3話
商業ギルドでリットさんに見送られてから家に帰るにはもう暫く時間が空いていた故、学園を見に来た。
大きい街の学園というだけあって校門は大きな門で塞がれている。
わしの身長を軽々と優に超える赤いレンガ塀と黒塗りの両開きの校門。
門付近には守衛室じゃろうか?
地球にいるような警備員ではなく上から下まで装備した者が立っておる。
これでは悪いことはできんな。
やるつもりなどないがの。
「お爺さん、ここに何か用っすか?」
「ここが魔法学園かな?」
「そうっすよ。ここはこの大陸最大の魔法学園っす」
「ここは魔法だけを学ぶのかの?」
「いえ、ここでは魔法を始めとして武道、基礎教育等色々なことが学べるっす。でも、主に貴族の寄付金で回ってるような他の学園とは違い、国から直接給与されているんで様々な方との交流も目的としてるって聞いたっす。まあ交流会とは名目上であって、貴族の社交場とも言えるんすけどね……」
「お、おいっ!!どこに聞かれているかわからないんだから下手なことは言うんじゃない!」
「す、すいませんっ」
「はは、聞かなかったことにしようかの」
「すみません、助かります」
日本の大学のように中に入って書物を見ることは難しそうじゃな。
魔法とやらが存在しているこの世界には出版技術も発達していないように見える。
わしの家にある本を売るだけでどれだけの価値があるんじゃろう……?
「図書室は一般開放してないのかの?」
「一般開放っすか?先輩知ってます?」
「それなら昔は期間限定でやってたらしいけどなぁ」
「昔とな」
「ああ、俺がここの門番に着いたのはもう3年になるが、その時の先輩の時にやってたと聞いたぐらいだからそんなに期待できるものでもないわな」
「そうなのか」
「あまり落ち込むなよ、爺さん。蔵書だけなら学園の図書室じゃなくてもこの町の図書館に行きゃあいい」
「どこにあるんじゃ?」
「ここの大通りをまっすぐ行くと噴水があるっすよね?その噴水を正面に右に曲がると商業施設、左に行くと冒険者ギルド、まっすぐ行くと貴族街になってるっす。だから右に曲がれば『本』の掛け看板が見えるのでそこっす」
「まあデカいからすぐわかると思うぜ」
「これはご親切に、すまんの」
門番さんらにお礼を言って言われた道を進む。
噴水広場には屋台があるようだ。
商業ギルドへの道を教えてくれた親父さんがいる屋台とはまた別でバザーっぽいのう、こちらは。
「お爺さん、見ない顔だね」
「ほ?わしか?」
「そうそう。ちょっと客引きに声を掛けさせてもらったよ。どこに行く途中?」
頭にどこかの民族衣装っぽい緑のターバンを巻き目の細い人当たりのよさそうな青年じゃ。
売り物はアクセサリーだの。
わしはアクセサリーなぞ付けたことがないんじゃがな……。
「図書館じゃよ」
「そうなんだ。あそこは入るのに銀貨1枚必要だよ。貴重な本だからね、壊すと大変だから」
「入館料も兼ねておるのか?」
「入館は発行書があればいつでも入れるようになるから、発行する人はその銀貨で作ってもらうことが多いよ。発行書があると本を壊してもどこの誰かわかるようになる代わりに、壊さなければ色んな機能を利用する分には助かるし気にしなくていい」
「色んな機能とは何があるんじゃ?」
「それは向こう行ってからまた教えてくれるよ」
「そうじゃな」
この町の人は親切な人が多いというか、年寄りに優しいというか良い街じゃな。
本の掛け看板…。
ここかのう?
「こんにちは、本日はどのようなご利用ですか?」
「こんにちは、発行書を発行してほしいんじゃが…」
「かしこまりました。銀貨1枚掛かりますがよろしいですか?」
「構わんよ」
「少々お待ちください。こちらの空いている箇所に記入していただけますか?」
「わかった」
成程、名前と住所を記入するわけか。
これは逃げられんの。
逃げるつもりなどないが。
「これでよいか?」
「はい、ありがとうございます。ではこちらになります。ここにいらっしゃる場合は必ずご提示ください。続けて発行書お持ちの方へ様々な機能がございます。ご説明しましょうか?」
「頼む」
「この王立図書館でできることは大きく分けて三つ。一つ目はそちらのドアの向こう以外の約5万冊の蔵書が閲覧可能ということ、二つ目に係員にお客様の好きな本をおっしゃって頂ければ3日程で写本しお渡しすることができます。発行書をお持ちでなければ銀貨1枚掛かりますのでご了承ください。最後に三つ目はエント国であればどこの図書館でも利用できます。説明は以上になります。ご質問等はございますか?」
「確認なんじゃが、写本は量によって早い遅いがあるんじゃろう?」
「勿論ございますが、王立図書館では写本士という職業の方が製作するので大抵は3日で完成致します」
「あと、そこのドアに入れん理由はなんじゃ?そこに入ろうとしたら許可がいるのかの?」
「そうですね、ここは禁書庫となっていますので国王の許可証が必要になります。私たちでも入れるのはお一方しかおりません」
「そんなものがあるのかの。まあ利用することは無いじゃろうな……」
「それが第一です」
「それとここはいつまで開いとるんじゃ?」
「この王立図書館は2番目のの青の鐘から赤の鐘最後までです」
この町には青と赤の鐘が大雑把な時間を表しとる。
青の鐘は午前に4回、赤の鐘は午後に4回。
正午は青と赤両方鳴るそうじゃ。
青の方が高く、赤の方は低い。
鳴ればわかるが何時頃かは分からぬので回数を覚える必要があるみたいじゃな。
わしはばあさんから貰った腕時計があるから必要ないがの。
自動巻き取り式のやつじゃよ。
「ありがとうの」
「いえ、これも仕事一つなので。何の本をお探しですか?」
「いや、今日は立ち寄っただけなんじゃよ」
「そうですか…。また機会があればいつでも」
「そうしようかの。あ、そうじゃ、わしこういう店をやっていての」
「はあ。自習屋…?成程……うちの写本士にも言っておきます」
「頼むの、ではまた来るわい」
「ありがとうございました」
王立図書館を後にすると、空が赤焼けになっておる。
散歩はここまでじゃな。
なんとも楽しい場所じゃな。