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第3話『謁見───Audience』

遅れて申し訳ありません

「………っし、お前ら。とりあえず落ち着こうか」

 ぱんぱんっ、と両手を鳴らして、動揺するクラスをまとめたのは、先生だ。

「はい気をつけー、やすめー、しんこきゅー」

 と、先生が緩いノリで指示を出すと、クラスの連中にも落ち着きが戻っていく。

 先生はそれを満足そうに見てから、ロバートと名乗った老人に近づいて、声をかけた。

「ロバート・ディナーダさん……でしたよね。俺はこのクラスを担当している教師の、大太刀(おおたち) 新夜(あらや)です」

「敬称は余計で御座います、オオタチ様。私めのことは、下賤の者と思っていただいても構いません」

「そういうわけにも行きませんよ。……生徒達(あいつら)の教育にも悪い」

 ん?

 なんか今の問答、違和感があったような………。

 いや、気のせいか。

 とかく、そう先生が冗談めかしていうと、ロバート翁は控えめに笑って、

「ふ……わかりました。それでは僭越ながら、そう呼んでいただきましょう」

 と言った。

 先生はここで、自分の中のスイッチを切り替えるように、軽く咳払いをしてから、

「それで、ロバートさん」

 と、話を切り出した。

「はい、何なりと」

「単刀直入に聞きます。ここはどこで、あなたがさっき言った言葉の意味はなんですか?」

 するとロバート翁は、

「ええ、そのあたりの事情につきましては、我々も今から説明させていただくところ。ですが、その役は私どもでは、いささか役者不足というものでございます」

 と言ってから、続けて、

「どうぞ、こちらへ。王がお待ちです」

 と、俺たちの方を見やりながら、歩き出した。

「……先生、どうするんですか?」

「あー……いくっきゃねえだろ。最悪の事態も考えて、ここはあっちに進行のペースを握らせたほうがいい」

 剣崎の問いに、後頭部をガリガリと掻きながら、先生は答える。

「とりあえず、お前ら。男子一列女子一列で整列。なにがあるかわからんしな、しっかりと体裁は整えてくぞ」

「「「はい!」」」


 ─────────────────────


「…マジか………」

 そう呟いたのは誰だっただろうか。

 ロバート翁に促された先には、幅の広いレッドカーペットが敷いてあり、その左右には大勢の人間がいた。誰も彼もが、中世ヨーロッパの肖像画に出てきそうな、高貴さを前面に押し出した服やドレスを身につけている。

 なにより、である。

「…なぁ、親友。……アレ、ってよ」

「ああ、アレだな」

 なにげに親友呼ばわりしてくる石橋に、若干のイラつきを覚えたが、それはスルー。

 レッドカーペットは、二人の兵士が控える低い階段を通って、1つの椅子を乗せている。

 純金の骨組みに、紅い背もたれと台座。

 玉座だった。どこからどう見ても。

「では、ここでお待ちください。国王陛下がお見えになられます。それと、敷物の中心の道をお開けくださいませ。国王陛下が御通りになられますゆえ」

「あ、はい」

 先生は大袈裟に肩を跳ねさせてから、生徒達に二列の整列を促し、さらに列と列の間を少し開けさせた。若干緩みかけていた雰囲気が、誰か何か言ったわけでもないのに、ぴんと張り詰めた感じがした。

 うーむ、ここはやっぱり合わせた方が良いよなぁ。

 そう思い、周囲に合わせて背筋を伸ばす。

「国王陛下、並びに王太子殿下、御入内」

 衛兵がそう言うと、周囲の人々の雰囲気が変わる。

 と、後ろに気配を感じる。

 敷物を踏んで、優雅な足取りで、二人の人物が、僕の横を、僕らの間を通って歩く。

 やがて階段を登りきり、先を歩いていた人物が玉座にゆっくりと腰を下ろす。もう一人はその左横に、寄り添うように立っていた。

「───我が名は、ディオガ王国第49代国王。エドワード・トゥルア・ハル・ヴォールト・ディオガである」

 威厳に満ちた声だった。

 玉座に座った声の主を、改めて見やる。全体として中年を通り越して初老という印象を受け、顔には深い皺が刻まれている。頰はややこけていて、頭髪はやや薄く、白髪混じりの赤髪。そしてその頭に乗る小さく、輝く金色の冠と、身にまとった金細工が施された服やマントが、この人が、この場にいる誰よりも高貴な人間なのだと示していた。

