜と朔が揃ってやってきた。
わたしの顔は、2人を自分の部屋に案内しながらもずっとゆるみっぱなしだ。
朔は青ざめた硬い表情をしている。
乙夜は基本、表情があまりない人なので、普段と変わりないように見えた。
2人を部屋に招くも、わたしの部屋には椅子が1つしかない。
いつものように「ベッドに座っていいよ」と言ったら、躊躇いながらも2人は少し距離を取って座った。
「……さっきは、気持ち悪いもの見せてごめんなさい」
朔がそう言って勢いよく頭を下げる。
「そんな……。こっちこそ急に入って邪魔しちゃって……ごめんなさい」
わたしも謝ったけど、朔は頭を上げようとしない。
なんとなく部屋に気まずい空気が流れる。
「乙夜は……怒ってるよね?」
ずっと黙っている乙夜が気になり、わたしは尋ねた。
「怒っているわけがないだろう。どうしていいか……分からないだけだ」
「えっと!! 普通にしてていいと思う!!」
「男同士でなんて、気持ちが悪いと思わないのか!?」
「思うわけない!!」
そう言って、わたしは笑う。
「……何?」
乙夜は訝しげな表情で尋ねる。
「あのね……嬉しかったよ!!」
「は?」
「え?」
乙夜と朔の声は同時だった。
「だってわたし、どっちのことも大好きだもん。2人のことずっとずっと大好きだったから、大好きな人同士、大好きなのが嬉しい。2人には幸せになってほしい」
わたしははっきりとそう言った。
朔は困ったような表情でわたしを見つめている。
「千鶴が俺たちを好きなのは恋愛感情ではないのか?」
乙夜が聞いた。
「恋愛感情だよ。でもね、いいの。本当にどっちも同じくらい大好きだから」
わたしは笑って答える。
「そうか……。朔とこんな関係になってしまったから、もう永遠に伝えることはないと思っていた。だが、チャンスかもしれない。後悔……したくない」
「何のこと?」
わたしは尋ねる。
「千鶴、お前が好きだ」
乙夜は真っ直ぐにわたしを見ていた。
「ずるい!! それなら僕にも言わせて。僕も千鶴ちゃんのことが大好きだよ!!」
朔が立ち上がって叫んだ。
「え? 何? 意味が分かんない……。乙夜は朔が、朔は乙夜のことが好きなんだよね?」
「俺は……初めて会った時から千鶴のことも朔のこともずっと等しく好きだった」
乙夜が言った。
「僕も乙夜と千鶴ちゃん、比べられないくらい、どっちも大好き。小さいころからずっとね」
朔は優しく笑っている。
わたしはゆっくりと手を上げた。
「どうぞ」
速攻で朔はわたしを指さす。
「あの、乙夜も朔も男の人が好きなんじゃないんですか?」
わたしの当然の質問に、2人は同時に横に首を振る。
「え? あ、そっか。わかった!! 2人とも女の人もいける人、ということなんだね?」
「まあ、そうだか……」
乙夜が答える。
「そうだけど、なんかその言い方は嫌かな」
朔は赤くなりながら、乙夜の言葉の後に続けた。
「……つまり、2人とも恋愛感情でわたしのことを好きだと思ってくれてるの?」
2人は頷く。
さっきから、見事なまでのシンクロ。
「それは、じゃあ、わたしも混ぜてもらってもいいってこと?」
「混ぜてって……。千鶴ちゃん、僕たちと付き合ってくれるの?」
朔が首を傾げた。
「あ、2人のうちどっちか1人とかは無理だよ? それは絶対に選べないからね?」
「分かっている。俺も同じだ。朔が『僕たち』と言っただろう」
乙夜が答えた。
「そっか……」
「千鶴ちゃん、本当に付き合ってくれるの?」
「うん。わたしはいいよ。でも2人こそよく考えて? 嫌じゃないの? わたし、朔とも乙夜とも付き合うってことだよ?」
「それなら俺だって千鶴とも朔とも付き合うってことだ。朔は、俺が千鶴と付き合ってもいいのか?」
「僕は嬉しいよ。乙夜こそ僕が千鶴ちゃんとそういう関係になってもいいわけ?」
「勿論。逆に興奮する……」
「いいけど、そういうことをはっきりと口に出して言わないでくれる?」
朔が呆れた顔でそう言った。
「乙夜とも朔とも両想い。乙夜と朔も両想いだなんて幸せすぎるよ。それなら、これからも3人でずっと一緒にいられるね。すごく嬉しい……」
わたしは言った。
「そうか。思い切って伝えて良かった」
乙夜は緩く笑う。
「誰にも理解されなくても構わない。こんな幸せなことってないよね。千鶴ちゃん、受け入れてくれて本当にありがと」
朔はそう言うと、わたしを抱きしめてキスをした。
軽いの……だよね?
と思ったら長い……。
しかも慣れている。
……そりゃ……そうか……。
なんか……熱いし、クラクラしてきた。
初めてなのにいきなりこんな本格的なキス……しないでほしい。
「……やばい。ホントに興奮する」
横で見ていた乙夜が俯いて、自分の首に手を当てる。
力が抜けたわたしを支えながら、
「だからそういうこと、口に出して言わないでくれる?」と朔が笑った。
「交代して?」
乙夜は朔を見ている。
わたしは精一杯の力で朔を押すと、彼から離れた。
そして乙夜に向かって首を振る。
当然左右に……。
「俺はダメなのか?」
「違うの。心の準備とかいるし、そもそもこっちは全然慣れてないんだから、急にするのはやめて?」
「……かわいい」
乙夜が真顔でわたしを見て呟く。
「ごめんなさい。つい嬉しすぎて……。えっと、これからはちゃんと承諾得てからするね」
落ち込んだ様子の朔が言った。
「は?」
乙夜はそう言うと、勢いよくわたしの腕を取る。
そして……素早くキスをした。
「朔とだけするなんて不平等だろう。とりあえずこれで平等だ」
乙夜は舌で自分の上唇を舐めた。
その見たことのない表情と仕草、なんだかすごいヤラシイ……。
平等……。
それは……そうかもしれない。
けどキスが嫌とかそういうことではなく、2人が勝手すぎて頭にくる。
「今後、エッチなこと……しばらくしないでね」
わたしは怒りながらそう伝える。
「え? なんで?」
朔が驚いた顔で聞いた。
「いつまで待てばいいんだ?」
乙夜の質問にわたしは、
「5年くらい?」と答える。
「待てるか!!」
「待てない!!」
2人はまた見事なシンクロで叫んだ。
初めに掲載したラストからだいぶ加筆しまして、結局コメディ寄りで締めました。
エロとコメディのバランスが難しくて、今の私の腕ではこれ以上うまく直せません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。