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聖典の壁歴  作者: Lamducks
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第4話

 

 玄関のチャイムが鳴らされた。


「ん、誰だ?」


 丁度いい、リビングにいるであろう涼太には先に部屋へ入っておいて貰おう。


 廊下を歩きリビングへ向かう。


「お、もう大丈夫なのかな?」


 ドアを開けると、それに反応して視界の丁度前のソファに座っていた涼太が立ち上がるのが見えた。


「ああ、しっかり服を着せておいたから安心してくれ」


「そうか、じゃあ部屋で待たせてもらうよ」


 すれ違いにスタスタと親の部屋へ向かう涼太を見送り、反対側のドアを開け玄関へ向かう。


「はいはい、どちら様?」


 玄関の黒い扉の磨りガラス越しに、一人佇んでいる姿を確認出来た。

 ドアを開け、訊ねる。が、返事が返ってくる前に誰かわかってしまった。


 だって目の前に立っていたのは--


「おはよう、英利ひでとしっ!」


 もう一人の幼馴染、奏田かなたはるかだったからだ。

 金髪ツインテールを風にたなびかせて笑顔で挨拶する遥を見、俺も自然と笑みを浮かべる。


「ああ、おはよう遥。どうしたんだ? 今日はそっちも休みだろ?」


「うん、だから、久しぶりに英利と遊ぼうかと思って」


「卒論はどうしたんだよ。俺んとこよりレベル高いから大変だろう?」


 幼馴染なだけあって家が近所なのだが、ここしばらくは会えていなかった。遥も俺も大学が家から近いため、自転車で通っている。ただ、逆方向なことに加え通学時間帯もバラバラなため、大学生になってから、約束をして遊ぼうとしなかったら中々会えなくなったのだ。

 それに四年生になってから卒論の研究・執筆もしなければならなくなった。余計と会う時間が減ったのだ。ビデオ電話やトークアプリで交流は続けていたが、こうして面と向かって顔を合わせるのは二ヶ月ぶりくらいか?


「もう終わったよ?」


「はい?」


「もう終わったよ?」


「ま、マジで?」


「うん!」


 ニコちゃんマークも顔負けな、太陽のような輝く笑顔で返事をする遥。


「だって、その……」


「うん?」


「英利に逢いたかったし……」


 彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめ横にそらす。


「お、おう、そうか……なんか、嬉しいな、ははっ」


 俺は頬を指で描く。

 遥とは去年から恋人……まではいかないまでも、幼馴染以上恋人未満な関係だ。来年、無事卒業と就職が出来たら正式に付き合うと返事をしてある。


「とりあえず……ぎゅっ、して?」


「あ、ああ。そうだな」


 恋人未満になってからまだキスもしていないが、遥はよくスキンシップという名のボディタッチを求めてくる。


 遥の華奢な体を痛くないように優しく抱きしめる。出るところは出ており更に柔かく、いい匂いもする。ツインテールが風になびいて頬にあたりくすぐったい。

 遥も、俺の背中に手を回してきた。


「もっと……」


「こ、こうか?」


 互いに少し腕に力を込める。


「あっ」


 すると、ピクリと体を震わせた。


「ご、ごめん、痛かったか?」


 すぐに緩める。だが、遥の方は縋るように更に力を込めてきた。


「ううん、幸せで頭がピリピリってなったの。大丈夫だよ」


「そうか」


 そんなことを言われると恥ずかしくなるな。

 また力を込め、抱きしめ合う俺たち。


「英利……」


 遥が目をつぶり顔を近づけてくる。


「それは駄目だ」


 しかし、唇と唇が当たる直前、俺の手で塞がれた。


「むう、なんで?」


「言っただろ、恋人になるまではそういうのはナシだってさ」


「今更じゃないっ、なに、恥ずかしいの?」


「そ、それもあるっちゃあるが……けじめ、だからな。俺の心に決めてるんだ。だから、もう少し待ってほしい」


「……わかった、とりあえず、家に入れてくれない? 後ろからの視線が痛いのよ」


 俺の背中から手を離したため、こちらも遥を解放する。


「は?」


 咄嗟に後ろを振り向く。すると


「ぶー!」


 柚子がふくれっ面で俺たちのことを見ていた。


「あ、柚子ちゃん! 久しぶりだね!」


「ひ、久しぶりじゃないー! なんで玄関先でイチャイチャしてるの!?」


 グーを体の横で下に向けるようにして腕を伸ばし、ムキーッと歯を見せて威嚇する。


「何でって……なあ?」


「ねえ?」


 幼馴染だし?


「も、もう、知らないっ! 早く部屋に来て、涼太さんも待ってるからっ!」


「ああ、そうだったな」


 押しかけてきたとはいえ、少し待たせすぎたか。


「え、涼太くんも来てるの?」


「ああ、そうなんだ。仕事ほっぽりだしてな」


「あはは、涼太くんらしいじゃない」


「見た目は真面目くんなんだけどなあ、あいつ……やっぱイケメンは滅びろ」


 某アニマルな林が如く蜂に刺されて仕舞えばいいのに。


「私にとっては……英利が世界で一番イケメンだよ?」


「遥……」


 ああ、やっぱり良い子だなあ……幼馴染・・・想いだ。


「もうなんでそうなるのー!? 早く、早くっ!」


「わ、わかったから引っ張るなって」


 互いの肩に手を置いた俺たちを見て、柚子がまた怒ってしまった。俺の腕を引っ張り遥から離そうとする。


「柚子ちゃんは昔から本当にお兄ちゃんのことが好きなんだねえ〜」


 遥は余裕の表情でそう言う。


「当たり前っ。お兄ちゃんは世界一のお兄ちゃんなんだもん」


 なんだそりゃ?


「とにかく、いこうよ」


「ああ」


 柚子の手を振り払い、遥の腰に手をやり家の中へ案内する。





「何も変わってないね」


 キョロキョロとリビングを見渡す遥。


「そりゃ、しばらく会っていないと言っても2、3ヶ月だからな。うちは季節感を出すような気概もないし」


 もう秋も中頃だが、金だけは無駄にあるため空調もつけっぱなしだし、料理は俺がするしメニューもあまり変わらない。

 家にいて季節ごとに変わるのは、外の景色くらいか。


 その点、遥は流行に敏感、悪く言えばミーハーだ。


 四季に合わせたコーデは勿論、桜の木やカボチャ、クリスマスツリーなどをミニサイズで手作りするし、編み物も得意だ。

 今日の格好も、スカートは少し短めなものの、今流行りの女物ジャケットに英字が書かれたブランドもののシャツ、バックには可愛いかぼちゃのお化けのキーホルダーが付けられている。


「さ、部屋にいこっ」


 今度は俺のことをエスコートし、遥が俺の自室へ向かう。しばらく来ていないものの、場所は覚えていたようだ。



「やあ、おかえり」


 扉が開くと、涼太が何故か俺のベッドに寝転がっていた。






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