(みな)に集まってもらったのは、ほかでもない、例の計画の成立。そしてその成果である、異世界からの勇者とその仲間達を紹介するためである」

 と言って、すっと僕たちの方を手で指して、

「見るがよい。彼らこそが、ロバート以下、神聖教会の精鋭達によって異世界から召喚された、悪魔どもを討ち滅ぼす勇者達である!」

 おおっ、とどよめきがあがる。

 と、すっと僕たちのクラスの中に、一人手を挙げた奴がいた。

「質問、よろしいでしょうか」

 少し震え方だけど、その堂々とした喋り方と爽やかさは、間違いない。

 剣崎総助だ。

「構わぬ。それと、必要以上に畏まった姿勢も不要である」

 エドワード王の言葉の後半が少し余裕を生んだのか、剣崎は深呼吸してから、幾分か落ち着いた様子で質問した。

「俺達は、どうしてここにいるんですか?俺達をここに連れて来たのは、貴方達なんですよね?」

「む?」

 質問を聞いたエドワード王は怪訝そうな顔で、

「ロバートよ」

「はっ」

「貴様、説明しておらんのか」

「は。事が事、相手が相手です故、恐れながら陛下にお任せしたく」

「ふむ………良かろう。貴様の立場では詮無い事よな。………時に勇者の使徒よ、貴様の名はなんという。余はまだ、そちの名を知らぬ」

「剣崎総助。剣崎が性で、総助が名前です」

「では、ケンザキ。そしてその盟友たちよ。単刀直入に言おう」

 エドワード王は、ここで一拍おいた。

 僕たちの間の緊張が高まっていく。

 ごくり、と唾を飲む音が聞こえた。

「貴様らが何処から来たのか。それは知らぬ。しかし確実に言えるのは、貴様らをここに召喚したのは余で、この世界は貴様らの世界ではない、ということだ」

「………え?」

 漏れ出た声は、誰のものか。

「どういう、ことですか……?召喚って…」

「ふむ、聞きなれぬか。要は呼び出したということだ。空間を超えて、強制的に、な」

 ザワッ!

「え?嘘だろ、違う世界って」

「お、俺見たことある!異世界召喚、だっけ。こういうの」

「バカ!アレはフィクションだ」

「で、でも今あの人たしかに召喚って……!?」


「静粛に!」

 カツン!と靴を鳴らす音と、空気を裂くようなハリのある声に、ざわめきが止まる。

 みると、王の隣にいる男性が僕たちを見据えていた。

「貴方方は、この場で陛下を除けば最も尊き存在。ですが、だからと言って王に対し、過ぎた無礼が許されると言うわけではありません」

 言葉を区切り、小さくため息をついて緊迫した空気を緩めてから、

(ゆめ)、お忘れなきよう」

 と締めくくった。

「ご苦労、ヘンリよ」

「は」

 ヘンリ。そう呼ばれた男性は軽く一礼する。

「そしてケンザキと盟友たちよ。混乱する気持ちは当然である。しかし、一々話の腰を折られては、話が進まぬのもまた事実。まずは聞き、手元に置くがよい。一度手に持った情報を呑み下すのは、後ですれば良い」

