第六部
最近、疲れやすくなりました。
気圧の差のせいか、こちらに風が向かってきた。私のミディアムヘアがたなびく。
「さながら、ラスボスの降臨、かなぁ」
よく、勇者が魔王と戦うRPGゲームの自慢をしてくる巻口連隊長が言った。ファミコン世代からのゲーマらしい。
「よくぞヴァルキリーに来ましたね」
前に鈴宮に見せてもらった、アニメに出てくる魔王のような荘厳さだ。巻口連隊長の言葉が過言には思えなく感じた。
「叔父様!」
私達が身動ぎせず立ち止まっている間に、パジャシュは開いた扉の部屋の奥、玉座に向かって走っていってしまった。しかも、叔父様……? えっと、さっき、桐の父親が、パジャシュの父親でもあると主張して、今度は国のトップである帝書記長がパジャシュの叔父? って事は、桐眞さんは一体この世界で何をしているんだ?
「あ、ちょ、こら。今は客人の前だから」
ん? 今までの帝書記長の威厳を見せつけるかのような低い声は?
「大丈夫! 巻口連隊長殿はここの世界の人じゃないから!」
「そんなの分からないじゃないかぁ……。え……? と言う事は、あれは成功したのか?」
「そうよ?」
「つまり、この方々は…」
「神の概念を召喚しようとして現れた人達。神……いえ、同じ人間みたいだしこう言った方が良いかもね」
パジャシュがまた、おおすみの艦上で見たあの“猛禽類の目”をした。
「伝説の守護者様、と」
静かに、それでいてしっかりと言った。妙に心に刺さる。
「また、昔話をした方が良いのかな?」
自衛隊が活躍したのは、航空自衛隊F-35Aの桐編隊だけじゃなかったのか?
「お父様が来たほぼ直後。お父様がやっつけた神が、私たちの街を混乱に陥れたと勘違いして、スパル皇国が攻めてきたの。国民が混乱している今なら、ビルブァターニを落とせると思ったのかな? スパル皇国は、ビルブァターニの南西部国境に位置する海峡の殆どを領域の中に取り入れている。けど、前代帝書記長の合併政策により、ゴミダ閘門を南西方軍管区が占領したの」
この世界では、最近まで戦争を行なっていたということか。
「その閘門を取り返そうと、スパル皇国が……」
巻口連隊長が納得するように言った。
「そう。それで、ノーザン海峡海戦が発生した」
「この戦争に関しては、参戦した私が語った方が良いだろう」
もう威厳を見せつけるのはやめにしたようだ。優しく、それでいて芯が通った声がした。
帝書記長は座りながら身を乗り出した。すると、帝書記長の顔を窓から入って来る光が照らした。“帝書記長”という名前から先入観で怖い顔か、人を苛つかせるような顔をしているのかと思ったが、意外と優しそうな、穏やかな雰囲気を醸し出している。
しかも、割と整った顔立ち。
「私は、ノーザン海峡海戦の時、聯合艦隊旗艦である魔動式巡航砲艦『シクシン・ブルゥス』に艦長として乗艦していた」
と言うことは、帝書記長は海軍出身者なのか。
「我々は海峡へ侵入していく。敵はそれを海峡の内側で待ち伏せる。海峡には一隻ずつしか入れないから、聯合艦隊は劣勢を極めつつあった。すると、辺りを霧が覆い始めた。視界が悪くなるというのは……やはり恐怖心を掻き立てるものでね。私は怖気づいてしまった。笑えるだろ」
帝書記長は、自分で自分を笑った。
「そしたら……霧の中から何が出てきたと思う?」
思わず、顔を右に向けてしまう。中学生からの癖だ。
巻口連隊長と目が合った。何も分からない、と目で訴えている。
帝書記長は、私達がそれが何なのかを閃く前にこう言った。
「海上自衛隊と名乗る者たちだ」
と。
その言葉で、今までの混沌とした情報が組上がっていく音がした。
私達より先に“この世界”へ来ていた航空自衛隊、海上自衛隊。最初にこの世界へ来た、F-35Aの活躍。ノーザン海峡海戦に出現した海上自衛隊……海上自衛隊で消失した艦は、ありあけしかないので恐らくそれだろう。確実に分かったことが一つだけ。
みんな、この世界に来ている。
私達の世界とこの世界は、何らかの繋がりを持っているのか。偶然か。確か、私達が来たのはパジャシュ達が神の概念を召喚しようとしたから?
ともあれ、伝説の守護者とは、恐らく二つの出来事における自衛隊の活躍により、そう呼ばれるようになったのだろう。
「そ、その、海上自衛隊というのはもしや、ありあけ……では?」
巻口隊長が恐る恐る聞いている。真実を知り、頭の中の情報が組上がっていくのは、何故か恐怖を覚えるものだ。
「そうそう! ありあけ。確か、ありあけの調理師が交流のために訪問しているよ」
「え?」
私達三人は、同時に呆気にとられた。
「噂をすればなんとやら。もう、朝食の時間のようだ」
私達がさっき入ってきた扉から、一人の男が料理をトレーと一緒に持ってきた。
「朝から公務、お疲れ様です。朝食をお持ちしました。鶏肉に似たお肉を見つけたので、唐揚げと言うものを……」
目が合った。トレーを持つ手が震え始め、食器がガタガタと震える音が鳴り始める。
「じ、自衛隊? しかも、陸自……?」
声も震えていた。
「所属と名前は」
巻口隊長が、冷静に質問した。
それを聞いた、ありあけの調理師は、目に涙を浮かべ言った。
「か、海上自衛隊……第一、護衛隊群、第五護衛隊……ありあけ……補給長、山口晋哉一等海尉……!」
読んでくださりありがとうございました!
昔話ばっかりですみません