第六部
もう第一章終わりです
《艦長より達する! 輸送隊は目標地点に到達。関係分隊は配置につけ。全周警戒を厳となせ。繰り返す。輸送隊は目標地点に到達。関係分隊は配置につけ。陸自の方に知らせる。ここは、磁場が大変不安定である為、気分を害された方は、近くの海上自衛官にお知らせください》
少し前までは肉声で議論を続けていた艦長の声が、今度は機械音声で聞く事となった。
私は即応出来る様に、下着の上にタンクトップと短パンを身に付けていたので、そのままその上に戦闘装着セットを装備した。完全装備だ。しかも今回配られたのは、防弾チョッキⅢ型であるので、余計ごつく見える。
第一中隊、中隊本部班は、点呼を終え甲板に出た。夜の帳はすっかり下りていた。
夜春はああ見えても第二小隊長を務めているので、今は小隊をまとめているのだろう。唯一人、夜春が居ないだけで凄く静かに感じる。疲れない事は良いのだが、若干の寂しさはある。
急な事態に即応出来る様、揚陸の目途が立っていなくても大型に乗り込むことになっている。
今回も同様に、鈴宮が運転する。
……しかし、全身の毛が妙に逆立つ。気持ち悪い。これが、磁場の歪みの影響?
我が第一中隊は、全員、大型に乗車したと報告が入った。
暫く波に揺られながら、待機する。何とも不思議な感覚だ。
……嫌な感じが抜けない。全身にまとわりついてくるようだ。足にくるくると螺旋状に駆け上がってくるような。
それを不本意ながら受けていると、隣で物を打ち付けた音がした。そして、私が乗る大型のクラクションが鳴り響いた。
私の隣にいる鈴宮が、ハンドルに突っ伏している。
この状況を理解出来ない私は、焦燥感にかられた。
「す、鈴宮! おい!……寝た……のか? いや、違うよな? だって、鈍い音がして……あっ、衛生! 衛生! 医官でも良い! 現在地、来てくれ!」
私が喚いても、誰も反応しない。それどころか、人の気配すらしない。
そんな恐怖の渦の中、唐突に私の意識は水底へと落ちていった。
「……え? え?……うぉぉぁぁぁぁあああ!!」
突然の大声と、体に来た衝撃で目を覚ました。
反射的に私も、大きな声で反応してしまう。
「ど、どうした! 何があった?!」
大型の車内で体を起こす。
目の前には、顔の頬を赤く染めた鈴宮が目を大きく開いている姿があった。両掌を私に向けて、わなわなとトラックにしては広い運転席を持つ大型の車内で、極力私から離れようとしている。
そして突然、言い訳を始めた。
「い、いや!……その、愛桜隊長が僕を覆うようにして寝ていたから」
「へ?」
わ、私が鈴宮に……? あ、あれだ、鈴宮がいきなり寝たように動かなくなって、鈴宮の顔を覗き込んでいたけど、それで私も……
状況を理解していく内に、急激に頭に血が上っていくのが分かった。勿論、怒っている訳ではない。ただ、恥ずかしいだけで。
《水上戦闘用意!》
遠方から放送が聞こえてきた。もっと耳をすますと、断続的なブザー音も聞こえる。どうやら、前方の護衛艦から発せられているようだ。というより、何なんだ? さっきまでは、夜だったはずだ。
まさか、不意に寝てしまったことで一夜を過ごしてしまったのか?
「愛桜隊長! 右方向、護衛艦より発光信号!」
「確かに」
「我……拡声器故障ノ為、目標……ニ警告出来ズ」
「何? 鈴宮は、発光信号を読めるの?」
「やだなぁ。言ったじゃないですか。僕はモールスが読めるんですよ」
あ、そういえば、確かに幹部課程でそんな事も習ったかも。
《達する! 中即連連隊長、第一中隊、施設中隊長、戦車小隊長は、至急艦橋に集まられたし!》
放送は早口だった。
これを聞いた私は、有無を言わず大型から飛び出した。
甲板にぎっしりと詰められた車両の間を縫うように進んだ。とうとう艦橋構造物にたどり着くと扉を開け、階段を確認した途端駆けた上がった。
「新渡戸さん! あなたはもう起きましたか」
「え?……ってことは」
私は、息を整えながら艦長に向いた。
「はい。艦橋の乗組員も全員、気絶状態にありました。一人が起きたことで、全員が再び目を覚ますことが出来たのですが……やはり、まだ眠っているところもあるようです」
荒かった息が段々と整っていき、私は余裕が出てきた。改めて、艦長を見た。
すると、必然的に艦橋の外が見える。
驚くべき光景に、私は一歩後退りした。
「新渡戸さん。我々は、どうやら本当に異界に飛ばされたようです」
そこには輸送隊を囲む、木造船。ガレオン船のような船の甲板では、人が右往左往している。
正確にはガレオン船ではないのかもしれない。ガレオン船には詳しくないが、船体がガレオン船というより大和みたいな戦艦に近い形をしている。ただ、帆を使って動くようで、私達を囲む船には大きな柱が何本も貫いている。
《こちらは、海上自衛隊である。貴船は、我の航行を妨げている。直ちに、包囲網を解除しなさい》
《This is Japanese Navy. This is Japanese Navy. You are blocking my progress. Unlock the siege immediately.》
《这是日本海军。这是日本海军。你阻止了我的进步。立即解锁围攻。》
《이것은 일본 해군입니다. 이것은 일본 해군입니다. 당신은 내 진행을 막고 있습니다. 즉시 포위망을 풀어 라.》
《Это японский флот. Это японский флот. Вы блокируете мой прогресс. Разблокировать осаду немедленно.》
輸送隊護衛艦による警告が始まった。四ヶ国語での警告だ。
十分程だろうか。海上自衛隊は相手の様子を窺っていた。相手が帆船ということで、猶予を持たせたのだろう。
すると、驚くべきことに輸送艦隊を囲んでいたガレオン船は我々にコンタクトを取ろうとしたのか海上自衛隊と同様、話しかけてきた。拡声器を使っているのか、相手も声で交信して来た。
だが、少なくとも私には相手の言っていることが分からなかった。英語の発音ではない。ヨーロッパ語圏でもなさそうだ。
この状況で分かる事は一つ。相手は日本人ではないということだ。
"相手"の正体とは一体?
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