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異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~  作者: ス々月帶爲
第三章 自衛隊の在り方(前)
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第十八部

前回から本の少し、時間が飛んで居ます。


 第一中隊本部所属のパジェロが、砂を巻上げて停止した。イリューシャンは、それで()せてしまって居る。

 時間が無い。直ぐ降りて、塹壕に併設されて居る防衛線指揮所に入った。

 此処も連隊指揮所と同様、掩体であるが、その壁は金網で成形され、不織布が金網に若干食込(くいこ)んでいる。一方、連隊指揮所は巨大なコンクリートブロックで構築されて居た。

 防衛線指揮所を形作るのは、ソイルアーマーと云う2010年以降に導入されたかなり新しい装備品で、使用しない時は畳める為大量に持運(もちはこ)ぶ事が出来る。使用方法は至って簡単。基礎用、上部用共に、畳んでいたソイルアーマーの(かわ)を展張し、その中に土を詰めるだけ。基礎用は壁に使用され、上部用は天井として使用されている。

 これを組合わせれば砲弾すらも防ぐ事が可能で、持運びが簡単、加えて築城が早く終ると云う万能装備品である。


「新渡戸さん。すみません。築城に手間取ってしまって……最悪三十分の遅れが出る可能性が」

「不味くないですか? それ」


 指揮所に入った途端、施設中隊の黒鎺さんが謝罪した。にも関わらず、私は彼にプレッシャーを掛けてしまう様な返しをしてしまった。


「応援出します」

「有難う御座います!」


 私が即座に思い立った言葉に対して、黒鎺さんは深い御辞儀で返した。

 間に合いそうにないなら、全勢力を投入する迄だ。

 広多無携帯用Ⅱ型、片手で持てる無線機を手に取った。もう既に、此処()一帯は師団通信システムの様なネットワークが構成されている。


「こちら新渡戸。一中隊本部、感明送れ」

「はい。こちら、一中隊本部。感明良好」

「京谷か。一中隊は、只今を以て施設中隊の支援を開始する。各小隊はこれより、黒鎺二佐の指揮下に入る」


 京谷の返信は、現代女子高校生のメッセージ並に速かった。


「本当に、恩に着ます!」


 黒鎺さんはそう言うと、スロープの様な地図を乗せる台の目の前に置かれている椅子に腰掛けた。キャンプで使う様な折畳式の小さな物だ。地図は、連隊指揮所に掛けられていたそれと同様のものであるが、そう云えば詳しく見て居なかったので、私もそれに近付いた。

 流石に、特設の指揮所は連隊指揮所に比べると見劣りする。床面積も相当小さいだろう。そんな指揮所に惜しげも無く中央に置かれているのが、地図を置く台である。

 地図は白黒で、等高線や地図記号等の必要な物は欠かさず記入されている。黒鎺さんの視界に入る程、その地図を詳しく見ると、将来障害が敷設される位置に印が付けられている事が分った。又、既に敷設された障害に就いては、この様子だと恐らく実際の位置と寸分違わぬ様、定められた記号を記している。これは、味方が我の障害で被害を被ったと云う恥を晒さない為だ。

 地図には、透明のビニールが被せられ、ペンで直接描いても地図が汚れない様に成っている。

 そして、障害の他にも、間も無く攻撃開始時刻が訪れる第ロ作戦の行進経路等も記されていた。

 さて、ここからは私達のターンだ。

 一般的に「作戦」と言われて想起させられるものは、師団や旅団、連隊クラス以上が立案する大規模なものだ。我々中隊は、下達されたそれをその儘何も考えずに実行すれば良い訳ではない。それが許されるのは、下士官位迄だ。作戦目的を十分に考慮しつつ、詳細な展開地点、展開方法、部隊配分等々を考えなければならない。


