そうだ今日から始めよう
自分を特別な者と自称し厄災を振りまくその精神異常者達は自らの力を【チート】と名付けた。
こんな話を聞いた事があるのではなかろうか?
『 隣の家のニートが大賢者だった 』
『 別世界からレベル完スト剣士が現れた 』
『 魔王の正体は友人の妹だった 』
『 冴えない男が異世界で神様になれた 』
『 若者の奇行に歓喜し唐突に宴を始める村人達 』
『 若者の奇行に過剰反応する奇病を患う取り巻き 』
思い返してみれば、いつしか私の周囲にはソレが当然のように在った。
いつからであろうか?この明らかな異常が日常となってしまったのは。
今は一歩外に出ればそれが日常であり、何も無い退屈な日常が異常になってしまった。
何の変哲も無い日々、平穏で抑揚の無い日常、それがこの世界だ。
日々生きる為に働き、そして死んでいく、死ぬまでに何を遺すかが大事。
そんな人生。
病気で死んでしまう人、魔物に捕食され死んでしまう人、雨乞いの生贄に選ばれてしまう人
死の理由は皆違えど、人々は普通に生きて普通に死んでいくのだ。
普通の世界で、普通の町で、普通に生きている住人、それが私だ、私だったのだ。
溜息が止まらない、延々と溢れ出る黒い溜息が止まらない。
2年前、この町に転生者を自称する精神異常者があらわれた。
アレが現れると病気が蔓延する、アレは住人達の日常価値観思考を犯し破壊し洗脳してまわる。
私の弟がアレと関わってしまった。
私の弟はどうやら回復支援スキルが使えるらしい、無職なのに回復支援スキルが使えるらしい。
それはおかしい事なのだ、【スキル】なんてモノは言ってしまえば技術施術なのだ。
学問に取り組み、訓練を重ね習得するモノであって、突発的に使えるものではけしてない。
人体に対して並々ならぬ関心と知識、それに従事し認められ、正当な医療手術が行える。
伝承や逸話はあれど、この世界に魔法なんてものは無い、その見解は今でも変えるつもりはない。
巷で出回る魔法やスキル、私はそれらを【詐欺】だと思っている。
黒く重い溜息、それが私を覆う。
私の弟は手をかざすだけで回復支援スキルが使える才能があったらしい。
アレに関わった事で才能が開花したらしい。
私の弟はアレに関わった事で変わってしまった。
この町の医者を社会的に抹殺してしまった。
無自覚の差別主義に目覚めてしまった。
私の弟はアレに関わった事で異端を広げた罪人として殺されてしまった。
黒く重い溜息、それが私を覆い、黒く澱んだ想いに変わる。
どうしてくれようか?アレらはまだこの国で病原を布教して回っているらしい。
どうしてくれようか?アレらは自らが撒き散らしたモノに無自覚らしい。
どうしてくれようか?殺した方がよいのではなかろうか?
この惨みを、どうしてくれようか?
アレらはこの町、この国、この世界を【異世界】と呼ぶらしい。
この点に関しては同情するしかない、不憫だとも思う、アレらは正真正銘の病人なのだ。
そうだこうしよう。
『この世界の不憫なチーター達を、一人ずつ元の世界のに還してあげよう』