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自習屋in異世界  作者: 景鱗
6/9

5話


 目が覚めてまず行ったのは、昨日の夜から気にはなっていたコーヒー豆の在庫じゃった。


 わしはこの『自習屋』にて喫茶をしとる。


 菓子を作るための砂糖やコーヒー豆、日常で使いたいパンや胡椒のこの世界の存在価値には驚きを隠せなかった。


 昨日の夜、リットさんの商業ギルドより家へ帰ろうと思った際、リットさんのギルド内には商業と言うだけあっていくつかの店舗も並んでおった。


 そこでは胡椒ではグラムで金貨何枚、砂糖はグラムで金貨何枚、と書かれており、わしの家で出すにはちと厳しい価格設定じゃった。


 喫茶となるとストレートでのみ紅茶を出すわけにも、味気の無い茶菓子をお客さんに出すわけにもいかない。


 わしの家は『自習屋』であるため、勉学しに来る者は頭を使う。


 頭を使うと確実に甘いものを必要とする。


 更に集中するためにはコーヒーが良く効く。


 チョコレートが一番いいんじゃが、今は手元にない。


 故に砂糖とコーヒー豆の死活問題だけは避けねばならん。



 エレベーターもといワープホールに体を通り抜けさせる。


 何度やってもこの方法は慣れん。


 わしの思考を読み取って行きたい階層に連れていってくれるのは良いが、入る途中の膜のようなものを突っ切る感覚に慣れるのは少々期間がいるじゃろう。


 それはそうとコーヒー豆はよく取り出したりするもの故手前に置いておったはずなんじゃが……?



 どこへ置いた?



 わしが若い頃に行って集めてきた様々な種類のコーヒー豆が置いてあった場所には何やら見慣れぬ白い箱。


 わし、こんなとこにこんなもの置いたかのぅ?


 ここに置いてあるということはわしが必要だと思って置いたものなので、中身を出して部類別に分けておく必要が出てくる。


 段ボール箱のように開けるその大理石のような素材でできた箱を開けると、中はその箱に見合わず底の見えない真っ黒な空間じゃった。


 思わず放り投げてしもうたが、その黒い空間は箱の中にのみ存在しているようで、傾けても逆さまにしても落ちてくることはなかった。


 見た目は黒い靄のようでドライアイスの黒い版といえば伝わるじゃろうか?



 いつまでも放り投げていても中身を見なければ話にならない。


 恐る恐る手を箱の中の入れ込む。


 不思議とドライアイスを触るような感覚もないが、箱の中に入れた手は黒い靄の阻まれて見ることができない。


 それにこの箱はどこまでも入るようだ。


 一向に箱の底に手が届く気配がない。


 すると手に何らかの感触があった。


 急いでその物体を引き抜くと、わしの手に収まっていたのはいつも挽いているコーヒー豆じゃった。


 一粒だけ握っている状態なのでもっと取り出そうとすると箱のふたの裏側に入っているものの種類と個数が書かれておった。


 最初に入れたときはこんなもの書いてあったかのぅ?


 ボケが始まっているんじゃろうか?


 イヤじゃな……。



 個数があるということは在庫切れがあるということじゃ。


 持っている一粒を入れるとある一種類のコーヒー豆の個数が1増える。


 物は試しで一種類の在庫の少ないコーヒー豆を全て外に出す。


 最後の1つを取り出すと自動的に赤文字で在庫切れと表示された。


 やはり在庫切れという概念はあるようじゃ。


 数字だけが減らぬ、とか考えたりもしたんじゃがの……。



 買いに行かねばならんか。


 とはいえどこに売っておる?


 リットさんですら知らなかったものじゃぞ?


 ……目途が立たん以上は今あるもので作るしかあるまい。



 お天道様の茶会とやらで相談してみるかのう。



 他の食料も在庫を確かめる。


 わしの地下は巨大な冷凍室が食料庫のおよそ7割を占めておる。


 コーヒー豆や砂糖、塩、缶詰だけなら地下室の冷たい温度だけで十分なんじゃが、生鮮食品や乳製品、調味料なんかは冷凍室とその隣にあるこれまたデカい冷蔵庫に入っておる。


 ……入っておったはずなんじゃよ。


 ここに来て見覚えのある白い箱。


 先程のは両手で抱えられる程の大きさの箱じゃったのに対し、冷蔵庫のあったはずの場所には元の大きさと同じくらいの両開きの箱、冷凍室の扉があったはずの場所には白い箱すらなくただただ垂直に聳え立つ一枚の白く重々しい扉のみ。


 なんじゃこれ。


 冷蔵庫はまだ分かる。


 先ほどの箱と同じ仕組みなんじゃろう。


 右側の取っ手を引き恐る恐る開ける。


 これまた見覚えのある黒いドライアイス。


 手を突っ込むと引き開けた側の扉の裏に寸前まで入っていた食料や調味料のリストがずらりと並ぶ。



 しかし問題はこの白い扉。


 冷凍室があった場所はその扉を手前にして奥はガランと何もない。


 イメージが付き難いと思うが所謂猫型ロボットのピンクのドアじゃ。


 わしのは白じゃが。


 裏に回ってもどうということはない。


 冷凍室のあった場所に試しにゴミ袋を置いたが無くなるということもない。


 ただただ扉が立ってるだけだった。



「開けるかのぅ」



 意を決して扉に手をかける。


 すると握った箇所から淡い緑色の線が取っ手から扉にかけて走ったかと思うと、なんの力も必要なく開いた。


 中は普通の冷凍室らしい。


 元の空間がそのまま扉に張り付いているんじゃなかろうか。


 でなければこの超常現象に説明がつかぬ。


 少し恐怖もあったが完全に閉めても中からは開けられるようじゃ。



 冷凍庫の中身も何ら変わりはない。


 半年ほどの食料があった。


 となると問題点が一つ。


 この扉の位置じゃ。


 冷凍室があるならば扉があっても困りはせんが、扉のみがそこにあると流石に邪魔になる。


 この扉移動できんものかの……?


 わしは老いぼれじゃが若い頃には鍛えておった故そこらの爺さんよりかは力があると自負している。


 扉を両手で抱える。


 持ち上げる……エライ軽くないかこの扉。


 見た目とは裏腹に難なく持ち上がる扉。


 端の方に持って行き降ろす。



 わし、いつからこんなに力持ちになったんじゃ?


 そういえばさっきの小さな箱を持ち上げるときも腰は大丈夫じゃった。


 いつもなら痛みが迫り来るはずなんじゃが……。


 お天道様のご加護かのう?



 まあよいか。


 これで食糧難は無事じゃった。


 この世界に来て『自習屋』はまだ【close】のまま。


 準備ができ次第、明日ごろには開店できるかの。



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