「「「………」」」

 黙り込んだ生徒たち。王というだけあって、高校生の集団くらい黙らせるのは簡単ということか。

 かくいう僕も、ビリビリとしたプレッシャー───言うなれば、オーラとでもいうものを肌で感じている。

 あの教室の魔法陣のそれとは違う。無軌道な力の本流ではなく、確かな意図を持って服従させようとする、まさに王の気迫。息苦しさすら覚える。

 しかし───異世界召喚、ね。

 もちろん、あの石室を見た時から予想はついていた。先生や剣崎は言葉の端々から鑑みるに、集団誘拐やその辺の線を疑っていたようだけど、ぶっちゃけ無い。

 考えても見て欲しい。

 教室に突如出現した光る魔方陣。

 一瞬の光とともに、見知らぬ場所に移動したという事実。

 これらを『集団誘拐』なんて言葉で片付けるのは───いや、そもそも日本という科学の発展した国の常識で考えるのは、まず不可能だ。

 それでも論理的な考えを保つべきなのかもしれないが、あいにく僕は拗らせたオタク。

 常識を排除して考える方が好みだ。

「さて、では続けるとしようではないか───」


 ─────────────────────


 この世界には、『魔界』というものがある。

 魔界はどこにあるのか分からず、一説にはこの惑星とは違う位相にあるのではないかとも言われている。

『ゲート』と呼ばれる異空間をつなぐ扉を使い、魔界の住人はこちらの世界に現れる。

 そして、その魔界の住人。彼らを、『悪魔』と言う。

 悪魔は残忍で殺戮を好み、強大な力を持つ人類の天敵である。

 そんな悪魔の王、すなわち『魔王』が出現したという神託を受けたロバート翁は、その導きに従って、魔王を倒す者───即ち、『勇者』を異世界から召喚した。


 と、まぁ要約すると、そんな話だった。

 しっかし…これまたテンプレな……。

 と、僕が内心苦笑していると、

「待ってください!」

 大太刀先生が、顔面蒼白になり、叫ぶように声をあげた。

「待て、とは?」

「コイツらは……コイツらはまだ高校生、16、7の子供ですよ!?」

「それで?」

「それでって……!そんな危険な戦いに巻き込まれて良いわけ無いでしょ!?」

 エドワード王に、先生は悲壮感すら感じる様子で絶叫する。

 ───あぁ、この人は、いつだって。

 ふと、少し昔の事が頭に蘇る。

 だが。

「くだらん」

 先生の悲痛な願いは、そんな端的な言葉で両断された。

「な………!?」

「16、7歳だと?とっくに体は成長しきっておる。それよりも幼き齢で戦場に出る者も、武功を挙げた者すらいる。貴様らが剣を握る上でなんの不満、不備がある」

「あ、あんたたちとこの子達は、何にも関係ないじゃないか!」

「そうとも、関係ない。だが敢えて言おう。()()()()()()()()()()()()()()()()()

「些事………だって?」

「いかにも。余は世界を救う方法を、ただ実行したに過ぎぬ」

「そんな無責任な………ッ!」

 いまにも掴みかかりそうな剣幕で、先生はなおも言い募ろうとする。

「先生」

 が、それを1つの声が制止する。

「剣崎………」

「それにみんな」

 一呼吸。言いたいことを整理するように、一呼吸おいてから、剣崎は言葉を紡ぐ。

「俺は……話を、聞くべきだと思う」

 そのたった一言が、みんなに与えた衝撃は凄まじかった。

 だが、誰かが声を上げるよりも早く、剣崎は言葉を繋げる。

「確かにこの世界の出来事は、俺たちには関係のないことかもしれない。それでも、俺はもう知っちゃった。だから放っとけない。みんなが嫌だっていうのはわかるし、それでも良いとも思う。だから───」

 と、そこでエドワード王の方へ向き直る。

「王様、お願いがあります」

「ほう、申してみよ」

「俺以外のみんなに……『辞退する権利』をください」

「……一応理由を聞いてやろう。何故だ」

「戦えない奴だっている。でもそれは悪いことじゃない、ちょっと状況に追いつけてないだけだ。俺はそれを否定したくない。だから、俺がやります。辞退する人の代わりは、俺がやります」

「……ふむ、良かろう」

 エドワード王の返事を聞いた剣崎の顔が、ぱっと明るくなる。みんなもホッとしたようなため息をつく。

「ただし」

 が、その安堵は次の一言で遮られることとなる。

「一人だけ、その権利を認められぬ者がおる」

「その一人、って?」

「ロバートめに召喚を行わせた者本人。すなわち、勇者。その人である」

 再びみんなの間に緊張が戻る。

「では、これより勇者御一行様には別室に移っていただき、『鑑定』を受けていただきます」

 と、エドワード王の後ろにいた、ヘンリさんが一歩前に進み出て、1つ咳払いをしてから、俺たちに語りかけた。大太刀先生が疑問を投げかける。

「『鑑定』とは?」

「簡単に言うならば───勇者が誰なのか確かめる、ということです」

お楽しみはこれからだ。


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