4話
異世界二日目じゃ。
わしの『自習屋』は年齢層によって利用料を変えておったが、この異世界に来て変更すべきじゃろうか?
小学生ならタダ、中学生なら500円、高校生なら700円、大学生や成人以上なら1000円じゃったんじゃが、ここには貴族とやらもいるようだしのぅ。
料金価格は変更すべきじゃの。
子供がどこからどこまでになるのか分からんしのう。
年齢詐欺もあるだろうし……。
向こうでは年齢確認証があったが、こっちには戸籍というものがまだ出来てはおらん。
なんか利用者の年齢が分かるような道具は無いじゃろうか?
リットさんのところに置いてはいないかの…。
思い立ったが吉日。
来たぞ、商業ギルドに。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご利用ですか?」
「リットさんはいるかの?」
「ギ、ギルド長ですか?ご紹介状などはございますか?」
「無いとダメなのかの?」
「そうですね……。難しくなります」
受付嬢さんを困らせるわけにもいくまい。
伝言だけでもお願いしようかの。
「ではリットさんに伝言を頼めるかの?」
「え、ええ。なんでしょう?」
「店で使うため――「ああっ!!」――ぬ?」
「演吉さんじゃないですか!今から伺おうと思ってたんですよ!!」
「ギ、ギルド長っ!?」
「おお、リットさん。体は大事ないかの?」
「ええ、もうピンピンしてますよ。本日はどのような?」
「店で使うための道具についてちと相談をと思っての」
「そういうことなら、こちらへどうぞ。アリアさん、2番を使います。誰も入れないように」
「に、2番ですか!?わかりましたっ!!」
何かの隠語にでもなっているのじゃろうか?
それとこの娘はアリアさんというのか。
覚えておこうか。
「それで道具とは?どういった?」
「その前にわしにも用事があったんじゃないかの?」
「ああ、大したことじゃないですよ。そちらの要件が先です」
「そうかの?じゃあ……」
何故か目がキラキラしたリットさんにここに至った経緯を話す。
「……成程。年齢別にですか」
「そうなんじゃ、前住んでたところは証明書とかあったからどうにかなったものの、ここではそうもいかなくての…」
「わかりました。うちの魔道具を一つ差し上げます。それを使ってください」
「魔道具とは?」
「おや、魔道具を知らない?魔道具とは魔法の力を付与した物のことで、それは武器から町の街頭まで色んなところに使用されています。その中に鑑定の魔法を付与した水晶があるのでお譲りしようかと」
「それは流石に悪いじゃろ」
「いえいえ、これは演吉さんへの投資なのですよ」
「投資と言われてもわしはそこまで大した店はしておらんがのぅ」
「いえ、これは私の長年付き合ってきた勘によるものなので気にする必要はないですよ」
「くれるというなら貰うが…」
「それでいいのですよ。好意だと思ってください」
「あまりしっくりこんが、分かった。有難く使わせてもらうよ」
商人じゃからな、タダより怖いもんは無いというが……。
なにか嘘をついてるようにも見えんしな。
「はい!これの使い方は分かりますか?」
「どう使うんじゃ?これ」
「水晶に利用者の手を置いていただくとこちらにある水晶版に映し出される仕組みです。例えば私がやってみるとですね…」
◇◆◇
名前:リット・クレボルン
年齢:38
職業:商人
称号:王都商業ギルド長・王国創造者第一人者・黒の狸
◇◆◇
「こんな感じですね」
「ほう」
なんかすごい称号がついてるようじゃけどスルーしておこうかの。
「演吉さんもやってみますか?」
「ものは試しじゃの」
◇◆◇
名前:加藤演吉
年齢:72
職業:自習屋
称号:創造神の友・渡界者
◇◆◇
「演吉さん、やっぱり渡界者だったのですね」
「気づいておったのか?」
「ええ。創造神の友とは予想外でしたが……」
「それは済まぬな」
「いえいえ、謝る必要はないですよ。私の勘は正しかったと解りましたし」
「ならよいが」
これはそう易々と人に見られるべきではないの。
あまり良く思わないものも出てくるかもしれん。
その旨をリットさんに伝えると…。
「あ、それは大丈夫ですよ。この町の門番もあったように特定情報にしか反応しないように設定できますので」
「設定?」
「ええ、門番なら犯罪履歴、近衛兵なら身分証明、裁判なら全情報等々設定は様々ですよ。演吉さんは年齢だけと言いましたが、名前も分かった方が誰が利用してるか分かりやすいですよね?」
「ええ」
リットさんがそう言うがごとく直ぐに設定してくれた。
これで不安は解消されたの。
それよりリットさんの用事は何だったんじゃろうか?
「ありがとうございます。それよりわしへの用事とは?」
「そうでした。折角行っても演吉さんが居なければ意味がないので、受付だけでも人を雇ったらどうかと思いまして」
「そこはもうちょっとリピーターが増えてからにしたいと思っとります」
「そうですか…」
「すみません」
「いえ、気が早すぎましたかね。それと、これを」
「これは?」
向こうの時のクレジットカードの様じゃが?
こちらにはそのようなものを使っている様子はないし……。
「これは私に会うための許可証ですよ。受付に行ってこれを見せて頂ければ私と面会できるようになるので」
「何から何まで済まぬことを」
「いえいえ」
「わしの店に来たときはコーヒーでもご馳走しましょうか」
「こーひーですか?」
「豆から挽いた飲み物じゃよ、こちらには無いのか?」
「私は聞いたこと無いですね…。是非お願いします」
「分かったぞ」
その後リットさんと地球の話をしていたら夕方になってしまった。
水晶はハンドボールほどの大きさなので割れぬように気を付けて運ぶ。
今日一日付き合わせた形にはなってしまったが、あの人は暇なんじゃろうか?