「一中隊は、蛸壺の支援を!」

「一中隊、一中隊。こちら施設中隊。一中隊は――」


 黒鎺さんの命令で、彼に背を向けて通信機器を弄っていた隊員が、応え、下達した。

 黒鎺さんは、早速私の部隊を使役した様だ。


「新渡戸たーいちょ!」


 唐突に溌剌(はつらつ)な声が聞こえ、驚いた。刹那、声が聞こえた途端に身構えれば良かったと後悔した。後悔先に立たず。体当りを受けた。


「いやぁ、御久し振りですねぇ!」

「杉田……」


 一瞬、怒りが湧いたが、それよりも優先される感情が在った。

 叱責しようとした口を(つぐ)み、新たに言葉を紡いだ。


「怪我は無い? 大丈夫だった?」


 もう二度と、特にこいつの前では、宇野曹長の前で気持ちを吐露した様に、感情的には成りたくない、その一心であくまで平穏を貫いた。


「ちょっと……えっと、貴方本当に新渡戸隊長ですか?」


 杉田は、顔を見れば何を思っているのか直ぐに分る。顔に心情を速記する人を雇って居るのではないかと思う程だ。

 だからこいつは、疑いと軽蔑の念を私に向けて居ると云う事は直ぐに分る。

 然し、大人な私は、つい先程まで陣頭指揮を執っていた杉田夜春と云う(いち)小隊長に対して、怒るなんて愚かな事はしない。きっと、彼女も疲れて居るのだろう。


「勿論。杉田夜春。貴方の中隊長ですよ」

「え、気持ち悪い」


 奴は、そう淡々と口にした。


「……はぁ」


 此奴(こやつ)を心配する方がおかしかったのかも知れない。

 私は只只、後悔する事しか出来なかった。


「えっと、そろそろ宜しいですか」


 声のした方を見ると、最先任上級曹長の宇野曹長に中隊本部班の墨田、第一小隊長の鈴宮、第三小隊長の菅沼が居た。

 この戦闘、本当に長く感じて居たので、思わず「久し振り」と声を掛けそうに成る。


「愛桜隊長。各小隊の隊員は、既に施設中隊に隷属して居るので御安心を」


 鈴宮が付足す様に言った。


「分った。じゃあ、こっち来て」


 彼等に、集合を促す。彼等が来たのは、勿論、命令を下達される為である。もしそうで無かったとしても、結局私から呼出(よびだ)して居たので変り無い。

 さっき迄、指揮所に設置されている無線機の電纜(でんらん)追掛(おいか)けて居たイリューシャンが何時(いつ)の間にか隣に来て居た。あれは、指揮所が電波に因って位置の解明をされたり、それで航空攻撃等に晒されたりしない様に、此処から離れた箇所に敷設した空中線に走って居る。此処から、終着点を探り出すのは、埋設された電纜を地上に引き張り上げながら辿らない限り、殆ど不可能だ。

 彼女は、手招きをして自分に耳を近付ける様指示した。

 私は、望み通り、耳を差し出した。


「さっき貴方に体当りしたあの方、杉田さん……でしたっけ?」


 無言で頷く。


「あの方、何か(わたくし)の胸に引っ掛るのですよね。仲間であると信頼するのを私の中の何かが拒絶するのです……」


 イリューシャンは、何とも拍子抜けする事を言った。そして、私は言葉を失う。

 何故、イリューシャンはそんな事を言うのだろうか。もしかしたら、私達を内部から崩壊させようと目論んで居るのかもしれない。その様な事迄、頭を(よぎ)った。


「何で……?」


 対面して、そう言った。

 理由を求める事しか出来なかった。


「これでも(わたくし)達、貴方方人間と違って、第六感は健在なのです。故に魔法を扱い易いと言われますが、頭脳は人間には若干劣ります。『天才』の基準が少し違うのです」


 と言う事は、只の感なのか? でも、動物の感は侮れない……。


「然し、疑問に思うのが、『何で先程入浴した時は、そう感じなかったか』です」


 確かに、イリューシャンと杉田は先、私と一緒に入浴して触れ合っている。

 今、触れ合っても居ないし、話してすら居ないのにそう感じたのだから、入浴時に気付かない方がおかしい。

 イリューシャンの言う事が、正しければ、であるが。

 今は、この不安要素は無視し、下達しようと思う。

読んで下さり有難う御座いました。


遂に、三月末日で御座います。

予告して居た通り、三月生まれの私は、明日着隊と成ります。投稿頻度が如何成るかは、やってみないと分りませんが、今よりも開く事は明らかでしょう。


それでは。


追記。着隊迄にこの章を終らせると豪語したのにも関わらず、それが出来ませんでした……申訳御座いません……。

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